Glossy リサーチ:ブロックチェーン をマーケターは実際どう試しているか?

DIGIDAY

これは、もっとも人気のある新興テクノロジーに関するリサーチシリーズの第3弾である。本シリーズは、Glossyの姉妹サイトであるDIGIDAYが5年前に作成したレポートのフォローアップであり、以前レポートしたテクノロジーがどのように進化しているかを考察し、その後登場した新技術を探るものである。今回は、マーケターがブロックチェーン技術をどのように活用しているかに着目する。

目次

・重要な調査結果
・ブロックチェーンの潜在能力は、実世界での応用不足から実現にいたっていない。
・マーケターは主にNFTのためにブロックチェーン技術を利用している。
・次にサプライチェーン・トランスペアレンシーが並び、セキュリティの優先順位は低い。
・マーケターは、ブランドアウェアネスを高めるためにNFTを利用している。
・企業は暗号がブランド認知度や収益を向上させることを期待しているが、それは主に投機的な試みである。
・暗号取引に最適なのはNFTマーケットプレイスや自社運営プラットフォームだ。
・ブロックチェーンが普及するには技術的な改善が必要である。

非代替性トークン(NFT)のドロップや暗号通貨への投資に関する多くの前評判にも関わらず、ブロックチェーン技術は、他の新興テクノロジーにくらべて普及が大きく遅れている。実際、Glossy+リサーチがこのシリーズで調査してきた新興テクノロジーの中でも、ブロックチェーンは理論上の投機的なものに留まっている。

2021年にはNFTと暗号通貨がホットなバズワードとなり、ブランドは投資と実験を増加する、あるいは少なくとも口先ではそうすると賛同していた。しかし2022年後半には、NFTの大部分を支える暗号通貨プラットフォームであるイーサリアム上のNFTの1日の市場規模は、2021年よりもはるかに低くなっている。スタティスタ(Statista)によると、1日の平均販売額は2021年8月の1億7800万ドル(約227.6億円)から、2022年11月29日にはわずか9万ドル(約1150万円)にまで落ち込んでいる。

そして暗号通貨自体も、暗号取引所FTXが11月に破産を申請するなど、昨年末、大きな市場暴落に見舞われた。暗号通貨は固有の価値や意味のある規制による裏付けがほとんどないため、純粋に投機的なものであり、暗号市場は概して不安定になる傾向がある。暗号通貨に対する消費者の関心の薄れは、Googleの検索トレンドにも反映されており、Glossyの分析によると「暗号通貨」という言葉の検索は、2020年から2022年にかけて急激に増減しつつ、ピークがどんどん低くなっている。

ブロックチェーン技術を利用している少数の業界専門家のうち、大半はNFTに一番実用的な用途を見出しており、暗号通貨は実際の使用においては3位となっている。消費者の関心を高めるため、一部のアーリーアダプターは、このテクノロジーをより身近で使いやすくすることを目指している。パブリッシャーはイベントチケットをNFTにすることで、ブロックチェーン体験をライブイベットに取り入れており、一方でマーケターは消費者が暗号通貨ではなくクレジットカードで取引できるようにすることによって、NFTの販売をわかりやすくしたいと望んでいる。ウェブサイトでの取引にビットコインの支払いオプションを追加するマーケターもいる。だが全面的に、企業も消費者も、このテクノロジーの真の目的を見出すのに苦労している。

「AI以上に乱用されている言葉があるとするなら、おそらくそれはブロックチェーンだ」と、ガネット(Gannett)のCTO、ヴィンセント・チレル氏は言う。「ブロックチェーンのいくつかの使用例がどのようなものなのか、一般の人々は漠然とした考えしか持っていないと思う」。

このレポートでは、Glossy+リサーチが代理店、ブランド、小売業者、パブリッシャーなどの組織の業界専門家388人を対象に調査を行い、NFTや暗号通貨などのブロックチェーン技術を現在どのように使用しているか、また将来的にこれらのテクノロジーをどのように取り入れる予定なのかを探った。

