ラグジュアリーブランド が魅力ある雇用主になるためのガイド【ファッションブリーフィング】

DIGIDAY

今回のブリーフィングでは以下に注目する。

・デヴィッド・ヤーマン、人材を惹きつけるために人事方針を近代化
・不況が迫っているにもかかわらず、買い物を続けるラグジュアリーの消費者
・NFTが新しいNYFWのチケットに
・ボディポジティブなファッションコラボレーションの台頭

デヴィッド・ヤーマンによる魅力ある雇用主になるためのガイド

ファインジュエリー会社デヴィッド・ヤーマン(David Yurman)のプレジデントに就任して8カ月、エヴァン・ヤーマン氏は急成長に向けて社内のプロセスを近代化すべく迅速に動いている。彼の最初のステップは、人材採用のための人材を採用することだった。

2020年初頭以降、さまざまなカテゴリーや価格帯のブランドが、パンデミックの混乱期を利用して、日々の業務を検証し、優先順位をリセットし、よりよい方向に進むための新たな計画を定めている。42年の歴史のあるデヴィッド・ヤーマンにとって、それはリーダーシップの更新という結果をもたらした。共同CEOであるデヴィッド・ヤーマン氏とシビル・ヤーマン氏は、ブランドの唯一のオーナーとしてそのまま残留した。一方、プレジデントでチーフコマーシャルオフィサーには、キャロル・ペンネッリ氏に代わってヤーマン夫妻の息子エヴァン・ヤーマン氏が就任した。20年のキャリアのあるベテランであるエヴァン・ヤーマン氏は就任以降、機敏に行動して高みを目指す能力を発揮し、従来のやり方を見直す力があることを証明している。たとえば彼は企業チームの強を目指し、従来の人事部門のトップを採用することを避けた。

人材戦略をビジネスの価値観を創造する原動力に

1月上旬、エヴァン・ヤーマン氏は同社の人事および戦略部門のチーフという新たなポジションを設けて、元マッキンゼー(McKinsey)のパートナー、エミリー・ユエ氏を迎え入れた。ユエ氏は、マッキンゼー・アカデミーの企業研修プログラムを担当していた人物だ。

「人事部のトップはお金を生み出すものに近くないため、しばしば両手を後ろに回して戦っているようなものだ」とユエ氏は述べた。「人材戦略を当社のビジネスの価値観を創造する原動力となるものに結びつけることが、この役職が設けられた理由の核心にある。私たちは、成長について狭い視野で考えているのではないことを確認したい」。

ヤーマンのビジョンに「象徴」としてのステータス、最高のポジショニングが組み合わさっていたので、ユエ氏はこの仕事を受けたのだという。同社の総収入が2019年から2021年にかけて44%伸びている点も彼女は指摘した。

エヴァン・ヤーマン氏は、同社のチーフクリエイティブオフィサーとしての役割を維持しながら、現在事業の25%を占めるメンズジュエリーカテゴリーを含むインパクトのあるローンチを推進している。新たな地位に就任してからは、ユエ氏を雇用するだけでなく、同社を前進させるための戦略的な動きをいくつも行ってきた。その中には、サステナブルコレクションのローンチや、ブランド初のパリ旗艦店のオープンなども含まれている。

最終目標は優れた人材から優れた雇用主と思われること

ヤーマン氏と同様に、ユエ氏も自分の権限の下で会社の目標を設定し、迅速に行動に移している。たとえば、3年から5年後には同社が「魅力ある雇用主」となること、2027年までに多様性を50%にすることを彼女は求めている。後者の目標は「チャンスの贈り物」という彼女の強い信念に突き動かされている。ジェンダーの多様性は満たされているが、人種の多様性についてはまだ会社としてやるべきことがあると彼女は言う。彼女とヤーマン氏は、社の「戦略的明確化、人材開発、多様性への取り組み」を加速させるために、1億ドル(約138億円)を超える予算を設けたという。同社の利益の10パーセントは、社員の専門的な成長を保証するために配分されている。

「多様な人材を採用するだけでは不十分だが、多様な人材を確保し続けることも重要だ」と彼女は述べている。「多様な人材は、すでに多様な人材がいるところに行く。その状況なら成功できると思えるからだ」。

