IKEA がゲーマーに照準を当てた理由:デザイン力と手頃な価格で長期顧客を育成

DIGIDAY

IKEA(イケア)がゲームに真剣に取り組み始めている。

大手家具メーカーである同社は、椅子、調整可能なデスク、照明、収納家具までにわたる新製品を6.49ドル(約720円)から599ドル(約6万6500円)までの価格帯でゲーマー向けに売り出している。同社はこれらの新製品を、PC、ラップトップ、ビデオカード、モニター、スマートフォンのメーカーである台湾エイスース(ASUS)のサブブランドのリパブリック・オブ・ゲーマーズ(Republic of Gamers、ROG)と提携してリリースする。IKEAによれば、これはゲーム分野へのより広範な拡大の第一歩にすぎない。これらの新製品は今年の年頭に中国と日本で発売され、10月には英国と米国でも発売される予定だ。

巨大化するゲーム市場に熱視線

ゲームが米国において数十億ドルの市場に成長したことから、従来型の小売業者もこの分野への進出を求めるようになった。IKEAだけでなく、オフィス用備品メーカーのハーマンミラー(Herman Miller)や大規模小売業者のウォルマート(Walmart)も、ゲーマーに対象を絞った椅子やPC周辺機器を販売している。この分野にはブランドが広く認知されている多くの専門企業が存在し、その牙城を打ち破ることは容易ではないと思われるが、部外者が参入する余地もまた存在する。一番の機会は、ショッピングがますますオンラインに移行しているこの時代に、若い、デジタルを熟知したゲーマーを長期的な顧客に変換するということだ。

フォレスター(Forrester)のバイスプレジデント兼首席アナリストであるスチャリタ・コダリ氏は次のように述べている。「ゲーマーは若い消費者が中心で、今日ではあらゆる場所に存在する」。デジタルでのゲーム販売数が物理媒体による販売数を超えたことで、小売業者がゲーマーにアクセスするための経路が減ったと、氏は付け加えている。「企業がこの分野でシェアを得ようとするなら、やれることをするしかない。それは、ゲーマー向けのアクセサリを販売することだ」。

スポーツイベントの開催も計画

これについてIKEAは、このカテゴリにおける不均衡を是正しようとしているという。ゲーマーは「家庭生活の観点からは多くの場合見過ごされてきた」と、IKEAの代弁者は米モダンリテールに語っている。同社はROGの専門家の見識と、イケア独自のデザインと手頃な価格を組み合わせることで、この状況を変えようと試みている。IKEAの商品ラインアップには、引き出し、ハンガーボード、アクセサリスタンド(手の形をした木製のホルダーを含む)、ネッククッションまでが含まれる。

IKEAは、カジュアルゲーマーとハードコアゲーマーの両方を、店舗とオンラインの両方でターゲットにすることを計画している。同社は物理的な店舗で、ワークスペース部門に専用のゲーム用エリアを設け、商品一式を展示する。また、店舗内にあるインスピレーションが得られるような部屋のセッティングに、これらの商品を追加することも計画している。

オンライン営業の一部として、IKEAはROGと協力し、初のeスポーツイベントの開催を準備している。このトーナメントでは、乗り物を使ってサッカーをするビデオゲーム「ロケットリーグ(Rocket League)」のチーム戦を行う。勝者には総額9500ポンド(約105万円)の賞金に加えて、ゲーム用の新商品が与えられる。これらの商品は、ロンドンでの決勝戦におけるイベントステージで公開される。

5年後のゲーム用アクセサリ市場は154億ドルに成長

ゲーマー向けに安価な商品を販売することに特化している販売業者はIKEAだけではない。ウォルマートのオン(Onn)の商品ラインアップは、手頃な価格でキーボードやモニターなどのゲーム用周辺機器を含んでいる。これらと比較して、コルセア(Corsair)やレイザー(Razer)などの専業のゲーム用ブランドは、ハイエンド製品が中心の分野で、数百ドルの椅子やアクセサリを販売している。このような非常に高価な品物は、この分野に利益を得られる可能性が多いことを示しており、それがこの分野を対象としていなかったほかの業者までをも引き付けている。

さらに、ビデオゲーム業界全体が膨大な顧客ベースを保有している。ニューズー(Newzoo)によれば、世界には約30億人のゲーマーが存在する。より具体的な数字を挙げると、モードーインテリジェンス(Mordor Intelligence)のデータによると、世界でのゲーム用アクセサリ市場は、2020年の77.5億ドル(約8600億円)から、2026年には154憶ドル(約1兆7000億円)に増大するとみられている。

ゲーマーを長期的顧客に変えるための計画

IKEAの市場参入は、プレイステーション(PlayStation)やXboxなどのコンソールゲーミングの新世代の発売に続くもので、ゲームがクラウド上でストリーミングされ、高価なハードウェアの必要性が減少し、ゲームが入手しやすくなっていることを反映している。

IKEAがゲーム市場に挑戦するのはこれが初めてではないが、同社はこの分野において過去最大規模の取り組みを見せている。同社は過去にも、3Dプリントされたアクセシビリティ商品を、医療用衣服メーカーのユニーク(UNYQ)との提携により作成されたアプリで試験的に販売していた。

IKEAがこの分野に参入しようとしているのは、同社の顧客ベースの変化により、店舗内の買い物客をターゲットにすることが難しくなりつつあることも一因だ。同社によれば、店舗の閉鎖により同社の熱心な顧客はますますオンラインに向かうようになり、物理的な店舗が再開してもこの傾向は続いているという。

同社は2020年の年次報告書で次のように述べている。「今日の人々は、特定の商品を買うためにIKEAを訪れる。その結果として、IKEAの店舗では家具の購入が割合として多くなり、アクセサリの購入は減少している」。

IKEAの最大の長所は人目を引く優れたデザインで、これが専門ブランドに飽きたゲーマーを自社製品に引き寄せる可能性があると、ニューズーのゲーム担当市場リードであるトム・ウィジマン氏は解説している。これにより、ゲーマーである消費者が経済的に自立したとき、ゲーム以外の商品も売れるようになると思われる。

氏は次のように述べている。「従来の広告によって若い層の消費者に訴えかけることは困難になりつつある一方で、小売業者はゲームにより成長中で、これから自分で収入を得るようになる若い世代とつながりを持つ機会が得られる。ゲーム用商品によって、このような世代の注意をIKEAやウォルマートに引き寄せることができれば、将来的にはゲーム用でない商品も販売できるようになり、これらの小売業者の勝利となるだろう」。

[原文:Why Ikea is targeting gamers]

Saqib Shah(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via IKEA

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