うっすら見えた経済ショックの引き金:ロシアと中国も不安要素だが

アゴラ 言論プラットフォーム

今年の世界経済は「パウエル ショック」とも言えるジェローム パウエルFRB議長の変質振りが世界経済をかき混ぜました。一年前の「この物価高は一時的」という見通しが「ひつこい物価高」に変わり、それに伴い彼のスタンスはハト派からタカ派に変わりました。ただ、何度も指摘しているようにこのショックは今年ずっと続いているもので過去に経験した経済危機とは様相が違います。

リーマンショックが起きたのはまるでその時に突如、異変が起きたと思っている方も多いと思います。実はアメリカの住宅バブルは2006年6月頃にピークをつけ、調整に入って2年以上たった2008年9月にリーマンショックが起きています。住宅価格はケースシラー指数でみるとその2年間で11%ほど下落しており、その後、住宅市況は2012年までかかって更に17%ほど下落した経緯を辿っています。ピークから換算すると27%になります。下落過程で暴発した経済ショックともいえます。

リーマンショックの引き金は信用度が低い収入層への無理な住宅ローンが引き起こした経済危機でした。経済というのは非常に繊細で様々な力学の中でバランスしながらかじ取りをしています。ところがあるところで無理な力がかかると歪となりそれが蓄積して膨大なエネルギーを発して爆発します。経済はバランスさせるために我慢に我慢を重ねていますが、耐えられなくなると暴発すると考えてよいでしょう。

とすれば私は今、世界経済は耐えているのだとみています。株価がピークを打ったのは21年12月なのですが、実際には21年8月から10月にGAFAMやテスラを中心とする主要銘柄に買い疲れははっきり見て取れます。そこから既に1年以上経過していて我慢の蓄積がそれなりに溜まってきています。

ではどこから暴発するのか、これを予想するのは極めて難しい作業です。みなさんはロシアとか中国と思われるかもしれません。もちろんそれらの国に不安要素はあるのですが、私は今回は欧州から始まるのではないかという気がしてきました。

一昨日、ロシアと欧州を結ぶガスパイプライン、ノルドストリームとノルドストリーム2に合計3か所の極めて深刻な損傷が発生しました。ノルドストリームは現在、元栓を止めていたので漏れたガスはパイプの中に残っているだけのもので数日中に空になるはずです。環境への危惧もあまりありません。ただこの損傷は発生理由を別にしてロシアは欧州にガスを送らない十分な理由が出来たとも言えます。いや、修復しても「再びテロに破壊される可能性がある」として運用しない公算もあります。

欧州はその日に備え、アリのようにガスを蓄えてきました。よってただちにガス不足の心配はないと思われますが、長期的に脱ロシア対策を進めなくてはいけないシビアな状況にあります。これが欧州のインフレ率が8月は9.1%で北米より高い数字で推移している一つの理由です。つまり足腰は北米に比べ弱いと言わざるを得ません。

イタリアでは極右政権FDIが第一党になりメローニ女史が首相に指名される可能性が高まっています。FDIが勝利した理由は彼らが前政権下で唯一連合与党に入っていなかった主要政党だったからです。国民の豹変ぶりは尋常ではなく、前回のFDIの支持率は4%、今回は暫定26%となったその理由は国民の物価高などへの不満でした。

人は温かいスープと毛布を感謝の気持ちで頂くことを忘れ、当たり前だと思うようになっていました。それをはぎ取られると反旗を翻す、つまり国民のコントロールが最も難しい時代とも言えます。ならば、うっすら見えた次の経済リスクのキーワードは国民のボイスではないか、という気がしてきたのです。まだ力で押さえつけているロシアや中国が問題の発祥ではないでしょう。

ではどこでしょう?私はズバリ、英国が悲惨な状況に陥るとみており、英国発の経済ショックが起きうる可能性が出てきたとみています。

トラス政権が打ち出した大規模な経済対策は目も当てられないほど酷い内容です。おまけに政権が打ち出した内容を受け、通貨防衛でイングランド銀行は急激な利上げを行わざるを得ない状況にあります。これを「ブレーキとアクセルを両方踏む政策」というのですが、早晩英国の経済が行き詰まる場合、世界経済への衝撃波は大きいのです。

4-6月のGDPはマイナスでイングランド銀行は10-12月期から景気後退に入ると新政権ができる前から予想していました。経済のファンダメンタルズは良くありません。その中でこれ以上急激な利上げをすれば住宅ローンなど債務を負っている人たちの破綻リスクが急速に高まることになり、経済的打撃を受けた政権への圧力は相当なものになるでしょう。私は経済音痴のトラス政権は短命で終わると予想しており、労働党への政権交代は大いにあり得るとみています。

英国経済がどこかで大きな暴発を起こした場合、IMF支援を要請するほどの衝撃となり得ます。これは冒頭の話と比べればEUを離脱した2020年1月31日から始まった英国の経済的悲劇であって2年8か月たち、コロナで隠れていた歪がいよいよ出てきたともいえるでしょう。今回の大規模経済政策にはIMFが異例の警告を発するなど世界のトップは強い懸念を示しています。

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あまり楽しい話ではありませんが、我々は今、暗雲の中にいることは確かです。コロナ明けで浮足立ったつかの間の日差しももうしばし、隠れざるを得ない気がします。個人的にはもちろん、豪雨は避けてもらいたいと強く願っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年9月29日の記事より転載させていただきました。

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