AI は検索連動型広告をどう変えるのか。キーワード頼みの戦略が激変する可能性も

DIGIDAY

AIはそのうち、検索連動型広告のリーチと費用対効果のあり方を変えるかもしれない。

ChatGPTをはじめとするジェネレーティブAIツールの台頭によって変わる、消費者の検索行動に対応するため、多くのエージェンシーが商品ターゲティング、検索キーワード、コンテキストマッチ、先読み情報などで工夫している。メディアエージェンシーのグッドアップル(Good Apple)で検索/ソーシャル担当バイスプレジデントを務めるエリック・ハミルトン氏によると、若い世代のユーザーはとくに、検索目的でChatGPTやソーシャルメディアを利用する傾向があるという。

「マイクロソフトの検索エンジンであるビング(Microsoft Bing)は、ChatGPTを開発したオープンAI(Open AI)に巨額の投資をしている。一方、Z世代に人気が高い検索エンジンはTikTokとインスタグラムだ」とハミルトン氏はいう。「変わりつつある検索行動の影響を総合的に評価するには時期尚早だが、AIの波及効果は業界の景色を一変させるかもしれない」。

検索連動型広告は、コロナ禍前から着実な伸びを見せていたカテゴリーだ。とくに2020年に入ってデジタル化が加速すると、検索エンジンとマーケットプレイス型プラットフォームの広告需要が高まり、爆発的な成長が始まった。独スタティスタ・マーケット・インサイツ(Statista Market Insights)発表のデータによれば、検索連動型の広告費は2022年、全世界で総額2517億ドル(約35兆2500億円)だったが、2023年末には2793億ドル(約39兆1000億円)に達する見込みで、そのうち米国市場が1182億ドル(約16兆5500億円)と、かなりの部分を占めるという。

検索エンジンは単なる情報の入手元から、情報を先読みして表示する提供元に変わりつつある。いまやGoogleなどのプラットフォームはAIによる学習を通じて、ユーザーが検索する前に、その人が求める情報を予測できるようになった。

AIは着想と具現化を支援するツール

マーケターとしても、消費者のニーズに合ったコンテンツの広告を制作・配信するには、個々人の行動の理解が欠かせない。IPG傘下のヒュージ(Huge)でデータ部門のグローバルリーダーを務めるフリスコ・チャウ氏は米DIGIDAYの取材に応え、AIの役割を「コンテキストに沿ったキーワード検索の精緻化や、入札プロセスの費用対効果向上に役立つ」と説明した。

また、「AIは新たな体験、製品、サービスの着想と具現化を支援してくれる。我々はAIが提示するデータをもとに、キーワードプランナーだけが頼りだった従来の方法に比べ、より大局的な視点に立った検索戦略を策定できるはずだ」とも述べた。

AI導入の成果として、検索キーワードのライブラリが高度に充実するため、コンテキストに即したキーワードの可能性が広がる。また、広告費用対効果の向上も期待できる。特定オーディエンスセグメント向けの人気キーワードに多くの広告主が入札して競争が激しくなると入札価格が高騰してしまうが、AIを利用すれば「ありきたりでなく、一般に知られていない」キーワードを発見でき、コスト削減につながるからだ。

チャウ氏は、「たとえば、スポーツシューズを販売する企業の場合、検索連動型広告を利用するなら、まずはスポーツやアクティビティ関連のキーワードを設定する。しかし、『子育て』というトピックを検索戦略に取り入れようとすると、シューズとの関連性が薄いためコンテキストマッチが難しい。コンテキスト広告では、従来とは違うアプローチとしてAIを活用するのも一考だろう」とも話す。

AIはガイドのような存在

米カリフォルニアに本社を置くエージェンシー、レッドドア・インタラクティブ(Red Door Interactive)では、AIを組み込んだ検索エンジンの試験運用として、キーワード調査と記事解析目的のツールを利用している。とくに「複雑なトピックの調査には役立っている」と、同社のデータ/イノベーション担当バイスプレジデントであるロン・ハドラー氏は語る。

ハドラー氏はまた、「当社では社員が理解できていないトピックを扱う際にAIツールを使っている。若い社員でも中堅社員でも、そのトピックの専門家と同等の知識を身につけさせて、組織全体の底上げを図る方策のひとつと考えている」とも話す。

同氏によれば、レッドドア・インタラクティブではAIをガイドのような存在とみなしており、AIの限界も認識しているという。

課題としては、クライアントから提供され、取り扱いに注意を要するデータの流出をめぐるプライバシー保護上の懸念が挙げられる。同社では「業務のスピードとレベルアップ」のため、ほぼ全部門でAIを試験運用しているが、ツールの利用、透明性確保、クライアントの啓蒙に関して全社的な方針を定めているようだ。

「AIプラットフォームにクライアントのデータを入力してはならない。その種のプラットフォームがどんな情報を取り込み、保存し、第三者に送信しているかわからないからだ」と、ハドラー氏は言い添える。

どの業界も革命の余波を受ける

グッドアップルのハミルトン氏も、ヘルスケア業界等の機密データ共有の安全性に対する懸念を抱いている。同社は、独自の広告入札ソリューションを含むクライアント向けサービスにAIの機能を導入しているが、ChatGPTなどの大規模言語モデルにはクライアントのデータを入力しない。

「コピーライティングやコンテンツ制作では、アイデアの発想段階はともかく、それ以降はAIに頼るわけにはいかない」とハミルトン氏はいう。「とはいえ、ChatGPTの登場に伴い、ジェネレーティブAIツールの利用が飛躍的に拡大した。今後は、どの業界もなんらかのかたちで、AIによる革命の余波に直面することになるだろう」。

[原文:How AI is impacting search advertising’s growth

Antoinette Siu(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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