ウクライナ戦争をめぐる対露制裁の一環として、最後まで躊躇していた〝金融の核爆弾〟といわれるSWIFT国際金融メッセージ・システムについて、米欧主要同盟諸国が26日夕、再度の緊急協議の結果、一転して「ロシア締め出し」を決定した。ロシア金融界にとって致命的ダメージともなりかねない。
ホワイトハウスは26日夕(現地時間)、米国、欧州委員会、英独仏伊およびカナダ各国政府による共同声明を急遽発表、この中で「米国は、中央銀行を含むロシアの特定の銀行(複数)をSWIFTシステムから除外することにした。これによってロシアの銀行は国際的金融取引から切り離され、グローバルな業務能力にダメージを受けることになるだろう」と述べた。
バイデン大統領は24日の記者会見で、「欧州同盟諸国の反対」を理由として、SWIFT制裁の当面見送りを発表したばかりだった。
しかし、その後、ロシア軍がウクライナに対する軍事作戦を本格化させ、首都キエフ・主要都市への攻撃も激化してきた事態を踏まえ、欧州主要国との再度の協議の上、ロシア制裁の最後の手段とされていたSWIFT制裁措置に踏み切ったものだ。
イラン制裁時にも実施
共同声明は以下のように述べている:
1.ロシアが侵略行為をやめることなく、引き続き首都キエフその他のウクライナ諸都市に対する攻撃を行っている現状に鑑み、われわれはロシアをさらに国際金融システムおよび国際経済から孤立化させる決断を下した。
2.その第1弾として、ロシア銀行(複数)をSWIFT金融メッセージ・システムから締め出すとともに、今後、確実にこれらの銀行を国際金融取引から切り離し、グローバルな業務展開能力を棄損させることをめざす。
3.ロシア中央銀行が、われわれの科す制裁効果の減殺手段として外貨準備に頼ることのないよう、防止措置をとる。
4.われわれは、ウクライナ戦争に加担するロシア市民、団体に対する対抗措置をとることを決意し、とくに、ロシア政府と深いかかわりのある富裕ロシア人が〝ゴールデン・パスポート〟とされる市民権ビザを使用して欧米との二重市民として西側金融システムにアクセスできないようにする。
5.すでに制裁を科しているロシア首脳に加え、あらたにロシア政府高官、エリート階層及びその家族を慎重にリストアップした上、彼らが海外に所有する資産を凍結する。
米政府当局者は、このうちとくに対露SWIFT締め出し措置について、「ロシア中央銀行による自国通貨ルーブル防衛が困難になる」との見通しを述べた上で、「これはいわゆる〝イラン・モデル〟である」と説明している。
〝イラン・モデル〟とは、去る2012年、イランが核開発計画に着手したのを受けて、米欧主要国が制裁措置として、同国をSWIFTシステムから除外したケースを指す。この結果、イランは、原油収入のおよそ半分、対外貿易収入全体の3分の1を失ったといわれる。
〝金融の核爆弾〟と揶揄されるゆえんだ。
イランはこの制裁で大打撃を受けたのを受けて、15年には、核開発計画の「一時凍結」に合意したため、締め出されていたSWIFTシステムへの再加入が認められた経緯がある。
自国経済への影響懸念も国際世論に抗しきれず
こうした過去の例を踏まえ、ゼレンスキー大統領、クレバ外相らウクライナ政府首脳は、ウクライナ危機打開策の重要措置として、SWIFT制裁に踏み切るよう、欧米主要国に繰り返しアピールしてきた。
これに対し、これまでエネルギー関連取引を通じ、とくにロシアとの関係が強いドイツおよびイタリアが、自国経済への影響が大きいとして、ぎりぎりまで反対の態度をとり続けてきた。しかし、今回の危機が本格的なウクライナ戦争にまでエスカレートしてきた以上、沸騰する対露非難の国際世論に抗しきれず、両国とも26日になって従来の主張を翻し、他の欧米諸国との共同歩調に踏み切った。
米国でも、これまでウォール街が①すでに過熱気味の物価上昇を一段と押し上げることになる②ロシアを困窮に追い込むことで中国により接近させる③ロシアをSWIFTに代わる他の金融システムに走らせる結果、ドル優位性が減退する――などを理由として、現段階でのSWIFT制裁には慎重姿勢を示していた。
ルーブル大幅下落の影響大
では実際に今回の制裁措置は、ロシアにどのような影響を及ぼすことになるのか。
ワシントン・ポスト紙の解説によると、ロシアは去る14年、クリミア併合に踏み切った当時、英仏などの一部欧州諸国が対露制裁を呼びかけたのを受けて、それ以来、SWIFT締め出しの可能性を念頭に対応策を練ってきたという。
その一つが、SWIFTに代わる「金融メッセージ融通システムSystem for Tranafer of Financial Messages」と呼ばれる構想だった。この制度は実際に始動しているものの、専門家の指摘によると、決して満足のいくものではなく、例えば、20年末時点で、参加者は、23カ国、400機関にとどまっており、グローバルな金融ネットワークとは程遠い弱小システムにとどまっているという。
これに対し、SWIFTには、世界200カ国以上、1万1000以上の銀行・金融機関が加入しており、事実上、唯一のグローバル金融決済システムとなっている。
米政府のデータによると、今回SWIFT制裁の対象となったロシア主要銀行による1日あたりの外貨取引額は460億ドル(約5兆円)にも達しており、このうちの80%がドル決済だとされる。
この結果、欧州主要国および日本などの諸国は、ロシアからの石油、天然ガス輸入代金支払いをすべてドル通貨に依存しているため、今回の新たなSWIFT制裁によって、ロシアへの代金支払いが事実上、ストップすることになる。
このため、ロシアとしては対応策として、中国ウォンでの国際決済を模索することになるが、混乱は避けられず、今後、ロシア財政を直撃することは間違いない。
また、ロシアの富裕階層や会社組織が今後、取引のための欧米通貨へのアクセスを絶たれることで、ロシア・ルーブルは大幅下落を招く。ルーブル下落によって輸入物価が急騰、ロシア市民が犠牲を強いられることになる。ルーブルはすでに25日時点で、「記録的低落」状態にある。
ロシアはどう耐えていくのか
一方、バイデン大統領は、SWIFT制裁に先立つ去る24日の会見で「これまで科してきたさまざまな対露制裁の効果が現れて来るには少し時間を要するだろう。1~2カ月後により具体的な効果を評価することになる」と語っていた。
しかし、今回〝金融の核爆弾〟使用に踏み切ったことで、その効果が表れるのも時間の問題となってきた。
この点について、米財務省外国資産管理部長の要職にあったチャーリー・スティール氏は「ロシアは今日、どっぷり世界経済に組み込まれている。今回の措置を受けて、米国の経済パワーの真骨頂ぶりがどれだけのものか、そして、ロシアがそれにどれだけ耐えられるかを注目していく必要がある」と論評している。
果たして、西側諸国のこの大胆な制裁措置に直面したのを受けて、プーチン大統領が次にどのような手を打ち出すことになるのか、極めて重大な局面を迎えている。