百貨店における EC 部門の独立は、現実に根ざしていない?:専門家たちが懐疑的な理由

DIGIDAY

サックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)が自社のeコマースのスピンオフ事業で60億ドル(約6840億円)のIPO(新規株式公開)を準備していることを背景に、メイシーズ(Macy’s)のアクティビスト投資家たちは同社にも同じ行動を求めている。

サックス・フィフス・アベニューは3月、自社の実店舗とオンライン事業を2つの部門に分割する計画を発表し、オンライン専業の新事業の評価額を20億ドル(約2280億円)とした。それからわずか7カ月後の10月18日には、同社のオンライン事業は最初に提案された評価額の3倍にあたる60億ドル(約6840億円)で株式公開されると報じられた。アクティビスト投資家のジャナ・パートナーズ(Jana Partners)は10月に、数十億ドル規模のビジネスを生み出す可能性に魅せられて、メイシーズに対してオンライン事業のスピンオフを求めたと報じられた。このスピンオフによりメイシーズの評価額は現在の69億ドル(約7870億円)から140億ドル(約1兆6000億円)に引き上げられると、ジャナ・パートナーズは語っている。

これらの投資家たちは、パンデミック時のeコマースの成長と、より焦点を絞った投資戦略の可能性を、このような高額な評価の根拠としているが、アナリストや小売の専門家は懐疑的だ。彼らは、スピンオフモデルが実店舗の重要性を過小評価し、消費者の購買行動と一致していないことを懸念している。

セイジベリーコンサルティング(SageBerry Consulting)のプレジデントおよび創設者であり、以前はシアーズ(Sears)とニーマン・マーカス(Neiman Marcus)の従業員であったスティーブ・デニス氏も、「これは奇妙で不合理な戦略的思考だ。実際には市場がどこにあるかということが関わってくる」と述べている。「この特定の金融イベントというマトリックスの欠陥を利用するようなものだ」。

スピンオフ戦略

その背景にあるのは、サックスの分離された部分が全体よりも大きいというものだ。グローバルデータ・リテール(GlobalData Retail)のマネージングディレクターであるネイル・サウンダーズ氏はメールで次のように語った。「投資家たちは、オンライン事業をスピンオフさせることで、さらに多くの価値を引き出せると考えており、それを使用してより多くの投資を行い、ビジネスの側面をより早く発展させることで成長を促進できると主張している」。

実際に、サックスの親会社ハドソンベイ(Hudson Bay)のチェアマン兼CEOであるリチャード・ベイカー氏は、オンラインとオフラインの分割により、ブランドが高級衣料品の分野で「多くの市場シェアを獲得」し、「抜きんでた高級品eコマースプラットフォーム」になることが可能だろうと語っている

サックスの親会社であるハドソンベイカンパニー(Hudson Bay Company、HBC)はプレスリリースで、サックスの40店舗は「SFAという名前の事業体として独立して運営され、HBCのみの管理下に置かれる」と述べている。これに対してSaks.comは「Saks」という名前で、投資家であるインサイト・パートナーズ(Insight Partners)とのパートナーシップにより運営される。

サックス・フィフス・アベニューは1876年に設立され、2000年に自社のフルプライスサイトのSaks.comを開設し、2013年に割引サイトのSaksofffifth.comを完成させた。近年スピンオフの前に、同社はデジタル店舗と実店舗とで投資を分けていた。2019年にはマンハッタンの旗艦店本店に2億5000万ドル(約285億円)を投じ、2020年にはデータ・パーソナライゼーションを強化し、メンズウェアのための独立したサイト・ハブを設けるなど、サイトの再構築を行った。しかし、非公開企業である同社は、総売り上げの何%がeコマースから得られたものかを公開していない。

メイシーズの場合

一方メイシーズでは、2021年の第2四半期時点のデジタル売上高が、総売上高の30%が占めている。2020年は、商品の閲覧、商品のおすすめ、チェックアウトなどの機能改善に投資したことで、メイシーズのデジタル販売にとって飛躍の年となった。メイシーズのCEO兼チェアマンのジェフ・ガネット氏は同社の年末の決算説明会で、2023年までにオンライン事業を100億ドル(約1兆1400億円)規模に成長させるという方針を再び断言した。CFOのエイドリアン・V・ミッチェル氏は、メイシーズの新規顧客数が1年間で700万人増加し、「そのほとんどはデジタルチャネルから得られたものだ」と述べている。

