英国人が日本の採用に抱く違和感 – PRESIDENT Online

BLOGOS

日本人の働き方は世界と比べてどうなのか。イギリス在住ライターの江國まゆさんは「日本人は会社に貢献しすぎだ。イギリス人は私生活を最優先している。旅行をするために借金することすらある」という――。

日本では仕事で自己実現する人もいるが…

筆者が住むイギリスでは、仕事は基本的に生活の糧を得るためにするものだという考えが強い。私生活をより大切にするお国柄なのである。むろん仕事への敬意もあり、打ち込むことで充実を感じる人も多いが、私生活を犠牲にしてまで仕事時間を増やすことに対しては、強い抵抗があることは否めないと思う。

一方、日本では仕事を「生きがい」とみなしている人も多いことだろう。仕事内容とその精度を追求し、時に仕事の中に自己実現を見いだそうとする。そのため残業を余儀なくされたり、決められた時間以上に働き会社に貢献したりすることが美徳とされる社会風潮を作り出してきた。

このどちらが良いのか、一概に結論を急ぐことはできない。今回は日本とイギリスの両方で会社員として働いた経験がある筆者が、周りにいるイギリス人や日本人からじかに聞いた話を交え、イギリスにおける仕事事情についてご紹介しつつ日本との比較を試みてみたいと思う。

イギリス人は休暇のために借金する

筆者がイギリスに来て最も驚いたことの一つに、「休暇ローン」の存在がある。

休暇のことをイギリスでは「ホリデー」と呼ぶ。仕事を離れ、リフレッシュするためのホリデーは誰もが楽しみにしていると同時に、人生に絶対に欠かせない「マスト」事項だと思っている節があり、年間に長期ホリデーを1〜2回、週末旅行のような小さなホリデーなら何度でも取りたいと考えているのがイギリス人だ。

企業ではそのための有給もたっぷりと用意している。会社で週5日間フルタイムで働いている人なら、有給休暇は年間28日と最低ラインが法律で保証されており、ほとんどの人がこれを完全に消化している。

しかしイギリスの貯蓄率は低く、2020年の統計では成人1人当たりの平均貯金額は150万円程度。人口の4分の1は20万円も貯金がないという統計なので、休暇に出掛けるために、必然的にお金を借りる必要がある場合もある。それが休暇ローンの正体。誰もが借りられる人気のある金融商品だ。

統計:Average savings in the UK

貯金を増やすことが当たり前の日本からすると、お金に対する考え方の違いもさることながら、休暇を取ることへの情熱にも驚かされることだろう。それほど私生活を重視する社会なのだ。

ロンドンの金融街シティの街並み。パンデミックの影響でオフィスに出勤している人はまだ少ない。ロンドンの金融街シティの街並み。パンデミックの影響でオフィスに出勤している人はまだ少ない。 – 筆者撮影

履歴書に年齢も性別も書く必要がない

このようにイギリスでは「働きつつも有給を最大限に利用し、ホリデーをとって家族や友人たちとメリハリをつけて人生を楽しむ」文化が根付いている。

企業でも経営者から末端で働く人々まで「ホリデーのない人生なんて」という似通ったメンタリティを共有しているため、有給の消化は推奨され、従業員たちも比較的守られた環境の中で仕事をしている。

企業文化の違いで言えば、イギリスの雇用法では従業員は採用時に合意した担当業務に合ったパフォーマンスが期待されているのみ。仕事環境の中で、いかなる個人特性による差別も許されない点も挙げられる。

例えば応募時の履歴書には年齢、性別、国籍、婚姻やパートナーシップなどについて書く必要もなければ、写真を添付する必要もない。これらに加え、面接その他の場面で人種、障害、宗教、性的志向、妊娠や出産などについて尋ねるのはNG。うっかり聞いてしまうと法律違反で訴えられることもあるので、雇用側は細心の注意を払うべき領域でもある(ゆえに人事スタッフはHRにまつわる法律に通じていなくてはならない)。

