ワークマンにはフランチャイズ制度のほかに、「店長候補社員」という、店舗運営ノウハウを学ぶための社員研修制度がある。店長として店を引き継ぐと、1年目から年収1000万円を超えるケースも多いという。一体どのような仕組みなのか――。
※本稿は、土屋哲雄『ホワイトフランチャイズ』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
ワークマン 三田店(写真=Mti/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)
年収1000万円超えも狙える「店長候補社員」
ワークマンには「店長候補(契約)社員」を募集する制度がある。
最長2年間、契約社員として直営店などで店舗運営のノウハウを学んだのちに加盟する流れになり、その際には基本的に優良店を引き継ぐことになる。そのため加盟初年度から1000万円以上の年収となる公算も大きい。
2014年に始まったこの制度の一期生3人のうちのひとりが周東慶和さん(45歳)だ。約1年間の研修後、埼玉県のワークマン新座野火止店の店長になっている。この店舗は当時、約2億円の売上げがあった全国でもトップクラスの優良店だった。
周東さんは振り返る。
「それまでは運送業界に長くいたんですが、管理職になって経営にも興味をもつようになっていたんです。そういうなかでこの募集があるのを知って応募しました」
20代のときにもワークマンの経営に興味をもったことがあったそうだが、そのときは応募にまではいたらなかった。それから10年以上が経ち、まもなく40歳になるというタイミングで決断したわけだ。
審査が通ることに不安はあったが…
「この頃はふたり目の子が生まれたばかりだったんですけど、ワークマンを選んだ不安はなかったですね。ブームの前でも、手堅い商売という印象があったからです。運送業界にいた頃から客の立場でお店は利用していました。不安といえば、審査が通るかということと、それまでとは畑違いの仕事になるのでやっていけるのかということのほうでした。でもまあ、まだ若いから、採ってもらえたならなんとかなるだろうという感覚でしたね」
募集段階では全国各地の直営店舗で経験を積むことになっていたが、周東さんの場合は最初から新座野火止店の研修に入った。
自分でも「家族がいるので、全国というより関東の店舗を回ることになるのではないか」と考えていたそうだ。その予想は当たったどころではなかった。結果的には新座野火止店しか知らないまま店長になっている。
「同期はみんな独身だったので、やっぱり、あっちこっちの店舗に行ってました。いろんなところで仕事ができるということで、うらやましく感じるところもあったんですけど、ずっと同じ店舗になった自分もよかったと思っています。
1年間、当時のマネージャーから教えてもらえることになったのもありがたかったですね。そのマネージャーはいま、本部の重要なポジションに就いてるんですが、当時は、こういう人がマネージャーになっている会社ってすごいな、というふうに感じていました。このときの新座野火止店には社員が3人くらいいたので、いろいろな話や意見が聞けて、その点でも勉強になりました」
研修店舗の野火止店を引き継いだ理由
研修期間中は契約社員としての給料制になる。周東さんの場合、「前職に比べれば収入は落ちたけれど、生活には何の問題もない額だった」と話している。
2021年時点のおよその基準でいえば、30代で配偶者がいれば、手当込みで研修期間の年収は550万円ほどになる。
「契約社員でいる期間は最長2年間ということでしたが、1年後に“加盟してはどうか”という話になったんです。自分としては、このまま野火止店を引き継げればいいな、とは思っていたんです。自宅から近くて、売上げが高く、パートさんやお客さんとの関係も良くなっていたからです。実際にそうなったんだから嬉しかったですね」
この制度では、どの店舗を引き継ぐかは、本人とも相談のうえ決めることになっている。希望が通ることもあれば、希望に添えないこともあるが、基本的に売上げ1.5億円以上ある優良店のなかから選ばれる。
※写真はイメージです – 写真=iStock.com/fcafotodigital
誰もが必ず加盟できるわけではない
「同期みんなが集められて、『候補としてはこれらの店舗がありますが、加盟はどうですか』みたいな話があったんです。僕に限らず、みんなが納得のいく店舗の店長になれたように思います」
実をいうと、一期生のうちひとりはワークマン側の判断によって加盟が見送られている。研修期間中の態度に問題があったからだ。店長候補社員になれば、必ず店舗を任されるわけではないということだ。
加盟時に保証金や開店手数料、加盟金が必要となるのは通常どおりだ。ただし、すでに研修を受けているので研修費は免除される。
新規オープン店の場合、夢がある一方、少なからず不安をかかえることになるのに対し、最初から売上げ1.5億円以上の実績がある店舗のオーナーになれるのは大きい。売上げを落とさなければ高収入を見込みやすい。
店内在庫を買い取るワークマンのシステム
年収については店長の考え方によっても左右される部分である。
ワークマンでは店内在庫をオーナーが買い取るシステムを取っている。店をやめるときには在庫が買い戻されるので“積み立て預金”のようなものだと考えてもいい。平均的な在庫の総額は原価で約2240万円(店舗での販売価格で約3500万円)となる。
買取り金を本部から借り入れた場合、金利の支払いは別にして、元本の返済をどうしていくかは本人次第だ。できるだけ早く返済したいと考えるか、ゆっくり返済していこうと考えるか。それによっても月々に手にできる金額は変わってくる。周東さんがどうだったかといえば……。
「僕は買取り金の返済もそれなりの早さで進めていったんです。やめるときには店内在庫を買い戻してくれるので、返済が済んでいれば、まとまった額を受け取れますよね。会社勤めの感覚でいうなら、退職金がわりのようにもなるといえます。僕の場合は銀行に返済していく方法に変えていて、いまもできるだけ早く返せるようにとがんばっています。うちより売上げが低くても、店長の収入が多い店もあるようなので、そのあたりも含めての考え方次第なんでしょうね」
年収も働き方も「自分で決める」
「人件費もそうです。ある程度、人件費を使っても、いい売り場を維持していきたいという考え方です。そのほうが長い目で見たアベレージは高くなるんじゃないかなと思っているからです。
店長ひとりでがんばって、なんでもかんでもやりますってところは実入りがいいかもしれないけど、体を壊してしまうことだってあるかもしれない。そこら辺のバランスを自分で選べるというのはありがたいことだと思っています。僕にしても、今現在でいえば、ちょっと働きすぎになっているところがあるんですよ。うちにいたスタッフが一人、独立して別の店舗に加盟したので、その分を埋めていく必要があるからなんです」
休みをあまり取らず、長時間働きがちな店長もたしかにいる。しかし、そういう店長たちも、自分たちの労働環境がブラックだとは感じていない場合が多いようだと話してみると、周東さんも頷いた。
小売業なのに休みの取り方も自由
「それはきっとそうでしょうね。サラリーマンの人が、ひとりで店をやれって言われたら、ん? ってなるでしょうけど。僕たち店長は、何かに縛られているわけではないですから。ちゃんと店を開けてちゃんと閉めて、任せられる人がいたら任せちゃうのもありだし、僕自身、そっちのほうが合ってる気がしています。繁忙期とか勝負時になったら店にカンヅメになって売り場をつくったりすることもあるんですけど、逆に閑散期もあるのでバランスを取りながらやってる感じです」
現在、周東さんは毎週日曜に休みを取るようにしている。野火止店もやはり日曜日に一般客が増えるが、平日に比べて、仕入れの処理などのオペレーションがシンプルになるのでスタッフに任せやすいからだという。
「連休を取りたいと思うなら、その分、人を入れればいいだけですからね。決められていることより、自分で決められることのほうが多いというのはやっぱりいいですよ」