優柔不断の政権 支持率なぜ上昇 – 倉本圭造

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岸田政権が成立した時、私は「90年代末期の小渕恵三政権のように、最初は酷評されつつ後々支持率が上がってくるのではないか」と予想を述べていましたが、徐々にそういう情勢になりつつあるようです。

基本的に内閣支持率は発足直後が一番高いことが多い中で、開始三ヶ月でむしろ上昇傾向にあるのは非常に珍しいことらしい。この日経記事によるとこの四半世紀で三例めだとか。

読者のあなたは岸田政権のことをどう思っていますか?

SNSを見ていると、岸田政権を酷評する声も結構聞きます。「優柔不断で政策がブレまくっている」という批判も多い。

政権発足後の3カ月だけを取ってみても、

・文通費問題(今国会で法改正見送り)

・10万円クーポン問題(自治体が希望すれば100%現金も可能に)

・海外居住者がいきなり国際線予約を停止され帰国できなくなった問題(撤回)

・オミクロン株陽性者の濃厚接触者は大学入学共通テストが受験できず(追試の機会を用意)

・北京五輪の外交的ボイコットを事実上実行するが、明言はせず(財界は評価するも保守層は反発)

 といったグダグダ事例があり、右からも左からも集中砲火を浴びている。

特に以下の「3つの強硬派」からは相当嫌われているのを見かけます。

1:市場主義的に強引な改革を求めるネオリベ型の人

2:中国にもっと強い態度を取ってほしいという最右派層

3:あくまで政権を声高に批判することに意義を感じており、朝令暮改の連続に「ナアナアに抱き込まれている感」があって嫌がる(コロナ対策の鎖国政策がやりすぎだと感じるなども)左派層

しかしなぜか支持率は上昇している。

私は逆説的ながら、そういう「3つの強硬派」から距離をおいて柔軟な態度を取っていく姿勢自体が、政権の支持率を押し上げているのだと考えています。

それどころか、私はこの「岸田政権のグダグダさ」をうまく活用して伸ばしていくことこそが、これからの日本の舵取りにとって非常に重要なことだと考えているんですね。

というのも、過去20年ぐらいの日本は、そもそも対立する必要もないようなところで大声で対立しあっていて、ちょっと「改革」的なことをしてはそれに押し切られた人の恨みが募ってタタリ神のように反撃されてさらにグダグダになる・・・ようなことばかり繰り返してきたからです。

一見多少グダグダに見えても、ある程度合意形成に時間をかけてから、スルスルと進めて行ったほうがむしろ最終的にはうまくいく可能性がある。

そういう「ウサギと亀」の「カメ」作戦を今後日本が取っていくために、「岸田政権の一見グダグダに見える姿勢」は必要な事だと私は考えているのです。

今回記事では、岸田政権の優柔不断なグダグダさに見えるものをいかに今後の日本が「活用」していくべきか、その「ウサギと亀」の「亀」作戦のあり方について考えます。

1●本当の「改革」にドラマはいらないのかもしれない

最近本を書く仕事をしている時に、私の経営コンサル業のクライアントで、10年で150万円平均年収を引き上げることができた事例について説明していたんですね。

そしたら、その初期の原稿を読んだ出版社の編集者の人から、

それだけ大きな変革が実現できたのだから、大きなドラマがあったでしょう。その決定的な場面についてもっと書いてください

と言われたんですよね。

そう言われてハタと気づいたんですが、

「そうか、世間では変革は”怒鳴り合いのドラマ”がないと実現しないことになっているのか」

という認識のギャップがあるなと。

私とクライアントの経営者の認識としては、毎月毎年「当たり前にやるべき変化」を積み重ねてきただけで、「毎年、先手先手に当 たり前な変化をしてきたら、ふと10 年前との給与の平均値を比較したら150万円 も上がっていた」というのが正直なところです。

 つまり、

「こんな古くさい体制なんかぶっ壊してやる!改革が必要なんだ!」

と大騒ぎする”改革派”もいなかったし、

「そんな夢みたいな話認められるかよ! ウチは昔っからこうだったんだ!」

といった、ドラマで定番の”改革を潰そうとする老害さん”もいなかった。

むしろ、事ここに至る前の状況が大事で、改革派と抵抗勢力が「二派に別れて全力の 罵り合いを起こしている」状態になってしまった時点で、すでに「改革」は失敗してい る、と言っても過言ではないのかもしれません。

2●中小企業と国は違う・・・のだろうか?