スピンオフの計画とスピンオフの提案が相次いだのは、コロナウイルスのパンデミックによりあらゆる業界でeコマースが加速したあとのことだ。伝統的な実店舗の拡大によってブランドを確立した百貨店にとって、オンライン販売の重要性は急速に増大している。

現実に根ざしていない

しかし、デニス氏はこの戦略が現在の消費者の購買行動と一致していないと考えている。

デニス氏は次のように述べている。「私は最近、2001年のようなプレスリリースだと冗談を言って回った。あの頃、ドットコムと店舗はほぼ独立している存在だという考え方があった。そして、この5年間は言うまでもないが、我々が教訓を学んだとすれば、顧客は小売業者を1つの(統合された)ブランドと考え、さまざまな方法で買い物を行えるだけと見なしているということだ。これは、私が1999年から取り組んできたことでもある」。

同氏は、小売業者のオンライン専業のビジネスが、オンラインと実店舗のビジネスを合わせたものよりも大きな価値があるという考えは、「馬鹿げているか、過去15年間の企業による大失敗につながっている」と付け加えている。

オンラインとオフラインのプレゼンスを分割しようとして、全体を一貫したものとして統合できなかった過去の試みは、これまでにも破壊的な結果を招いてきた。JCペニー(JCPenney)は百貨店のなかでもいち早くeコマースに投資し、2006年にデジタル販売を10億ドル(約1140億円)に拡大した。しかし最初にサイトと店舗を分割し、そのあとで明確なプランなしにサイトと店舗の統合を試み、その後に、eコマースへの注力を完全に捨ててしまった。店舗とeコマースとのあいだでこのように方針が二転三転し、その変更のあいだに一貫したブランドアイデンティティを投影できなかったことが、最終的に同社の近年の凋落につながった。

実店舗の役割

サウンダーズ氏は、新たに提案されたスピンオフ戦略は、投資家が「店舗に白旗を掲げる」ことを示唆していると語っている。パンデミックにより2020年に店舗の倒産は加速したが、百貨店の小売モデルは長年にわたって凋落しつつあると考えられてきた。この10年間で、ロード・アンド・テイラー(Lord & Taylor)、ニューヨーク&カンパニー(New York & Co)、ベルク(Belk)、バーニーズ(Barneys)はすべて破産を申告し、合計1000を超える店舗は完全に閉鎖された。一方、JCペニーやニーマンマーカス(Neiman Marcus)は依然として経営を続けてはいるものの、昨年破産を申告し、負債を管理するため、それぞれ数百の店舗を閉鎖した。

サウンダーズ氏は次のように述べている。「これらの店舗の多くについて、規模、場所、機能するための構成が不適切だったという見解がある。そして何よりも、何年にもわたって投資が不十分であったためにこれらの店舗は低い水準になってしまったと考えられる。この見解は妥当なものだ」。

しかしサウンダーズ氏は、店舗は、理想的なものではないとしても、オンライン事業のブランド力、調達能力、そしてオンラインで購入し店舗で受け取るようなサービスを築き上げるために役立つと指摘している。

メイシーズのガネット氏は、同社の第4四半期の決算発表会において、「店舗とデジタルの両方を保有し、双方が協調していることは、当社の販売と、あらゆる市場における顧客との関係性を最大化するため非常に重要だ」と述べている。同社のデジタル販売は、市場においてメイシーズの実店舗の3倍で、この四半期に同社のデジタル販売の25%は店内で調達された。

「メイシーズのような企業のオンライン事業が実店舗なしに長期的に持続可能かどうか、という疑問は誰も持っていない」とサウンダーズ氏は語っている。「明確な答えがない」。

[原文:‘Far from clear cut’: Why the department store e-commerce spin-off strategy may not be grounded in reality

Maile McCann(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Photo from Macy’s

Source

タイトルとURLをコピーしました