重要な調査結果

・調査回答者のうち、ブロックチェーンに投資している、またはブロックチェーンを利用している人はわずか16%で、Glossyのシリーズではもっとも机上の新興テクノロジーとなっている。70%以上がまったく使っていないと回答した。

・ブロックチェーンを使用している人のうち半数以上(51%)がブロックチェーン技術の構築をサードパーティベンダーに依存している。

・もっとも利用されているブロックチェーン技術はNFTで、回答者の64%が利用している。2番目と3番目によく利用されているのが、サプライチェーン・トランスペアレンシーと暗号通貨で、それぞれ45%以上となっている。最後はセキュリティとなっており、回答者の3分の1強だった。

・企業は主にブランドアウェアネスを高める目的(回答者の81%)でNFTを利用している。次いで、新たな収益源の確立と新規顧客の獲得となっている。

・暗号通貨を利用する目的としてもっとも一般的なのは取引で(回答者の58%がこれを選択)、新たな収入源、ブランドアウェアネス、顧客獲得もNFTと同様に上位に挙がっている。

・回答者が暗号通貨による支払いと引き換えにバーチャルグッズを販売するためによく利用しているプラットフォームは、サードパーティのNFTマーケットプレイス(70%)と暗号通貨取引所(45%)である。だが自社所有運営プラットフォームも60%で2位となっており、上位にランクインしている。

・回答者は、ブロックチェーン技術を導入する実用的な方法を見つけるのに苦労しており、大多数(71%)が自分のビジネスとは関連性がないと述べている。

ブロックチェーンの潜在能力は、実世界での応用不足から実現にいたっていない

Glossyが本シリーズで分析してきた人工知能(AI)拡張現実(AR)、仮想現実(VR)といった他の新興テクノロジーとあわせて考えると、ブロックチェーンは他の新興テクノロジーに普及の面で遅れをとっている。調査回答者のうち、ブロックチェーンに投資または利用しているのはわずか16%で、業界専門家のほぼ4分の3(72%)がこのテクノロジーをまったく使用していないと述べている。

IPGメディアラボ(IPG Media Lab)のエグゼクティブディレクターであるアダム・サイモン氏は、この採用の少なさによって、ブロックチェーンは広く利用されるテクノロジーではなく、主に理論上の新興テクノロジーの領域に留まっていると述べた。「NFTやWeb3テクノロジーは大きな注目を集めてきたが、実際の数字を見るとかなり少ない」とサイモン氏は言う。「暗号ウォレットをアクティベートしている人の数は100万人以下だ」。

採用されないことの背景にある主な理由は、企業がこのテクノロジーを利用した、NFTドロップのような単発のイベントによる話題作り以上の、もっと現実的な機会を見つけるのに苦労しているためだ。NFTは、割り当てられたデジタル資産の所有権に関する複製不可能なデジタル証明書として機能する。サイモン氏によれば、NFTをデジタルアート作品やコレクターズアイテムの形で消費者に販売することは比較的簡単だが、NFTに対する消費者の関心を維持することについては、企業はいまだ実験的に行っている。

「ユニークな体験へのアクセスを提供するためにブロックチェーン上でNFTを使用する、そのようなトークン化されたアクセスといった、長期的で興味深い適用の可能性がある」と彼は述べた。「これまで見てきたトークン化されたアクセスの実験は、チケット発行のような従来のテクノロジーを使って簡単に構築できるものと非常によく似ている」。

またサイモン氏はこうも付け加えている。「調整のコストを削減し、異なるプロバイダーのNFTを複数所有している人にユニークな体験を提供するという話がある」。

暗号通貨は、ビジネスへの投資や消費者の関心に関しても、独自の困難がある。最近、暗号通貨は、経済的にも世間の認識においても、大打撃を受けた。バハマに拠点を置く人気の暗号通貨取引所であるFTXは、コインデスク(CoinDesk)の報道によって顧客の払い戻しを支えるだけの資金を欠いていることが明らかになり、2022年11月に破綻した。FTXは11月11日に破産を宣言し、創業者でCEOのサム・バンクマン=フリード氏は純資産が約160億ドル(約2兆480億円)からほぼゼロになり、退任した。2022年12月、バンクマン=フリード氏は、FTXの投資家を欺く計画を組織した罪に問われ、8件の連邦詐欺罪ぽよび共謀罪で逮捕されている。

