米ワシントン州の市が絶滅危惧のシャチの群れに法的権利を与えるための第一歩。米市議会で初

GIZMODO

シャチにも平和で健康的に暮らす権利を。

アメリカ太平洋岸北西部ワシントン州の市長と市議会が、絶滅の危機に直面しているシャチのグループを保護するために、人権のような法的権利を与えるべきと正式に宣言しました。

絶滅危機のシャチに法的権利を与えたい

ワシントン州ポートタウンゼント市は、絶滅危惧種保護法によって絶滅の危機にあるとされているシャチの亜種であるSouthern Resident Orcasに、一定の法的権利を与えるべきだと宣言。市議会は宣言で、シャチは「ワシントン州民と世界の人々にとって文化的、精神的、経済的に重要である」と明言しています。

といっても、市長と市議会によって支持されているこの宣言に、法的拘束力はありません。あくまでも、他の政府機関や政策立案者にもシャチの法的権利を認めさせることと、現在の保護対策が不十分であることを強調するための取り組みなのだそう。

法制化への最初の一歩

Inside Climate Newsによると、仮に今回の宣言で認められたシャチの権利が法制化されれば、個人や団体がシャチの後見人として訴訟を起こし弁護士がシャチの代理人として法廷に立てるそうです。法制化を目指すための今後の予定については明らかにされていませんが、市は地域社会や先住民、連邦政府に対してシャチの法的権利を保証するよう呼びかけています。

David J. Faber市長は宣言で以下のように述べています。

Southern Resident Orcasの権利には、生存権、自治権、文化保護権、自由で安全に泳ぐ権利、自然由来の食料を十分に確保する権利、騒音や汚染による生息地の環境悪化から生じる身体的・感情的・心理的な被害から逃れる権利が含まれますが、これらに限定されません。

個体数は残り73頭

クジラなどの自分たちよりも大きな動物を群れで襲うことから「キラーホエール」とも呼ばれるシャチは、世界中に分布しています。海洋哺乳類保護法によって守られてはいるものの、カナダのブリティッシュコロンビア州とワシントン州に囲まれるセイリッシュ海では時の流れとともにその数が減少。1990年代には100頭以上だった個体数も、現在は73頭まで減っています。この地域で数が減っているしている原因として、ワシントン州魚類野生生物局は報告書エサ不足や船舶の往来によるエサ取りやコミュニケーションの妨害などを挙げています。EPAは、この地域に生息するSouthern Resident Orcasにとって主な食料源になっているキングサーモン(マスノスケ)の個体数が近年急激に減少していることも懸念材料だとしています。

今回法的権利を認めるべきと言われているのは、2018年に死んだ我が子に寄り添い、17日間にわたって1,600km泳ぎ続けて話題になったタレクアと呼ばれるシャチが属する群れです。エサの枯渇は解決することなく4年たってしまいました。

ポートタウンゼント市の宣言は、人間以外の動物にも法的な人格を持つ存在として法廷で弁護を受けられる、より大きな「自然の権利」を押し進める世界的なムーブメントを踏襲しています。実際に、このムーブメントのおかげで法的保護を勝ち取った動物もいるんですよ。

麻薬王エスコバルのカバを救え

2021年には、コロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルが所有していたカバの子孫が、オハイオ州南部地区連邦地方裁判所によって法的な人格を認められました。いきさつを説明すると、1993年に警察によって殺害された際、エスコバルがコロンビアで違法所有していたカバを政府が放置したため、やがて100頭以上まで繁殖し、地域の環境を破壊しちゃったのだとか。殺処分も検討されていたところでコロンビアの弁護士であるLuis Domingo Gómez Maldonado氏が、カバの群れを保護するために代理人として訴訟を起こしたんです。

ここでコロンビアでの訴訟を支援するために、アメリカの非営利動物保護団体Animal Legal Defense Fund(ALDF)が立ち上がります。コロンビアの法律では、アメリカ在住者は裁判で証言できませんが、アメリカの法律ではコロンビア在住者がアメリカの連邦裁判所に対して利害関係者による証言を求めてもいいそうなんですね。で、まずオハイオ州の裁判所で「利害関係者としてカバの法的権利を認めさせた後、ALDFがカバの代理人としてアメリカ国内の裁判で殺さずに個体数を抑制するために証言することに。もちろん、アメリカで下された判決がコロンビアで法的効力を持つわけはないのですが、そういった支援のかいもあって、2021年10月にはコロンビアの獣医師が数頭のカバを鎮静剤で眠らせて去勢手術を行なうことに成功したとGuardianが報じています。

認められないケースも

エスコバルのカバはなんとかなっている感じですが、いつもうまくいくわけではないようです。2018年にはニューヨークのブロンクス動物園で一頭だけになってしまったハッピーという名のアジアゾウに自由になる権利を与えるために、弁護士チームが訴訟を起こしましたが、今年初めに同州最高裁判所はハッピーに法的な権利を認めない判断を下しました。彼女はまだブロンクス動物園にいます。いつかゾウのサンクチュアリで暮らせるようになってほしい。


動物にも人権のような法的な権利をというと難しそうですが、動物や自然が人間活動による環境破壊や気候変動などの影響をできる限り受けないように、生態系ピラミッドの頂点にいる者として私たちは最大限の努力をしなきゃいけないんじゃないかなって思います。

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