2022年に行われる中間選挙の広告費は2020年を超える勢いであり、業界はストリーミングサービスやTikTokをはじめとする新興プラットフォームに資金を投資している。
アドインパクト(AdImpact)によると、2022年の選挙サイクルは7月現在ですでに2020年の選挙サイクルを約7億ドル(約910億円)上回っている。同社レポートの8月だけを見ても、11月の一連の選挙を前に、政治広告費の増加は203%にも達する。
2022年8月第4週に調査会社WARCは、2022年と2023年の広告業界の成長を約900億ドル(約11兆7000億円)縮小させるような経済の減速に警鐘を鳴らしたが、それを考えると2022年最後の四半期は極めて重要な意味を持つことになるだろう。
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早い段階で切られたスタート
政治広告は今でも地方テレビ局がその大半を占めるが、Facebook、Google、CTV(コネクテッドTV)などのプラットフォームのデジタル広告も追い上げを見せている。利用できるサービスや資金調達ツールが増えたことで、選挙キャンペーンでは過去の選挙に比べて早く広告費の投入を始めており、それに伴って全体額も増えている。
政治専門の広告エージェンシー、ブルーステート(Blue State)のペイドメディア担当SVPを務めるエリック・ライフ氏は「選挙サイクルのより早い段階でスタートが切られている」と米DIGIDAYに語った。「当社では、サイクルの早い段階からメールやショートメッセージの配信を始めて発信の機会と頻度を増やそうと、かなり前からクライアントに働きかけてきた。以前は、政治的メッセージの発信や投票率向上を狙った広告は選挙戦の最後の5週から8週に集中していたが、その多くの開始が早くなっている」。
「かつてないほど激しい競争」
2022年の政治広告費予想は予想機関によって異なるが、最終的な金額は2020年の選挙サイクルの90億ドル(約1兆1700億円)という記録を超える可能性が高く、中間選挙年としては最大規模となる。現時点におけるアドインパクトの予想では、電波放送、ケーブル放送、ストリーミング配信、各種デジタルプラットフォーム全体で総額97億ドル(約1兆2610億円)に上る。カンター(Kantar)はこれより若干低く、中間選挙の広告費を電波放送、ラジオ、デジタル、OTT(オーバーザトップ)を合わせて78億ドル(約1兆150億円)と予想する。
データマーケティング企業のデータアクスル(Data Axle)の非営利・政治ソリューション担当プレジデントであるニーリー・シャムス氏は「2022年の中間選挙に関しては、すでに36億ドル(約4680億円)近くの広告費が報告され、記録的な額になっている」と話す。「その市場は驚くほどひしめき合っていて、かつてないほど競争が激しい」。
注目は全米よりも地域市場
2022年は大統領選挙の年ではないが、政治広告費の拡大に拍車をかけているのは全米各地での激戦と、女性の性と生殖に関する権利からスポーツくじまで、地域的な争点の白熱だ。特に注目を集めているのがペンシルベニア、フロリダ、カリフォルニア、ミシガン、アリゾナ、ジョージア、ウィスコンシンの各州で、これらの州では多額の広告費が見込まれている。
大手のクライアントを扱うエージェンシーにとっても、今回の選挙では地方・地域市場が大きな位置を占める。たとえばオーシャンメディア(Ocean Media)最大のクライアントであるベットMGM(BetMGM)は、スポーツくじに関して全米メディアに加え、一部の特定の州でも強い利害関係の絡みがある、とオーシャンメディアCEOのジェイ・ランガン氏は話す。
ランガン氏は「全米より地域市場のほうがはるかに大きな影響がある」という。「接戦州の情勢にもよるし、特に激戦区については政治的な圧力も高まるだろう」。
今年はTikTok選挙?