暗号通貨は現在、純粋に投機的なものであり、固有の価値による裏付けもなく、また市場を規制する連邦政府機関もまだ存在していないため、一般に暗号市場が不安定になる傾向がある。同様に、NFTは消費者の関心を牽引・維持するために誇大広告に依存する傾向があるので、その価値は予測できない可能性がある。

ブロックチェーン技術に投資する理由を見つけた企業は、ほとんどが技術アプリケーションの構築を外部ベンダーに依存しており、回答者の半数強(51%)がサードパーティベンダーを利用していると述べている。ブロックチェーン技術の構築に社内チームを利用しているのは約4分の1(24%)に過ぎず、その複雑さとセキュリティへの影響を考慮してか、25%が社内チームとサードパーティベンダーを併用している。

そうしたサードパーティベンダーのひとつ、デクリプトスタジオ(Decrypt Studios)は、独自のNFTを鋳造し、他のブロックチェーン関連製品を製造するための手段をブランドに提供する手助けをしている。同スタジオは、ブロックチェーン投資会社コンセンシスメッシュ(ConsenSys Mesh)のメディア部門が所有し、2021年10月に開設した。NFTのドロップからメタバースに隣接するアクティベーションまで、ブランドと個人クリエイターの両者に向けてブロックチェーンとWeb3テクノロジーを活用した幅広いプロジェクトのプロデュースに注力している。

「NFTの鋳造は、気の弱い人には向いていない。(Web3に)入ってくる多くの人々がまだ理解していない、暗号世界特有の物事を理解しなくてはならないのだ」と、デクリプトメディア(Decrypt Media)のCROで発行者であり、またデクリプトスタジオの代表も務めるアランナ・ロアッツィ=ラフォーレ氏は述べた。「この分野にはあまりにも多くの未解決の問いがあり、その答えはつねに変化している。だから、我々はそのすべてを解明する手助けをしている」。

そのほかに、ブランド自身がサードパーティのソリューションに投資している例もある。たとえば、ナイキ(Nike)は昨年末、バーチャル製品のドロップとNFTを専門とするデジタルアートスタジオ、RTFKT(アーティファクト)を買収した。この買収でナイキはNFT分野の企業を買収した初の大手小売企業となったが、それはおそらく、誇大広告後の懐疑論にも関わらず、今後小売企業のデジタル戦略において、NFTとバーチャル製品ドロップがより重要になる可能性を示唆しているのだろう。

マーケターは主にNFTのためにブロックチェーン技術を利用している

ブロックチェーンがビジネスユーティリティとして早くから期待されていたのは、買い手と売り手の間で行われる取引を安全に記録することであり、実際それは現在も一番話題になっている機能ではあるが、(回答者の64%によると)業界の専門家がブロックチェーン技術を利用するもっとも一般的な理由は、NFTだ。2位と3位はサプライチェーンのトランスペアレンシーとサステナビリティ(49%)、暗号通貨(47%)となっていて、回答者の半数近くがそれぞれこれらの目的でブロックチェーンを利用している。暗号化やセキュリティのためにブロックチェーンを採用するとした回答者は3分の1強にとどまり、もっとも一般的でないユーティリティとなっている。

NFTは、デジタルアート作品やコレクターズアイテムとして消費者に容易にマーケティングや販売ができるため、消費者にとってもっとも理解しやすい側面が前面に出ており、これまでのところ潜在的用途の上位に位置している。ブランドは一般的に、アプリやNFTマーケットプレイスでの「ドロップ」によって、一点物のデジタルトークンを入手できるようにし、正確な日時にNFTをリリースし、限られたロットで鋳造する。

