商売の基本は、求められるものに応えること。その大原則にのっとりソマリア沖の海賊を説得しマグロ漁師への道筋をつけたのが、「すしざんまい」の木村清社長だ。一体、何を話したのか。人材育成コンサルタントの黒木安馬氏が「超一流の仕事の言葉」を紹介する――。
※本稿は、黒木安馬『雲の上で出会った超一流の仕事の言葉』(あさ出版)の一部を再編集したものです。
2020年1月5日、東京都内の本店で、同社が競売で1億9320万円で購入したクロマグロの解体ショーを行う、寿司レストランチェーン「すしざんまい」を運営する喜代村の木村清社長。 – AFP/時事通信フォト
あの「ハーバード・ビジネス・レビュー」にも紹介された
高校時代に当時文部省派遣で米国に留学した同期に、スペイン大使、国連大使などを含めて複数の大使がいる。
数年前の同窓会で、「あれほど大騒ぎしていたソマリア沖の海賊が、いつの間にかいなくなったけど、それには『すしざんまい』の社長が関与していると聞いたが……」と話題になった。
その噂は、ハーバード・ビジネス・レビューが紹介してから、CNNやBBCも放映して、世界ではかなりの話題なのに日本では知られていないのはなぜかとなった。
サウジアラビアやイエメンなどがある砂漠の巨大なアラビア半島と、スーダン、エチオピア、ソマリアなどがあるアフリカ大陸の間にあるのが紅海である。
地中海からスエズ運河を通過して、南へ紅海を通り、ソマリア沖のアデン湾を抜けると広大なインド洋へと開ける。欧州とアジアを結ぶ海路の大動脈で、年間2万隻の商船が往来している。
その海域で機関銃やロケット砲で武装した海賊が頻繁に出没して、2008年だけで580名の船員が人質にされて膨大な身代金を要求されている。
漁船を改造した高速艇だから、襲撃してくるまで漁船なのか海賊なのか不明であり、脅威は海運業界に大きな負担を強いて国際問題となっていた。それが2013年頃から急に海賊がいなくなったのである。
築地場外市場に本店がある『すしざんまい』を経営する喜代村の社長は、正月の初競りでマグロを1億円前後の最高値で買い上げる話題の主、木村清氏。その木村社長に直接会って話を聞いた。
「好き好んで海賊をやっているんじゃない」
ソマリア沖はキハダマグロが獲れる良い漁場なのだが、海賊の出没騒ぎで漁ができなくなった。調べてみると、誰も海賊たちと話したことがないという。海賊だって同じ人間なのだから会って話を聞いてみようと、ソマリアに出かけた。
内戦が続いてボロボロになった国では、生きていくだけでも悲惨な日々で、それは漁師たちも同じだ。貧困と飢えは、目の前を往来する世界中の船団、「宝船」に目を向けさせた。
漁師たちはついに禁断の大海原の強盗と化してしまい、平和な海は無法地帯になった。ところが彼らと話してみると、好き好んで海賊をやっているんじゃない、ただ生きるためだと言う。じゃあ、マグロを獲ればいいじゃないか、もっと誇りを持った人生にしなくちゃいかんと話した。
「マグロ漁の方法は教える! 漁船も私がすべて調達して、まず4隻を持ってきて与える! もちろん、ソマリア国内にマグロの冷凍倉庫や流通設備は私が整えるし、そのマグロはすべて買い取る! そうすれば本来の漁師に戻れるだろ! 船も確保されて、売り先も心配ないとなれば、何も問題はないだろう!」
そうして、年間に300件以上も発生していた海賊襲撃被害は2014年以降からパタッと消滅した。正直、まだ採算はとれていないが、利益が出る目論見は立っているという。
「商売は、目先の利益を考えたらいかん。どうやったら喜んでもらえるか、何を求められているかに応えるのが商売だ」
その年に、アフリカ・ソマリア沖の海賊問題解決とマグロ漁場開拓のため、ソマリアの新政府に民間による漁業支援を申し出た。
和食が世界的にブームになり、乱獲で漁獲量も激減し始めていたから、ソマリアの件がうまくいけばマグロが入手できる上に海賊行為もなくなるという一石二鳥の名案であった。
