NY市が地下鉄利用者をAIカメラでスキャンし始めた理由とは?

乗客の無賃乗車問題に頭を悩ませているニューヨーク市の都市交通局(MTA)。2022年にMTAが無賃乗車で被った損害額は6億9000万ドル(約970億円)にまでのぼりました。

先日MTAは、AIソフトウェア搭載のカメラで運賃を支払わずに地下鉄の改札口を乗り越えていく乗客をスキャンしていることを認め、スキャンを「数を把握するためのツール」として今年中にスキャンカメラを24以上の駅で設置することを計画しています。

プライバシーの問題? ただの人数カウント?

ことの発端は今年5月。AIソフトウェア搭載のカメラが7つの駅に設置されたことがNBCニュースによって報じられました。

このAIソフトウェアはスペインのソフトウェア会社AWAAITが開発したもので、高騰する地下鉄運賃を払わずに乗車する人を追跡できます。

テストでは、運賃を払わなかった人たちの12%が改札のゲート下をくぐって通過していて、20%が上を飛び越えていたことが明らかに。そして50%以上は開いている非常口ゲートをそのまま通っていたのです。

米Gizmodoの取材に、MTAの関係者はスキャンカメラは「研究目的」のみを意図していると説明。しかし、市民の自由を擁護する団体は、乗客の監視は長期的なプライバシー問題を引き起こす可能性があると懸念を示しています。

MTAの広報担当者は、「追跡」と「スキャン」という言葉をこのシステムに使うことがまず間違っていると反論。「MTAは、運賃を払わない人の特定はせず、ただその人数を調査するためにこのシステムを使用している」と述べています。

NBCニュースが入手したMTAの契約書によると、MTAは実は2022年7月に早くもこのシステムを試験的に導入していました。ただし、その時点で顔認識ができる機能が使われていたかどうかは明らかになっていません。

違反者を発見→駅員に通知するシステムも

AWAAITは、無賃乗車対策のリアルタイム分析システム「DETECTOR」という製品を開発した会社。「DETECTOR」では、1台のカメラで複数のゲートを同時に高精度監視でき、違反者が特定されると駅員が通知を受け取れる仕組みになっています。

現在、AWAAIT開発のシステムは3都市で稼働しているとのこと。YouTubeでは、バルセロナの地下鉄で「DETECTOR」が動作している様子を見ることできます。

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Video: AWAAIT/YouTube

MTAは警察とデータ共有をしていないと主張

MTAはNBCニュースの取材に対し、収集したデータを今のところ「ニューヨーク市警察とは共有していない」とコメント。しかし、将来的にどうするかはノーコメントとしています。

また、このシステムから収集されたデータは一定期間だけ保存されることになっていますが、その具体的な保存期間についての詳細は明かすことができないとのこと。

このMTAのコメントについて、市民権団体Fight for The Futureは、MTAがこういった個人的なデータを行政機関に渡していないのは事実なのか、目的は本当に無賃乗車のためだけなのかを怪しんでいるようです。

別の団体STOP(Stop Technology Over-Policing)同じく懐疑的なようで、以下の声明を発表しています。

いくら監視を強化しても、運賃が払えない貧しい人々に払わせることはできません。また、このシステムでMTAがニューヨーカーをどのように追跡しているのか、そのデータがどこに保存されているのかというのが本当の懸念です。

ニューヨーク州は公共の安全を確保するため、公共交通機関全体での監視を強化する意向を明確にしています。

昨年末、Kathy Hochul知事は記者会見を開き、地下鉄車両に監視カメラを設置したいと述べ、「もし監視されることを心配しているなら、一番のいい解決案は地下鉄で罪を犯さないことです。そうすれば何の問題もありません」と犯罪防止のための監視を強く推し進めるコメントをしています。

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