NFTの価値は、通常ビットコインなどの暗号通貨を使用して、そのアイテムを購入する意思がある人々にどれほど評価されたかに基づいている。消費者がNFTをいったん購入すると、それを転売、配布、ライセンス供与するための適切なデジタル権利が与えられる。

アパレルブランドのパクサン(PacSun)のように、ARやVRといった他の新興テクノロジーとともに、NFTに重点を置いたデジタルファーストのマーケティング戦略にシフトしている企業もある。パクサンは2021年11月に同社のクラシックな波のロゴにフォーカスした最初のNFTのイニシアチブをローンチした。2022年1月には、パクサンは、パクモールラッツ(Pac Mall Rats)と名づけた独自のNFTシリーズを発表している。

「これは単なる新しいカテゴリーではなく、重要なカテゴリーだ」とパクサンの共同CEOアルフレッド・チャン氏は述べた。「物理的な世界とともに、バーチャルな世界でも製品やスキン、その他の要素を持てるようになったことで、我々の小売のリーチが広がったと考えている。当社にとって、現在はただ参加するだけが重要なのではなく、レレバンスを保つことが絶対に必要なことなのだ。提供するものを拡大するという点で、まさにその場にいるということを我々は期待している」。

パクサンは、将来的にNFTの利用を増やすことを視野に入れているが、コンプレックスネットワークス(Complex Networks)でエクスペリエンシャルを率いるニール・ライト氏は、最初の実験以外にこのテクノロジーの利用方法を考えているブランドは少ないと言う。

「多くのブランドは(マーケットプレイスで)起こっていることへの条件反射的な反応としてNFTのドロップを行うことを試みたが、長期的な戦略がなかった」とライト氏は述べた。「実際には価値がなく、それを取引したい人にとってインセンティブもないため、このNFTを二次市場で収益化していない」。

特に、NFTが転売された際、ブランドは二次市場で収益を上げることができない。なぜなら、転売は通常、ブランドが所有・運営していないプラットフォームで行われるからだ。NFTはブランドにとって生涯収益を生まないため、マーケターは一般的に、ブランドと企業の新興テクノロジーを活用する能力に注目を集めるためにNFTのドロップを利用している。

次にサプライチェーン・トランスペアレンシーが並び、セキュリティの優先順位は低い。

企業がブロックチェーン技術を利用する上で2番目に多いのは、サプライチェーン・トランスペアレンシーとサステナビリティのためだ。ブロックチェーン技術のこの形態は、生産プロセスを通じて説明責任とセキュリティを提供する。これは、素材や製品の信頼性をよりきちんと証明するひとつの方法として、ファッションブランドにとって特に重要なものだ。

2021年4月、ラグジュアリーグッズのコングロマリットであるLVMHは、カルティエ(Cartier)とプラダ(Prada)と共にグローバルなラグジュアリーブロックチェーンをローンチした。このブロックチェーンでは、ユーザーが、材料の調達先から完成品の製造にいたるまで、製品に関する情報を追加することができる。その結果として企業のサプライチェーンが開示され、消費者は製品のジャーニー全体を追跡できる。

ブロックチェーンの性質上、その台帳に追加されたいかなる情報も変更することはできない。LVMHは当時の声明で、「目的は、製品のライフサイクル全体を通じて、消費者に高いレベルの透明性とトレーサビリティを提供することだ」と述べている。

5年前、ブロックチェーンがより主流の専門用語として出現したばかりの頃は、主にビットコインやテザー(Tether)などの暗号通貨を指していた。だが2022年には、暗号通貨はブロックチェーン技術の3番目によく使われるに過ぎない形態となっている。回答者の47%が暗号通貨やデジタルコインにブロックチェーンを使用していると答えており、主に支払いとして受け入れている。

暗号通貨をめぐる初期の誇大広告の多くは、開始後ほどなくして沈静化した。2018年初頭までは暗号の価値がしばらく急上昇したが、その後ビットコインバブルが崩壊して価格が下落した。同時に、このテクノロジーに対する世間の認識も蝕まれ始めた。