会社の「平均年収」を150万円も上げるというのは、ちょっと「皆で頑張る」程度のことで実現することではないので、ビジネスモデル的にかなり大きな「変革」は実現してはいるんですよ。

その「現在の姿」を10年前のその会社で「大演説」的にブチ上げて、「ついてこれないヤツは排除する!」みたいなことをやっていたら確かに大紛糾していたかもしれない。

でも実際には、方針を示し、それに対して相手側の懸念に理解を示し、狙いすました方向に向けて衆知を集めた工夫を載せていって、毎年普通に変われる範囲で変わってきたので、そもそも「怒鳴り合いのドラマ」すら必要はなかった。

とはいえ、お前のクライアントみたいな中小企業と、国全体の大きな決断を同じ土俵で測るなよ・・・と言われそうです。

確かに、そのまま通用するとも思っていません。

しかし、私のそのクライアントは中小企業といっても、「その地方都市を代表する企業」ぐらいのレベルではあって、決して家族経営のパパママショップの事例というわけではありません。

そもそも、日本全体で見てここ10年20年と、「ぶっ壊す!!」「抵抗勢力を排除しろ!」と勇ましく言って押し切ろうという勢力は沢山あったけれども、すべて「日本社会の強固な結びつき」の前に跳ね返されて終わってきたのだから、次は「別のやり方」を試してみてもいいのではないでしょうか。

3●国レベルで見た時の「無駄な罵り合い」の例

そういう「本来ちゃんと話せばスルスルと進むところを無駄に罵り合いにしている例」として、養父市の農業特区の話があります。

兵庫県養父市というところで、農業法人以外でも農業参入できる特区の規制緩和が行われていたんですが、それを全国でも認めるかどうかについて今年の初め頃紛糾していたんですね。(結果として全国展開は見送りになりました)

「こういう話題」があると、インターネットのSNSではもう脊髄反射的にイデオロギー的に敵と味方がわかれる紋切り型の大論争が始まるじゃないですか。

読者のあなたの頭の中にも、既に

こうやって日本は自分の既得権を守りたい抵抗勢力どもが新しい試みを潰そうとするんだ!

なのか、

こうやつて、人間の根本たる”食”につゐても、ケガラワシイ企業どもに担わせむとする強欲な資本主義の世界から、私達にんげんはどうやつて脱却していけばいいのだらうか

なのか、お好みにどちらかの脊髄反射が浮かんできているのではないかと思うのですが。

正直言って私もニュースを聞いた瞬間は前者の方で「論戦」に参入しようとしてしまったのですが、クライアントの農家のおっちゃんといろいろと事情を調べながら議論をしたところではそう単純なことでもないんですね。

というのは、今でも農地をリース契約して参入するぶんにはほとんど規制はないぐらいだからです。

この規制は株式会社が農地を「購入」して農業をやる場合のみの規制で、そうしたい場合でも特有の農業法人を作りさえすればいいので実質的には既に規制はほとんどないに等しい。

今回特区の全国展開が見送られたのも、そもそも養父市の事例でもリース契約で参入している事例がほとんどだったからだそうです。

だから「養父市の成功事例」を全国展開することは、別に明日からでも何の問題もなくできる。ただ農地の規制を完全に撤廃すると税金目当ての乱開発の問題が持ち上がったりとか色々不具合が起きる可能性があるので、形式上の規制が残してあるだけらしい。

日本の官僚制度は、確かに仮想通貨とかの最新の話題で後手後手に回りがちではあるものの、こういう分野の細部の差配は結構信頼できるな・・・と最近私は感じています。

勿論いかにも時代遅れな分野も散見されるものの、大部分ではいちいち「官僚を過剰に悪者にする」論者は、それを利用して悪どく儲けようとしているか、全部を「単純に図式化された政治論争」に変えたがる実態を知らない論客なのか、どちらかではないかと思います。

つまり、こうやって実態を事細かに見てみれば、なんかもう幽霊相手に喧嘩しているようなものだというか、「敵と味方に分かれて論争している意味」なんかそもそもないんじゃないかという感じがしてきますよね?

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