雪の降る日のブースター接種の「話」

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天気予報では9日、ウィーン周辺は大雪が降ると言っていた。早朝3時、窓から外を見たらまだ降っていない。「予報が当たらなかったのかな」と思い、少しベットベッドに横になった。4時半に目を覚まして朝食の準備に取り掛かった時、窓から雪が降っているのがみえた。「雪だ。最近の天気予報は間違わないのだな」と感心してしまった。

ウィーン市で9日、久しぶりの大雪が降った(2021年12月9日午前、撮影)

ウィーン市の風景が一挙に真っ白になった。当方のアパートメントのベランダには雪が積もり、「20センチの雪の壁」ができたので、いつも見てきた向かい側の家の様子も見えなくなってしまった。

雪は格別なものだ。雪が降る日は喧噪な日々に動かされてきた人も哲学的になる。当方も例外ではない。先月末、当方の誕生日にウィーンで今年最初の雪が降った。「人は忘れていても、雪は当方の誕生日を覚えてくれたのだ」という感謝の思いが湧いてきた。そして「9日」にも雪が降った。

オーストリア最大のワクチン接種センター内風景(2021年12月9日、撮影)

「9日」は3回目のワクチン接種を受ける日だ。ブースター接種(追加免疫接種)だ。前日は早めにベッドに入り、9日午前11時の接種時間に体調を合わせてきた。その日、雪が、それも大雪が降った。まるで当方のブースター接種日を祝しているように、と当方はいつものように勝手に考えた。雪は休みなく降り続けているので、「何かいいことがあるかもしれない」と漠然とした思いが湧いてきた。

このコラム欄では第1回のワクチン接種日の様子を写真付きで紹介したので、3回目のブースター接種の日の事情を書いておく。時間の経過に沿って記録しておく。

9日早朝、PCを開けるとウィーン市保健局からメールが届いていた。「おはようございます。今日は貴殿のブースター接種日です。よろしく」と短いメッセージが入っていた。ワクチン接種日を忘れる市民が多い。何とか接種率を引き上げようとするウィーン市保健局の努力だ。

地下鉄でオーストリア最大のワクチン接種センター「オーストリア・センター」に家人と一緒に行った。幸い、雪が降ったこともあって、ワクチン接種を受ける市民の数は普通の日より少なかった。PCR検査を受ける所をすり抜け、ワクチン接種への道しるべに沿って歩き出した。入口には2人の若い青年が待機し、道案内をしていた。センター内に入ると、まず自身の健康に関するアンケート用紙を記入。特定の疾患がないか、アレルギーはないか、などだ。それを書き上げて、次のコーナーに行くと、健康保険証や注射パスをチェックする場所に来る。それを終えると、次は接種を受ける前に医者のコントロールを受けなければならない。内容は1回、2回目と同じだ。当方は血圧降下剤を飲んでいるというと、「問題ありません。接種して発熱したり、頭痛があれば、これこれの薬を飲んでいいです」等、薬の名前を言ってくれた。

当方の1回目2回目の接種はmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンのモデルナだったので、「モデルナでお願いします、量は3回目の場合、半分だと聞いていますが」というと、「その通りです」とちょっと笑いながら答えてくれた。そして、いよいよ接種ブースに入る。多くのブースが並んでいるが、時間が早いこと、雪降りの日だったこともあって、ここでも接種を受ける市民の数は少ない。青年医師がカーテンを開けてブースから顔を出したので、家人とそこに入ることにした。

青年医師は親切だった。ワクチン接種票にサインをしながら、「接種は右腕ですか、左腕ですか」と聞く。「これまで左腕で接種を受けてきました」というと、医師は、ワクチン注射針を取り出す。腕に力を入れている当方に、「腕を緊張せず、緩めて下さい。そのほうが筋肉に針が入りやすく、後で痛みも少ないですよ」と親切に教えてくれた。ワクチン接種後は2日間ほど腕の筋肉を使う仕事やスポーツは控えるようにとのことだ。ワクチンパスを受け取り、15分待機して様子を見るように言われてブースから出る。矢印方向に行くと間隔をあけて椅子が並び広い会場がウェイティングルームになっている。トイレや、自動販売機、向こうには緊急手当て室も見える。前にある大型スクリーンにはワクチン接種の入口から終わって帰るまでの様子がビデオで流れている。

接種を終えた市民はホットした表情をしながら、目の前の大きな時計を見て時間が経過するのを待つ。家にSNSでワクチン接種を終えた報告をする人、スマホを見ながら時間待ちをする人など、広い会場は静かだ。

接種センターを出る前にはワクチンを接種したドクターのサイン付きの注射パスを提示してチェックを受ける。受付で貼ってもらった接種シールだけ見せてワクチン接種せずに出ていく人がいるからだ。2Gの時代、ワクチン接種証明書がなければロックダウン明け後、レストランや喫茶店にも入れないから、ワクチ接種証明書がどうしても必要となることから、偽造の証明書が巷には出回っているという。

ワクチン接種センターに到着してから出ていくまで30分あまりの短時間で終わり、地下鉄に乗って雪景色をみながら帰宅した。やはり雪の日の接種はよかったのだ。予約をしていても、多くの人が来れば長時間、寒い外で並んで待たされるのではないかと心配していたが、待つことなく会場の中にはいり、スムーズな流れだった。

オーストリアでは12日、4回目のロックダウンが終わるが、コロナ規制と対応はその後、州によって異なる。オミクロン変異株の感染拡大を恐れるウイルス学者は、「ロックダウン明け後も気を付けないと、来年2月ごろには5回目のロックダウンを避けられなくなる」と警告を発している。

米製薬大手ファイザーやモデルナ社は、「オミクロン株に対してもブースター接種すれば効果は増加する」と説明、ブースター接種を呼びかけている。オーストリアのワクチン接種率は欧州の中でもドイツと同様低い。2回接種率は10日現在、68.8%程度だ。そこで同国では2月1日からワクチン接種義務化を実施する。その草案を作成中だ。未接種者へ600ユーロ(約7万6800円)から最大3600ユーロ(約46万1000円)の罰金が科せられる。ワクチン接種を拒否する国民が政府のワクチン接種義務化、コロナ規制に反対する抗議デモ集会を行っている。11日にも数万人のコロナ規制に抗議する集会が開かれる予定だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年12月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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