ブロックチェーンの議論の初期には、セキュリティと分散化がブロックチェーンパラダイム全体の主要なセールスポイントでもあった。ところが大多数の企業はそのような文脈で、あるいは少なくともそのような目的で、このテクノロジーを使用していない。暗号化やセキュリティの利点のためにブロックチェーンを使用していると答えた回答者は35%未満にとどまっている。

タイム(TIME)が最初のNFTをローンチしたとき、そのパブリッシャーがもっとも念頭に置いていたのは分散化とセキュリティだったが、タイムのCTOであるバラト・クリシュ氏は、将来の販売に向けて戦略を調整しなくてはならなかった点を指摘している。「オープンで包括的なものにしなければならないと考えて最初のドロップに参入したが、実際には逆効果だったことがわかった」とクリシュ氏は語った。「オープンにしたために、暗号ネイティブの人たちや、システムを操作できる人たちだけが参加できるようになってしまった。そこから、初心者のために最初からカスタマージャーニーに本当に注力する必要があるという重要な教訓を得た」。

それ以降、タイムは分散化の原則を遵守しつつ、NFT購入前に事前のユーザー登録と認証を必要とする点をより重視したアプローチにシフトしている。「我々が構築したあらゆるものは、80%から90%が分散化されている」とクリシュ氏は言う。「データベース管理も中央集権的な方法はあえて使わないようにしている。Web3の原則にしたがって、我々が行うことはすべて意図的に分散化している」。

セキュリティと分散化は必ずしもそれ自体が目的になるのではなく、ほかのいくつかのブロックチェーンのユースケースに内在する機能となるかもしれない点を強調することが重要だ。したがって調査結果は、セキュリティが回答者の主な最終用途ではないことを示しているが、すでに述べたように、サプライチェーン・トランスペアレンシーなど、他のブロックチェーン技術の用途に含まれている可能性がある。

マーケターは、ブランドアウェアネスを高めるためにNFTを利用している

企業がNFTに慎重に参入する際の主な目的となっているのは、自社ブランドの認知度を高めることだ。回答者の大多数(81%)は、NFTをブランドアウェアネスのために利用しており、半数以上(64%)はNFTを新たな収益源として利用していると回答した。新規顧客の獲得やセキュリティの強化は、企業にとってそれほど重要な効果ではなかった。

NFTのドロップは、研究開発費に余裕のある大企業にとって、注目を集める見出しを作り、その過程で新たな収益を生む可能性のある手軽な方法となり得る。この戦略は、ブランドがブロックチェーン技術を使用すると発表して、その後、関心を集めるために実際にNFTをリリースする瞬間を利用することに注力しているが、長期的な技術戦略としてではなく、世間の注目を集めるための短期的な戦略として採用される傾向がある。

2021年7月、キャンベル・スープ・カンパニー(Campbell Soup Company)は、パンデミック後に缶詰の売り上げが減少した後、ブランドアウェアネスと製品購入の増加を狙ったデジタル製品アートドロップNFTゲームに飛びついた。1960年代にアンディ・ウォーホル氏が有名なアート作品を制作した際に流用した赤と白のキャンベルのスープ缶のラベルといった、もっとも象徴的なブランドイメージを顧客に想起させるために、キャンペルはこのドロップを活用している。そのNFTコレクションは、大手NFTマーケットプレイスのオープンシー(OpenSea)で再購入することができ、そのアート作品は2022年1月に約0.39ETH(イーサ、1283.38ドル、約16万5000円に相当)で販売されていた。キャンベルはこのドロップを、テクノロジーに詳しいミレニアルの層とのつながりをさらに深めるチャンスとしても利用している。

一方、タイム誌はNFTの利用においてやや異なるアプローチを取る。現在および将来のNFTの価値と名声が維持されるであろうコミュニティの興味をあおるというそのアプローチは、短期的なアウェアネス戦術を長期的な戦略に転換する可能性がある。このパブリッシャーは、包括的なブロックチェーンビジネスを少しずつ構築してきた。その出版物は、同社がブロックチェーン技術を長期的な戦略として利用しているように思える唯一の企業であることを象徴している。