シティーのビルが見える路地筆者撮影

「結婚してますか?」と面接で聞くのはご法度

イギリスに拠点を置く日本企業のオフィスでよくある話がある。日本の本社から来たマネージャークラスの駐在員が、日本の感覚で部下を扱ってしまうことによる失敗だ。

採用時の面接でよくあるのは「結婚してますか?」「子供はいますか?」あるいは「子供を作る予定ですか?」などと私的なことを聞いてしまうこと。これは現在のイギリスでは完全にご法度で、相手によっては訴えられかねない言動。周囲の現地スタッフが慌てふためいて尻拭いをさせられる失態でもある(イギリスへの派遣時に、こういった企業文化にまつわる教育がなされていないのも不思議なのだが……)。

また、採用面接で給料の話が避けられがちなのも、もしかすると日本だけかもしれない。

労働時間に関しては、従業員の家庭環境によっては会社との話し合いで時短や曜日を決めた出社など柔軟な対応が可能。定年制も2011年に法律で撤廃されたので、基本的に年齢を理由に解雇することはできず、本人が希望する限り、そして担当業務を滞りなく遂行できる状態にある限り、働き続けることができる。

企業側からすると、熟練した従業員を年齢を理由に手放さなくてはならないリスクがないので、定年制の廃止は会社にもメリットがある。60代から70代にかけては、いわば円熟の年代。技術職の人々やそれなりに経験を積んできた人たちであれば、企業側としてはぜひとも残ってほしい人材の宝庫なのだ。定年制の撤廃によって会社力が上がる場合もあるのである。

残業することは「気の毒」という考え

先ほどイギリスの従業員は、自分の担当業務の範囲内で仕事をこなしていれば全てOKと書いた。反対に言えば、それ以上のことをさせられることを嫌う傾向にあり、上司もさせたりはしない。

残業の有無にかかわらず、決められている以上の過剰な労働量が発生してしまっている場合は、上司に伝えれば会社として解決しようとしてくれる。そんな企業構造がイギリスにはある。それが会社としての義務だからだ。ただし一部の会計事務所などは季節によっては過剰な残業が発生するようだが、会社としては雇用法の順守という側面から労働時間の管理は非常に重要なので、余裕のある時期に休暇を取ってもらうなどの調整がなされているはずだ。

筆者は複数の大手英系編集プロダクションに、フリーランスの日本語編集者として出入りしていたことがあるが、驚いたことに雑誌の編集部でさえ夕方6時以降、オフィスに人が残っていることはまれだ。だいたい9時くらいに出社し、遅くても午後5時半くらいには人がいなくなってしまう。その労働スタイルが可能な企業・プロジェクト構造があり、社会構造があるということで、ブラック企業が存在する余地がない社会であるとも言える。

残業することは「気の毒」という考えがあり、「仕事の回し方がまずい」と見られがちなので、できるだけ残業しないように規定時間内で終わらせる文化も根付いていると思う。

地下鉄・バンク駅筆者撮影

「チームワーク」の日本、「個人プレー」のイギリス

筆者の周りにはこちらに拠点をおく日本企業に勤務する友人(イギリス人、日本人の両方)が複数いる。彼らに話を聞いたところをいくつか例として挙げたい。

現地で採用されている友人たちが口をそろえて言うには、日英の働き方の大きな違いは、「チームワーク」か「個人個人プレー」か、だと言う。

日本人はチームとして振る舞う傾向にあり、部下が上司から何か意見やアドバイスを受けると、割と素直にきくことができるようだ。プロジェクトはチームで和となって取り組んでいるという姿勢。

実はここに日本特有の「ウチとソト」の構造も浮かび上がる。会社内はウチ、クライアントはあくまでソト。ソトであるクライアント側がプロジェクトの進行について心配したりしないように、内側でガッチリと固めて当たっていく。互いに細やかに目を配り、チーム全体が良くなるようにする組織構造だと言える。

タイトルとURLをコピーしました