ソーシャルメディアが政治キャンペーンに占める割合は着実に拡大している。いま急成長中のTikTokは、若年層にリーチしたい場合の自然な選択肢であり、今回の選挙で恩恵を受ける主なプラットフォームだろう。2020年、特定のオーディエンスをターゲティングするためのデジタル広告は、多くのキャンペーンや団体にとって不可欠のものになった。アドインパクトによると、当時のデジタル広告費は合計で17億3000万ドル(約2249億円)に達し、全メディアを合わせた選挙広告費の19%を占めた。
文化的には、2018年がTwitter選挙だったとすれば、今回の選挙を特徴づけるソーシャルプラットフォームはTikTokになるだろう。TikTokは特に中間選挙の投票率が低い若年層に人気のメディアだ。一方で、ロー対ウェイドの逆転判決をはじめとする最近の論争が、Z世代の投票率を押し上げるのではないかという見方もある。
スパークス&ハニー(Sparks & Honey)の戦略担当SVP兼ポリシーコンサルティング部門責任者のロブ・ヘンジ氏は「その時々のプラットフォームのようなものが常に存在する」と話す。「2024年はZ世代の投票者がTikTokでますます牽引力を発揮することになるだろう。ロー対ウェイドの逆転判決は、今回の選挙の情勢を多くの面で変えている……最終的な選挙結果と、率直なところ、どのように費用が投じられることになるかをかなり予想しづらくしている」。
複雑化する政治広告
各ソーシャルプラットフォームが有料の政治コンテンツの制限に動いていることから、政治広告の購入はさらに複雑なことになっている。TikTokは最近、インフルエンサーやクリエイターが中間選挙前に有料政治コンテンツを投稿することを許可しないと表明し、1月6日の米議事堂襲撃事件を受けて誤情報と暴力を抑制するための継続的な取り組みを進めるMetaは、中間選挙前の一週間には新しい政治広告をすべて一時中断する。
ヘンジ氏は、ここでインフルエンサーマーケティングを追求する動きが活発化するかもしれないと話す。オーガニックな対話に影響を与えることが目標であるとするならば、インフルエンサーマーケティングのほうが、有料で候補者をメディアに出すより効果が期待できる、とヘンジ氏は付け加える。
「市民集団を対象としたキャンペーン活動を進めているパートナーは多い。インフルエンサーマーケティングを政治の場に応用している、といってもいい」とヘンジ氏は語る。「フォロワー数がほんの数千人でも、特定の都市で大きな影響力を持つ政治的なマイクロインフルエンサーがかなり大勢いる」。
先述の制約があるため、マーケターはほかのオンラインサービスにも手を広げるべく、オンラインコンテンツの全体的な消費状況を把握しようとしている。たとえば、TikTokで広告の制限があるのであれば、18歳から24歳の年齢層のメディア消費を幅広く観察し、ほかの広告配信先を探すのだ。
「実際、テレビ・動画消費はこれまで以上にストリーミングサービスに移行しつつある」とブルーステートのライフ氏は話す。「ストリーミングサービスでは、政治広告の広告主が好むような細かいターゲティングの能力を向上させており、特定集団にリーチできるようになっている」。
Netflixも参戦か
ストリーミングプラットフォームは、市場そのものがかなり飽和状態だ。米国では、2020年時点で1人当たり平均12のメディア・エンターテインメント系有料サブスクリプションサービスを利用している。スタティスタ(Statista)によれば、利用が最も多いのがミレニアル世代で、平均的なサブスクリプション数は17である。全米の数多くの家庭へのストリーミングに政治広告を載せるには、大きなチャンスだ。
「次の大物はNetflixだろう」とデータアクスルのシャムス氏は話す。「Netflixがいつ広告配信を開始するか、中間選挙前に開始されるのか、皆でひたすら様子を見ているところだ。中間選挙前に開始すれば、選挙戦で大きな役割を果たすことになるだろう」。いまのところ、その可能性は低いように見える。
2022年については、カンターのCMAGの予想では12億ドル(約1560億円)がOTTとCTVに投入される。これに対し、電波放送には38億ドル(約4940億円)、ケーブル/衛星放送には14億ドル(約1820億円)の広告費が予想されている。アドインパクトによれば、これまでに約3億ドル(約390億円)がCTVに投入されたそうで、これは2022年の全体的な政治広告費の約13%に相当する。
「政治キャンペーンの持ち球としてテレビは常に重要な位置付けにあったが、特定地域の人々にリーチするにはローカル局の広告購入しか方法がなかった。だが、CTVのおかげで、ローカル局を超えてHuluやRoku(ロク)などのほかのプラットフォームでも政治キャンペーンが展開できるようになった」とシャムス氏は付け加える。
専門家は、CTVには従来のテレビにはなかったメリットがいくつかあると話す。ひとつには、消費者のメディア利用に関するより具体的なデータと、年齢、所得、投票傾向などのほかのデータを使用して、特定オーディエンスをより正確にターゲティングできる。データは匿名化されているが、人とデバイスをリンクできることで、きめ細かい広告配信が可能だ。
「テレビはもともと人を夢中にさせる魅力的なメディアで、広告費がますますCTVに流れている」とトランスユニオン(TransUnion)のメディア&エンターテインメントのリードストラテジスト、デビッド・ワイゼンフェルド氏は話す。「デジタルならではの柔軟性とターゲティングがあるからだ。テレビの全国放送では、さらにはケーブル放送でも、候補者として話せることには幾分の制約がある。そういう意味では、CTVではどちらの長所も活用できる」。
狙うは可能な限り幅広いリーチ
ライフ氏は、今後CTVの政治広告費の急拡大が進むと見ているが、エージェンシー側の戦略としては、特定のプラットフォームに集中するより、可能な限り幅広いリーチを狙うほうに重点があると話す。多くの場合、ユーザーが複数のストリーミングサービスを視聴し、複数のソーシャルアプリを使用しているのが昨今の現実だ。
「政治キャンペーンやその広告主は、予算のほとんどを電波放送に投じることに慣れているが、もはやそれはコンテンツ消費の実態にはあまり合っていないことがわかっている」とライフ氏は語った。「より多くの予算が、人々が実際にテレビを見ている場所にシフトしているのは間違いなく心強い。今後の選挙サイクルでもこのトレンドが急速に拡大していくことを願う」。
[原文:As midterm political spending outpaces 2020, streaming and TikTok become the focus]
Antoinette Siu(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)