2021年3月、タイムは最初のNFTプロジェクトとして、数十年前の雑誌の表紙をデジタル化した3部にわかれたコレクションをローンチした。一番売れたものは25万ドル(約3209万円、当時のレートで135ETH)相当で販売されている。その1カ月後、同社は購読料と広告案件の両方の支払いに暗号通貨を受け入れ始めた。その秋、タイムはタイムピーシーズ(TIMEPieces)プロジェクトをローンチ、暗号に熱心なオーディエンスをひとつのDiscordをベースとしたクラブ(2022年4月時点で4万人のコミュニティメンバーがいる)に招集し、タイムピーシーズ傘下のすべてのNFTドロップにラベル付けをしている。

タイムの元プレジデントで、現在はムーンペイ(MoonPay)のエンタープライズ部門プレジデントであるキース・グロスマン氏は、Glossyが話を伺った当時、タイムの戦略は長期的に消費者とエンゲージすることを意味していると語っている。「このような浮き沈みの中で学んだことは、コミュニティを構築することの重要性だ」とグロスマン氏は述べた。「こうしたNFTをすべてドロップしたからといって変わらない。違いを生むのは、コミュニティをどれだけ運営できたかだ。我々のコミュニティは、短期的な思考のものではない」。

「コミュニティとは価値観のことであり、我々は毎日その価値観のもとにコミュニティを結集させている」とグロスマン氏は付け加えた。「その根拠は、価値観が時間をかけて価値を生み出すと我々が信じているからだ。構築しているものについてじっくりと考える我々の能力は、暗号サイクルのよい瞬間と、暗号サイクルにおける困難な瞬間を通して、我々が構築しているコミュニティについて人々が考え、気にかけてくれることを可能にしている」。

他のパブリッシャーは、NFTやほかのブロックチェーン技術を将来的に使用することにおいて、ブランドロイヤリティを生み出しながら、イベントや教育的な認定へのアクセスを提供するなど、複数の目的を同時に果たすことに潜在的な価値を見いだしている。このようなブロックチェーンの適用における重複は、このテクノロジーのセキュリティベースの基礎と、これらのメリットを技術の用途全体に適用する可能性を想起させる。

フォーブス(Forbes)のCTOであるヴァディム・スピツキー氏は、パブリッシャーの間でブロックチェーン技術の多くの潜在的な用途がある考えていると話す。「主要なユースケースのひとつはアクセス——メンバーシップ、ライブイベントへのアクセス、メタバースへのアクセスだ」と彼は言う。「ふたつめが認証で、教育、資格、コースを修了したことの証明などだ。パブリッシャーにとっては、採点、一連の記事を読むこと、ブロックチェーン上で報告される一連の動画を見ることなどが考えられる」。

「出版物にとっては、ロイヤルティとエンゲージメントを生み出す」とも彼は付け加えた。「これは体験全体をゲーム化し、ユーザーに『自分はあれを達成した』という認証を与える。(ユーザーは)ウェブサイトやエコシステムの中で(の活動に対して)特典を得られる可能性がある」。だがさしあたって、ブロックチェーンのこうした応用は、一部のパブリッシャーがNFTを認証されたイベントパスとしてたまに使用する以外は、ほとんど理論上のものとなっている。

企業は暗号がブランド認知度や収益を向上させることを期待しているが、それは主に投機的な試みである

上記で示したように理論的な認証や証明の用途にくらべると、暗号通貨はブロックチェーンの利用法としては確立されているが、まだ大部分が抽象的である。調査回答者が暗号通貨の将来的な利用目的として一番多く挙げたのは、取引のためであり、そのほか上位はNFTと同様に、新たな収益源(50%)、ブランドアウェアネス(47%)、新規顧客獲得(33%)となっている。