ユエ氏は、デヴィッド・ヤーマンの社員の80%に焦点を当てた5つの従業員開発プログラムを実施した。その中のリテールアカデミー(Retail Academy)は、リテールスタッフに製品について教えるだけでなく、販売や顧客対応への高度なアプローチを訓練することを目的としている。また、全社的なリーダーシップ開発プログラム、データ分析や機械学習などの技術的な能力に関するさまざまなトレーニングの機会もある。

「将来のビジネスの重要指標が何であるかを明確にする必要がある」と彼女は言う。それは市場をまたいで拡大する際に、会社のDNAを保持するためでもある。

ユエ氏が目指す「社員への提案をエンドツーエンドで高める」というのは、報酬以上に、同社が顧客に提供するラグジュアリー体験の類を社内にも反映させるということだ。だが最終的な目標は、ラグジュアリーをはるかに超えた分野で「卓越した人材」に「卓越した」雇用主であると思われることである。

社員による、社員のための福利厚生

現在、同社が提供している福利厚生の種類に「マインド・ボディ・スピリット」があり、これは医療保険、ジムのメンバーシップ、不妊治療支援、LGBTQ+社員の代理出産や養子縁組支援などを含むカテゴリーとなっている。また社員は自分のニーズに合わせて、就業日を最適化するための毎月の予算を持っている。たとえば、午後にほっとひと息つくためにSpotifyのアカウントを作ったり、在宅勤務の際に快適な環境を確保するためにアパートの清掃サービスを依頼したりするためにその予算を使うことができる。現在、デヴィッド・ヤーマンの社員は週3日、オフィスで仕事をしている。

「(こうした福利厚生は)従業員(のライフスタイル)に補完的に提供されるものだ。私たちの社員による、社員のためものだ」とユエ氏は説明した。

それに関連して、デヴィッド・ヤーマンでは、社員がより広い使命とコミュニティの一部であると感じられるような取り組みも行っている。「社員たちは専門的な仕事と個人的な使命の両方につながる目的を求めている。そして仕事が人生のあまりに多くの部分を占めるようになった今、組織のリーダーは、それを求める社員にとって第二の家族のように行動する責務がある」。

その一環が、社員に影響を与える大きな問題に対する視点を持つことだ。ロー対ウェイド判決が最近覆ったことを受けて、同社では数週間前の時点ですでに作成していたふたつのメモを引き出した。ひとつは、ロー対ウェイド判決を支持するというもので、もうひとつは、会社として従業員を支援することを表明し、女性の権利をつねに信じていることを「非常に明確に述べる」ものだったと、ユエ氏は述べた。

「早く行動することが大切だ。ほかがやっていることをいつも追随して真似しているようでは、理想の雇用主になるのは難しい」。

同社が発表した支援には、自宅から100マイル(約160キロメートル)以内で受けることのできないすべての医療処置に必要な交通手段の提供、地域での行動に参加するための休暇の付与、支援団体への寄付などが含まれている。

変化、成長、加速を推進する

ユエ氏によれば、デヴィッド・ヤーマンの現状は、変革、成長、加速というの3つの言葉に集約されるという。確かに新しいリーダーシップがこれらの変化を推進しているが、それとは関係なくこうした変化は必要なことだった。たとえば、同社の使命は人生の特別な瞬間を共有することだが、人々が何を特別とみなすかは、この2年間だけでも進化している。

「私たちには(ラグジュアリー)業界の将来の絶対的な基準となるものを形成する機会がある」とユエ氏は語る。「ラグジュアリーをデザインするということはどういうことなのか。クリエイティブで革新的なメゾンであるとはどういうことか。モダンなラグジュアリーやアクセシブルなラグジュアリーとはどういう意味なのか。私たちはより大きな夢を描いており、ほかに何が可能かを考えている」。

冒頭画像:エミリー・ユエ氏の写真(デヴィッド・ヤーマン提供)

そのほかのニュース

何が不況なのか? 買い物を続けるラグジュアリー消費者たち

7月13日にサックス(Saks)が発表した5月下旬のラグジュアリー買い物客の調査によると、高所得の顧客は引き続きラグジュアリーに出費をしているようだ。少なくとも20万ドル(約2760万円)以上の所得がある回答者の76%が、今後3カ月間に過去3カ月と同じかそれ以上のラグジュアリーアイテムを購入する予定であると回答した。この層は、500ドル(約6万9000円)の余裕があれば、まず旅行に使う(38%)、次に靴やハンドバッグなどのファッションアクセサリーに使う(29%)と回答している。

