東芝 苦肉の策実施も続く茨の道 – 大関暁夫

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東芝の事業三分割が大きな衝撃をもって受け止められています。「日本のコーポレートガバナンスにおける大改革と評価できる(菊地正俊みずほ証券チーフストラテジスト)」とこれを評価する声がある一方で、「東芝は自滅への道を突き進んでいるように思える(久保利英明元東京第二弁護士会会長)」という批判的な見方もあります。

その実どうなのか。それぞれの見解の根拠を検証しつつ、東芝の復活に向けた現在地を確認してみます。

「海外大手でも実施」東芝の戦略が”良策”とされる背景

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まず東芝の事業三分割計画についてですが、2023年度にグループ全体を発電、公共インフラ、ビル、ITソリューションなどを手掛ける「インフラサービス会社」、半導体、パワー半導体、HDD、製造装置などを手掛ける「デバイス会社」、そして「東芝」の名称での存続会社で主にキオクシアや東芝テックなどのグループ企業事業体の株式を保有して管理する「資産管理会社」の3社に分割し、それぞれを上場。お互い株の持ち合いはせず、各社の専門性を高めかつ経営判断の迅速化をはかることで、それぞれの会社が専門領域で最大限の発展をめざしていくというものです。

事業分割は一般にスピンオフ(分離)と呼ばれており、分割後の単体事業に将来性が見込めるならば、大きな効果が期待できるとされています。

すなわち、コングロマリット・ディスカウント(多岐にわたる事業を扱うことで、個々の事業価値が目減りしている状態)に苦しむ企業体がそれを解消し各事業単体での正しい事業価値を得ていくという意味で、スピンオフは大きな期待が持てる事業戦略であると言えるのです。

この観点から考えれば、まさにコングロマリット・ディスカウント状態にあるとアクティビスト(物言う株主)たちから強い批判を受けてきた東芝にとっては、この上ない良策であるように思えます。

スピンオフに関しては、米国では既に毎年50件程度が実施され、大企業の転換戦略として定着しています。

例えば、2015年にネットオークション大手のイーベイからスピンオフしてナスダック市場に上場したWEB決済サービスのペイパルは市場に好感され、イーベイとペイパルを合わせた株式価値の合計はスピンオフの前よりも上昇。狙い通りにコングロマリット・ディスカウントを脱しているのです。

このような海外での実例をひいてのスピンオフ効果認識が、東芝の事業三分割をそれなりに評価する理由になっていると考えられます。

スピンオフ計画に批判的な意見の根拠は明白

さらに東芝と時を同じくして、米国を代表する世界的企業であるゼネラル・エレクトリック(GE)やジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)が、スピンオフ戦略を公表したという潮流も、日本ではまだ実例に乏しいスピンオフ戦略に対する評価を後押していると言えます。

GEやJ&Jが相次いでスピンオフに踏み切ったことは決して偶然ではなく、コロナ禍においてデジタル化の急進展をはじめ、企業経営が大きな転換点を迎え、企業経営が効率化とスピードアップを迫られた結果の前向きな対応として、一歩を踏み出したと言えるのです。

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しかしながら、東芝の場合は少々事情が異なります。事の発端は2015年の不正会計という不祥事であり、直後に米国原発事業における巨額損失が明るみに出て経営危機に陥るという、今に連なる大きな汚点がそこにあるからです。

さらにこの経営危機からの脱却策として、アクティビストたちからの資金支援を得たことが、その後の東芝にさらなる暗雲を垂れこめさせたと言えます。

成長戦略が描けないことに業を煮やしたアクティビストが経営陣交代要請を強めると、東芝の経営陣は経済産業省の力を借りてこれを排除しようするという、重ね重ねガバナンス上由々しき問題を起こしてしまったわけなのです。

今回の事業三分割計画はこのような流れを受けたものであり、東芝のスピンオフ計画に批判的な意見の根拠が、「GEやJ&Jと同列に語るのはどうなのか」というところにあるのは明白です。

三分割案を提案したのは、6月にアクティビストたちとの協議を経て招いた、ボーン・プロフ氏ら新社外取締役で構成される執行部から独立した同社戦略委員会であり、東芝経営陣の意思で組み上げた新戦略とはおよそ言い難いわけですから。

同委員会による執行部への提案から組織決定までの時間の短かさをみても、事業三分割後の事業について十分な仮説検証がなされたとは思えません。

この点について事業コンサルタントの大前研一氏は、「3事業のうち可能性を感じるのはインフラ事業の一部のみです。残り2事業は全体としてアップサイドがほとんど見込めない状況ですし、半導体メモリー事業にいたっては本社がキオクシアの株を保有しているに過ぎず上場するなど夢の話」「今回発表された3つの事業分割のままでは、勝てる見通しはほとんどない」(大前研一 ニュースの視点Blogより)と、かなり手厳しいです。

このような考察から結論として見えてくるのは、東芝の事業三分割を前向きに評価するとすれば、スピンオフという手法を日本を代表する大手企業が取り入れたことに関する評価であるということ。

すなわち、税制改正によってスピンオフ戦略をとりやすくなったという背景もあり、東芝のような大手企業が率先してこの戦略にのりだしたことで、大規模化と多角化によって利益率が下がった多くの昭和企業にとってスピンオフは有力な選択肢とし顕在化し、日本における産業の新陳代謝が進む可能性はあると言えるでしょう。

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