「広告業界の誤算は、自ら規制する機会を逃したことだ」:IPGのアルン・クマール氏

DIGIDAY

企業の広告、マーケティングを支援するIPG(Interpublic Group of Companies、Inc)で、最高データ、および技術責任者を務めるアルン・クマール氏は、現在多くの仕事を抱えている。AppleはiPhoneとiPadでのユーザー・トラッキングを制限しており、GoogleのChromeブラウザは、2023年にサードパーティのクッキーを遮断することになっている。これに対しマーケティング・広告業界は、プラットフォームを超えたユーザーの識別手段としてIPアドレスを採用しようとしているが、AppleとGoogleはそれをも脅かしている。

クマール氏は、米DIGIDAYのポッドキャストの最新エピソードで、「いまの私の役職のミドルネームは『ストレス』だ」と、皮肉を込めて自身の仕事をめぐるストレスを形容する。

特に同氏のストレスとなっているのは、企業がこれまで活用してきた、顧客の行動や興味関心をトラッキングするための手法が廃止されていくなか、いかにして今後もビジネス上の目標を達成していくかという問題だ。プロバイダーによるトラッキングの取り締まりに加えて、政府の規制当局やプライバシー擁護派は、デジタル広告の多くの基盤となっているトラッキングを「不本意な監視の一形態」として、ますます敵対視するようになっている。

クマール氏は、マーケティング・広告業界は人々に対し、トラッキングを行うことの見返りを示し、納得してもらうための努力を怠ってきたと述べている。「業界は十分な説明をしているか、と聞かれたら回答は『いいえ』だ」。

以下、読みやすさのために若干の編集を加えて、会話のハイライトを紹介する。

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マーケティング・広告業界の誤算

「マーケティング・広告業界の最大の誤算は、我々を含めてだが、はやくから自主規制に真剣に取り組んでこなかった点にある。そのため、現在積極的に取り組みを行っている業界団体は、いずれも決定的な影響力を持てていない。率直に言って、タイミングは過ぎたと思う。いま自己規制をしたところで、効果があるとは思えない」。

トラッキングの真実

「マーケティングの仕組みについて、その実情を人々にしっかり伝えられている人は、誰ひとりとしていない」。

「確かに広告業界とマーケティング業界は、(トラッキングに)どのようなメリットがあるか、人々にきちんと説明してこなかった。そのことが、現在の状況を招いているたのだと思う。とはいえ、プライバシー擁護活動家たちも、こういった決定がどのような影響を持つか、それが人々の生活をどのように変えているか、十分に説明できているとは思えない」。

プライバシー保護にかかるコスト

「ある報告によると、カリフォルニア州消費者プライバシー法(California Consumer Privacy Act:通称CCPA)の順守のために、企業が費やしたコストは、約4億7500万ドル(約525億円)にものぼるという。人々は、企業がこのコストをどうにかやりくりして、製品コストに影響が出ないように収めてくれると信じているのだろうか。プライバシー保護の潮流がもたらす影響は、広告が表示されるかどうかだけではない。昨今、コンプライアンスは以前よりもはるかに厳しくなっているため、実際には製品コストにも影響を及ぼしている」。

[原文:IPG’s Arun Kumar says the time has passed for the ad industry to regulate itself

TIM PETERSON(翻訳:塚本 紺、編集:村上莞)