初競りで本マグロを1億5540万円で落札
木村さんは、1952年千葉県野田市に生まれた。4歳で父親を亡くしている。中学校卒業後、航空自衛隊に入隊、パイロットを夢見ていたが、通信兵養成コースだったため失望し、大検を受けて、中央大学法学部の通信教育を始める。
自衛隊を辞めて司法試験を目指すが、生活するために、640軒回っても売れないブリタニカ百科事典の訪問販売など、アルバイトを転々とする。やがて大洋漁業(現マルハニチロ)の子会社で、冷凍食品を扱う新洋商事に入社する。
1979年に独立して木村商店を創業。弁当・寿司ネタの製造販売、海産物輸入、そしてカラオケボックスやレンタルビデオ店、コンビニ経営など90もの業態を経験する。
1985年に「喜代村」を設立。水産食品、弁当、寿司を扱うが、バブル崩壊に遭遇し、築地に「喜よ寿司」を開業。2001年に、日本で初めての年中無休、24時間営業のすし店「すしざんまい本店」を開業すると、またたく間に店舗数を増やす。
35坪、40数席の店で年間売り上げ10億円、一日の客回転率23.5という驚異的な店に成長する。
※写真はイメージです – iStock.com/key05
2006年には、寿司職人の養成学校「喜代村塾」を開校。2013年、外国勢のマグロ乱獲に対して、「ニッポンのマグロは私たちが守る!」と、初競りで大間産の本マグロを1億5540万円で落札して話題になった。マグロ解体ショーを本人が行って宣伝しているが、寿司職人ではないため寿司は握れないという。
日中は閑古鳥が鳴く築地で「寿司屋」が大当たりした理由
築地市場は、つい10数年前までは、夜明け一番の競り市が終われば、昼前には人通りが絶えて、日中は閑古鳥が鳴くシャッター通りになっているのが普通の風景だった。
ところが、競りに各地から集まるトラックの運転手などは夜中過ぎには築地に到着している。明け方の競り市が始まるまで無人の暗闇で待つしかなく、食事をするところもない。
そこに目をつけての、「すしざんまい本店」オープンだった。
黒木安馬『雲の上で出会った超一流の仕事の言葉』(あさ出版)
新鮮ネタを仕入れに来るプロたちは、築地で寿司なんか食う者はいないと誰もが笑いものにした。ところが蓋を開けてみれば、大当たり。夜中過ぎになると混み始めるという、ほかでは見られない珍しい現象が起きたのだ。
築地は銀座の目と鼻の先にある地域である。銀座で遅くまで飲んだ客にホステスたちが食事をねだる。タクシーですぐそこの魚市場に美味しい寿司屋があると評判になった。築地の魚……聞いただけで本場の新鮮なイメージが誰にでも湧いてくる。
そして築地は、国際的な観光地になり、買い物をして寿司を食べる名所となった。
木村さんは言う。
「人は何のために生きるのか? 何のために仕事するのか? 人生は明るく、楽しく、元気よく、志をもって生きよう!」
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黒木 安馬(くろき・やすま)
Institute of Success Technology Japan/株式会社日本成功学会CEO
文部省派遣留学生として米国Oxford高校卒業後、早稲田大学を経てJAL入社。国際線乗務員として30年間乗務。機内で松下幸之助、本田宗一郎、オードリー・ヘップバーンなど世界的VIPたちと出会い言葉を交わす。著書に、『ファーストクラスの心配り』『あなたの「人格」以上は売れない!』(ともにプレジデント社)、『出過ぎる杭は打ちにくい!』(サンマーク出版)などがある。
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(Institute of Success Technology Japan/株式会社日本成功学会CEO 黒木 安馬)