多くのラグジュアリーブランドは流通チャネルをあまり重視しなくなり、同時に、ショッピングに特化した検索エンジンは、優れた顧客体験を提供することにますます重点を置くようになってきている。リスト(Lyst)やショップスタイル(ShopStyle)もそうだ(ショップスタイルのジェネラルマネージャーであるアリソン・スタイフェル氏とのインタビューで得たインサイトについてを参照のこと)。そのため、一見不況に強いと思われるラグジュアリーの買い物客をめぐる競争は激化している。サックスのチーフマーチャンダイジングオフィサーであるトレイシー・マーゴリーズ氏いわく、サックスはこの挑戦への準備ができている。

「正しいファッションと商品を提供し続けなければならない。そのために、サックスはつねにラグジュアリー消費者をより深く理解するべく取り組んでいるため、毎シーズンもっとも適切な品揃えと刺激的なスタイルを提供することができる」と彼女はGlossyに語った。「私たちの顧客は型にはまったものを求めていない。ファッション性と新しさを求めており、サックスならそのような差別化された体験ができることを知っている。私たちの一貫したファッション性の高いマーチャンダイズのセレクションを通じて、顧客が最新のファッションを求める場所であり続ける」。

NYFWはNFTホルダーのたまり場となるか

2月のニューヨーク・ファッションウィーク(NYFW、New York Fashion Week)で、アルチュザラ(Altuzarra)とマーカリアン(Markarian)は、NFTマーケットプレイスのバブルハウス(Bubblehouse)と提携して制作したNFTをデビューさせた。その際、バブルハウスの共同創業者であるローハン・シンハ氏は、「NFTとファッションに関しては、まだ始まったばかりだ。ファッションブランド向けのNFT専用パスは、巨大な市場になるだろう」と語っている。今週の関連発表によれば、この予測には持続性がある。ジェイソン・ウー氏は、彼がデザインした2009年の大統領就任式でミシェル・オバマ氏が着用したロングドレスのデジタルコピーという形で、最初のNFTをリリースすると発表した。これは、9月10日に開催されるジェイソン・ウーのショーのチケット2枚と、バックステージへのアクセス、デザイナーとの交流会がセットになる予定だ。さらに、レベッカ・ミンコフ(Rebecca Minkoff)は、Mavion.worldとのコラボレーションで、別のNFTカプセルコレクションをリリースしている。この55点のNFTは、「物理的、デジタル、そして体験的なメリット」をアンロックすると同ブランドは述べている。そのなかには、レベッカ・ミンコフの次回のニューヨーク・ファッションウィークでのイベントのチケット2枚も含まれている。

ボディポジティブなファッションコラボがトレンドに

最近のあらゆるブランドの取り組みと同様に、買い物客から支持を得るには、コラボレーション商品が本物であることを示さなくてはならない。それぞれのブランドが明確に関与すべきであり、最終的に両ブランドのDNAを表現しなくてはならない。だからこそ、ボディポジティブで知られるファッションブランド同士がタッグを組むのは理にかなっている。あらゆる体型のモデルをランウェイに登場させることでよく知られるクリスチャン・シリアノ氏は、グロリア・ヴァンダービルト(Gloria Vanderbilt)とジーンズなどのスタイルでチームを組んだ。「(グロリア・ヴァンダービルトは)誰もがカーブのあるジーンズを作る前に、カーブジーンズを作っていた」と彼はリヴェット(Rivet)に語っている。また、サイズインクルーシブなD2Cスイムウェアブランドのサマーソルト(Summersalt)は、7月15日にデザイナーのダイアン・フォン・ファステンバーグ氏とのコラボを発表した。そのアイコニックなプリントと、シグネチャーでもある体型を美しく見せるラップのディテールが、家族全員が着られる幅広いサイズのサマーソルトのスタイルに活かされている。

[原文:Fashion Briefing: The luxury brand guide to becoming a destination employer]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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