雇用市場ではいま、営業職の求人が増えている。求められているのは、既成概念にとらわれない考え方ができる人材だ。
「営業マン」の変化のとき
コロナ禍により、ITが営業部隊にとって不可欠なツールとなる一方で、クリエイティビティが担当者のソフトスキルとして注目されている。つまり、「個性的な人(quirky)」が評価されるということらしい。サンフランシスコに本社を置くB2B関係構築プラットフォーム開発会社、センドーソ(Sendoso)のクリス・ルーディグラープCEOは「個性的な人物は目にとまりやすい」と語る。
ルーディグラープ氏によれば、すぐれた営業担当者はZoomを使ったオンライン会議を介してでさえ、つねに人とつながるきっかけを探しているという。たとえば見込み顧客へのプレゼン中に、ビデオに映るオフィス内にスポーツの記念品が飾られているのを見つけたら、チケット販売サイトのスタブハブ(StubHub)で使えるギフトカードを郵送する。あるいは、相手が自宅からリモートで参加中に犬の鳴き声が聞こえたら、ペット用おやつのクーポンをeメールに添付して送る、といったぐあいだ。
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営業職の需要が高まるにつれ、高給を保証する会社も出てきた。それでも募集枠はなかなか埋まらない。コロナ禍による人員整理も理由のひとつだが、しつこい勧誘電話や強引な売り込みといった昔ながらの営業マンのイメージも影響しているようだ。
企業が営業職の優秀な人材を獲得するには、厳しさ一辺倒で型にはまった採用戦略を避けて、強く深い絆で信頼しあえる関係を築くことに重きをおかなければならない、とルーディグラープ氏は主張する。氏の経験では、見込み顧客とのやりとりで共感力を示し、クリエイティビティを活かして相手のニーズに合わせた対応ができる営業チームは、そうでないチームの5倍の成約率を達成しているという。
どんな職種であれ、職場の雰囲気は大切だ。「多くの企業が営業部隊のために、よりオープンな雰囲気でやりがいのある環境づくりを心がけている。昔のような過酷な労働環境はもう通用しない」とルーディグラープ氏はいう。「営業部門でも、退職者続出の現象が起きている。つまり、ひどい扱いに耐えてまで同じ職場にとどまる必要はないと考える人の割合が以前より増えていると解釈できる。転職希望者にとっては売り手市場で、採用面接が受けられる機会も広がった。魅力のある企業の存在は際立って見えることだろう」。
従来の対面営業の見直し
営業職がいま注目の的であるのは間違いない。リンクトイン(LinkedIn)が2021年1月に発表した米国の『最近の人気職種(Jobs on the Rise)』と題するレポートにおいて、「事業開発・営業」はコロナ禍で雇用増が著しい上位4職種のひとつに入っている。リンクトインによると、事業開発・営業カテゴリーの求人情報は2019年から2020年にかけて45%と急増しており、ニューヨーク、アトランタ、デンバーを中心に需要の高まりがみられたという。
とはいえ、営業職の文化の根幹をなす「対面による顧客対応」は、過去1年半で大打撃を受けた。デロイト・デジタル(Deloitte Digital)は最近発表したレポートで、パンデミック下の営業活動は常に変化の連続で、その変化に適応した企業が恩恵を受けたと述べている。また同レポートは、デジタル中心の販促活動への移行により、担当者が顧客の実務をオンラインで把握できるようになり、営業活動全体の改善がみられたと主張している。
「営業職に就く人々は意欲十分で、独創的思考力をもち、リモートおよびデジタル環境下における販売のチャンスを活かして活動している。これは明るい材料だ」と、トニー・オーウェンズ氏は語る。オーウェンズ氏は、対話型AIチャットボットのソフトウエア開発で知られるライブパーソン(LivePerson)で、ワールドワイド・フィールドオペレーション部門長をつとめる。ライブパーソンのサービスは、ネット上の存在感を高めて対象顧客の関心を引くべく、パーソナライズした動画コンテンツ制作、ポッドキャスト出演、ソーシャルメディアへの投稿などをおこなうものだ。「この種のデジタル施策を支援し、必要に応じてトレーニングを実施する営業部門が成功をおさめている」とオーウェンズ氏は述べる。
