ラーメン評論家 なぜ上から目線? – 御田寺圭

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インターネットの一部界隈が大きな騒動に包まれていた。

そのきっかけは、女性店主が経営する人気ラーメン店について、店主本人がツイッターで「ラーメン評論家出禁」を宣言したことだ。

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「ラーメン評論家出禁」を宣言したのは、神奈川県鎌倉市にある「中華蕎麦 沙羅善」などを経営する梅澤愛優香氏である。元アイドルという異色の経歴からラーメン業界への進出を果たしたことで大きな話題を集めたことでも知られる。氏が経営する店は連日多くの客でにぎわっている。

梅澤氏は先日、ネットのいわゆる「ラーメンオタク」から「反社とつながりがある」などと関係先に虚偽の事実を吹聴されて大きな被害をうけ、加害者を提訴したことでも大きな話題となっていた(注1)。今回の「出禁宣言」はその件とは直截的なかかわりはないものの、ラーメンの蘊蓄(うんちく)を語りたがったり、訳知り顔であれこれと上から目線で物申したがったりする一部のラーメンマニアにはほとほと嫌気が差していたようである。

梅澤氏の「出禁宣言」に対して「ラーメンオタク」や「ラーメン評論家」の界隈からは戸惑いの声があがっていたようだ。

本来、食べ手には上下も優劣もない。

ラーメン評論家はメディアでラーメンについての発信ができる存在ではあるが、食べ手のひとりであることには変わりはない。その中で店主へのマウンティングがあったとしたらそれは大きな問題である。

今回の件で、実際どんなマウンティングやセクハラ行為があったかはわからない。が、それが当事者個々人の中では解決せず、SNSを通じて公に発信され、「ラーメン評論家」という職業自体が悪者になってしまったことは、ラーメン業界にとって大変残念なことである。

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井出隊長『「ラーメン評論家の入店お断りします」あまりに悲しいTweetで見えてきた作り手と食べ手の分厚い壁』(2021年9月24日)より引用
https://news.yahoo.co.jp/byline/idetaicho/20210924-00259840

評論家の用いる「食べ手」というあまり聞きなじみのないワードは、要するに「ラーメンというのは単なる料理ではなくひとつのジャンルであり、作る側だけではなくて、実際にそのラーメンを食べて味を見極める側がいてこそ成立している」という、単なる「客」を超えた連帯意識をかれらが持っていることを示唆しているのだろう。

写真AC

だからこそ今回の梅澤氏による「出禁宣言」は衝撃だったようだ。というのも「わざわざ親切心で評論や助言を行って業界の発展に貢献してきた自分たちは、作り手と同等の仲間であり、感謝されることはあれど、まさか拒絶されるなどありえないしあってはならない」と思っていたからだ。残念ながら「作り手側と対等の存在として、その店だけでなく業界全体をけん引してきた」という自負心やそれに基づく独善的な行動が、梅澤氏にはあまりにも受け入れがたかったということなのだろう。

梅澤氏の元にもまたすぐに第二、第三の評論家が現れる

本件では「セクハラ加害者」として示唆されていた人物からの「釈明文」が本人のブログで公開された。(注2)やたらと長く、なにを述べたいのかよくわからない文章であるものの、少なくともセクハラ行為について反省せず居直っているかのようなことだけは伝わってくるものであった。案の定この「釈明文」で自体が収拾するわけもなく、かえって火に油を注ぐ結果になっている。

加害者とされた人物は「このままではラーメン評論家全体のイメージが悪化するから」という「漢気(おとこぎ)」で名乗り出たつもりだったのかもしれない。しかしながら本件によって、ラーメン業界のみならず、見ず知らずの他人に対してやたらと上から目線で講釈を垂れようとする「評論家」目線を持つ人びとへの風当たりはますます厳しくなっていくだろう。

だがそれでも「自分がわざわざ親切心で教えてやっているのだから、お前は感謝して謙虚に受け入れるべきであって、反発したり拒絶したりするなど、まったくあってはならないことだ」――というスタンスの人は、これからも後を絶たない。今回の騒動の端緒となった梅澤氏の元にもまたすぐに第二、第三の評論家が現れるだろう。

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