衆院選 元官僚が政党の公約比較 – 宇佐美典也

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元経産省官僚の宇佐美典也さんに「私が○○を××な理由」を、参考になる書籍を紹介しながら綴ってもらう連載。今回は第49回衆議院選挙が19日公示されたことを受けて、特別編として宇佐美さんに各政党公約を読んで寸評をお願いしました。

いよいよ衆議院選挙が始まった。

選挙というと堅苦しく考えがちだが、与えられた手持ちの1票を消費していずれかの候補者、政党を選択して日本の政治を託すという意味で、金融商品などの購買行動に近く、実際そういう消費分析的な観点で実証的な研究もなされている。

「いわば有権者は消費者であり政党は企業。政策(マニフェスト)が商品で票がお金と考えれば、まさに票と政策の交換であり、消費者の購買行動と有権者の投票行為が重なってみえます。」(「あたかも消費者がモノを買うように投票する有権者」 一橋大学大学院社会学研究科教授・中北浩爾氏)

となれば有権者は投票をする前に“商品”をよく知っておいた方が後々後悔することが少ないだろう。

政党を選ぶ比例代表は公約の評価が軸

写真AC

我が国の衆院選は小選挙区比例代表制なわけで、小選挙区で政治家を選び、比例代表では政党を選ぶことになる。政治家を選ぶには、例えばその人格や経歴も含め人間を総合的に評価することもできるが、政党を選ぶとなると公約を評価することが軸になると言ってもいいだろう。

ただ公約の内容というのは多岐にわたるわけで、その全てを具に見て適切に評価するのは難しいのだが、よくよく考えればそもそもそんな必要はない。あくまで選択肢の中から「私にとって良い党」を見つければ十分なので、自分にとっての良し悪しを評価できれば十分である。

そんなわけでこれから私は各党の公約を、自分なりにいくつかの軸を設定して、なるべく客観的に評価しようとしているわけであるが、たとえ客観的であってもその評価軸の設定自体が偏っており、もしかして中立的というわけにはいかないのかもしれない。ただまぁその内容、やり方も含めなんらか皆様の参考になるだろうと思うので、こうして紹介するのも無駄ではないだろう。

ということで前置きが長くなったが、今回の衆院選で各党の公約を評価するにあたって設定した軸は以下の3つである。

① 再生エネルギーや原発をめぐるエネルギー政策に対するスタンス
→脱原発型(再エネ重視)か、バランス型(現状の延長)か、原発新設型か

② 経済財政に対するスタンス
→積極財政/分配重視か、財政均衡/民間活力重視か

③ 安保政策に対するスタンス
→集団的自衛権を認めるか、敵基地攻撃能力を認めるか

それぞれ①に関しては国際的に「脱炭素」への機運が高まる一方で急ぎすぎた欧州や中国でエネルギー危機が起きており脱炭素とエネルギー供給の安定性の両立に難しい舵取りが求められるようになってきていること、
②については当面のコロナ禍で生じている経済社会問題への対応と政府運営の持続可能性を両立させるためには経済財政政策の見直しが必要になってきていること、
③については我が国の領土保全のためには軍拡を続ける中国の脅威にどう立ち向かうか考える必要があること、から選んだものである。

各党の公約を評価した結果が以下のとおりである。

・少なくとも短期的には財政均衡を志向する政党はいない。
・自民党と公明党の間には安保政策で若干の距離がある。
・一方野党共闘陣営はエネルギー政策では一致しているが、れいわの積極財政路線、共産党の安保政策は独自路線を行っている。
・国民民主党はエネルギー政策で消極的ながら、原発の利用を容認している点で野党共闘政党と距離がある。
・維新は小型原子炉推進に対して最も積極的なスタンスを取っている。

以下それぞれの政党の公約に対する寸評をまとめるので参考にされたい。

①エネルギー政策

AP

自民:バランス型だが、政策パンフレットから「再生可能エネルギー」の文字が消え、他方で原発再稼働、核融合開発が明記されるなど、菅政権に比べてやや原発推進に振れた。

※1. 原子力、水素を含むあらゆる選択肢を追求する「クリーンエネルギー戦略」に集約。
※2. 令和3年政策BANKでは「2030年目標に向けて、再生可能エネルギーを最大限導入し、主力電源化します」と記載。

公明:バランス型だが、従来からの主張通り「原子力発電に代わる再エネを最優先の原則のもとで最大限導入し、原発の依存度を着実に低減するとともに、原発の新設を認めず」として、自民党と若干の距離が開き始めている。これに配慮してか、重点政策集にはエネルギー政策に関する記載が乏しい。

立民:「原発に依存しないカーボンニュートラル」を前面に押し出し、2030年に自然エネルギー電力50%、2050年に自然エネルギー電力100%を目指すとする。

国民:原子力に関しては新増設を認めないが、消極的ながらも当面の利用は認めるとし、立憲民主党とは距離がある。

共産:「石炭火力から脱却し、原発のない脱炭素社会を追求する」ことを目指し、2030年までに石炭火力と原子力発電の発電量はゼロとするとしている。

れいわ:原発は即時廃炉し、「自然エネルギー100%の社会を2050年までに実現」すると主張。

社民:「脱炭素は脱原発とセット」として原発ゼロを掲げ、「2050年には自然エネルギー100%の実現」を目指すとする。

維新:「既設原発は市場原理の下でフェードアウトを目指し、国内発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合を拡大させ」、他方で「廃炉技術の伝承と使用済み核燃料の有毒性低減のため、小型高速炉など次世代原子炉の研究を強化・継続」するとしている。相対的ではあるが原発については最も前向きなスタンスを示している。

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