コロナ禍で活動する営業を含む全事業部門に革新をもたらすのが最新のテクノロジーだ。センドーソのルーディグラープ氏率いる450名からなるチームは、セールス・エンゲージメント・プラットフォームのアウトリーチ(Outreach)や、セールスロフト(SalesLoft)、シックスセンス(6sense)、スクラッチパッド(Scratchpad)などを利用している。これらのツールにより、メモを取って顧客管理システムのセールスフォース(Salesforce)に入力する作業が容易になる。
ハイブリッド形式でのプラス効果
販促目的の会社訪問といえば従来、出張で莫大な交通費を要するケースが多かったが、ITの活用で営業担当者にも顧客側にもメリットが生まれた。
「いまや、顧客訪問もZoomを介してできるようになった」と、カーネギー・メロン大学テッパー・スクール・オブ・ビジネスで教鞭をとるロバート・ケリー経営学教授はいう。「ウーバーマネー(Uber Money)のような金融サービスや、ウーバーイーツ(Uber Eats)、グラブハブ(GrubHub)といったフードデリバリーのアプリにも販促のチャンスがある」。以前なら、営業担当者の顧客訪問は午前と午後に1回ずつ、1日2件がせいぜいだった。しかしいまは、オンラインで1日に8件もの訪問をこなすことができる。企業は今後、対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド形式で営業活動をおこなうだろうとケリー教授は予測する。
「営業担当者が移動に時間を取られることがなくなった。これはプラスの要素と考えていい」とケリー教授はいう。
では、マイナスの要素とは? 見込み顧客の予定表に「営業担当とオンライン商談」と記載される状態が続くことだ。新型コロナウイルスのデルタ変異株が猛威をふるい、「いま、本当に多くの人が『Zoom疲れ』を経験している」とケリー教授は強調する。
パフォーマンスの重要性
アイデアラボ(Idealab)傘下のCTV広告プラットフォームで、パンデミック下で発足したtvサイエンティフィック(tvScientific)の最高収益責任者、シャノン・ジェサップ氏は次のように述べる。「従来、とくに広告の世界では、多くの意思決定が対面でおこなわれていた。飲食を伴う接待や、スポーツ大会、イベント、カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルなどの場で交流しながら、人間関係の上に成り立った判断が下されていた」。しかしこの数カ月間、対面による会合ができなくなり、優先順位が変わった。「いまでも人間関係が大切であることには変わりがないが、最終的な判断材料となるのは差別化、透明性、パフォーマンスだ」とジェサップ氏はいう。
そんなデジタル主導の世界において、企業にとってもっとも重要な営業ツールのひとつが、基礎的な資産である公式ウェブサイトだ。
セールス・マーケティング・プラットフォームを運営するクオリファイド(Qualified)の創設者兼CEO、クレッグ・スウェンスロッド氏はこう語る。「既存の顧客や見込み顧客に親しみを感じさせるような、効果的な営業活動をおこなうには、彼らが公式ウェブサイトをいつ訪問したかを把握する必要がある。その瞬間を逃さず働きかけて、つながりを確立することが肝要だ」。
「買い手が購買意欲を示したり、何かを知りたいという意志を見せたりしたときに営業担当者が介入し、個々人のニーズに合わせた対応をする。それが、夢のような素晴らしい経験が生まれる瞬間だ」とスウェンスロッド氏はつけ加えた。
[原文:‘More rewarding for the rep’: Why sales jobs are surging — for those with creativity and empathy]
TONY CASE(翻訳:SI Japan、編集:小玉明依)