だが暗号通貨の現実世界での利用に関してもっとも注目すべきは、消費者が一般的に暗号通貨を投機的投資として利用していることだ。暗号通貨は、デジタル台帳として機能するブロックチェーン技術を使用して作成、配布、取引、保管され、デジタル取引を記録し促進する。現在、暗号通貨の実用化で主流となっているのはこれだけだが、ここに記した調査回答は、回答者が将来的に目指す利用方法である。

いくつかの美容ブランドは、取引にビットコインの支払いオプションを追加している。これは暗号通貨のもっとも一般的な使用目的であり、調査回答者の約60%がこの使用方法を選択している。また、ほとんどの企業が容易に導入できる唯一のものでもある。

​​2021年1月、ミレニアル世代とZ世代の消費者向けにデザインされた、英国を拠点とするD2Cブランド、ウェイクスキンケア(Wake Skincare)は、ショッピファイ(Shopify)のチェックアウトでコインベース(Coinbase)を使ってビットコインとイーサリアム決済オプションを利用可能にすることで、暗号通貨による支払いの受け入れを開始した。ウィエクの共同創業者であるアレックス・メイヴァー氏は、この支払いオプションを同社の長期的な戦略として捉えていると述べている。

「それをやりたいと思った理由は、ほかの美容ブランドがやっていなかったからだ。今日、ビットコインで支払う顧客はたくさんいるわけではないし、あるいはおそらくそういう顧客が存在しないことはわかっている」と彼は言った。

「現時点では、多くの人が投資として使っているだけだ」と彼は付け加えた。「だがあらゆるテクノロジーに当てはまるが、変化は本当にゆっくりと起こり、やがて一気に変わると言われている」。

パブリッシャーのタイムは、新たな収入源を作って、ブランドアウェアネスを促進するために暗号アプリケーションを使用することを目指しており、それは回答者の約50%がそれぞれ2番目と3番目に多く選んだ答えである。2021年4月、タイムはCrypto.comとの提携により、有料購読者からのビットコイン(および他の31種類の暗号通貨)の受け取りを開始した。

タイムのチーフブランドオフィサーであるマヤ・ドレイジン氏いわく、現在の購読者が暗号の支払いオプションに切り替えるよう求められてはいない一方で、この方法によってタイムのブランドを暗号のネイティブユーザーに紹介し、そうしたユーザーにアクセシブルな支払いオプションを提供することができ、それによって新たな収入源を生み出すパイプラインを確立する。また、「暗号に興味がある」現在の購読者に、現実世界での暗号の使い方を知るきっかけを与えることも期待しているという。

調査回答ではないが、ブランドロイヤリティを高めるために他のブランドは暗号通貨を利用している。楽天のようなプラットフォームであるロリ(Lolli)は、ビットコインの一部をお金ではなく、オンラインショッピングの報酬として与えている。NFTと同様に、この使い方はこのブランドを話題にして、アプリケーションはトラクションを得て、1000以上のロリ加盟店がこのプログラムを利用している。ロリの共同創業者であるアレックス・アデルマン氏は、このインセンティブは今のところ消費者にビットコインを使わせることが目的ではないと話す。

「投資家にならなくてもビットコインに参加できるようにすることで、より多くの人々に、もっと簡単にビットコインを配布するひとつの方法だと考えた」とアデルマン氏は述べた。「ただの買い物客でいられる。誰もがそうだから」。

ブロックチェーン技術の他の分野と同様に、暗号通貨は暗号を使用して取引を保護することによって、セキュリティのための強い潜在的用途があるが、セキュリティは調査回答者にとって重要度が非常に低かった。暗号通貨をセキュリティ上のメリットのために利用することが目的だと答えた回答者は、わずか11%である。

IPGメディアラボのサイモン氏は、関心が低い理由のひとつは、ユーザーが通貨をハッキングから保護するために暗号ウォレットを設定する必要があることではないかと述べている。「暗号(ウォレット)を設定する複雑さは、消費者にとって最大の障害であり、その複雑さの一部はセキュリティのようなものにも及んでいる」。

「理論上、自分が何をしているかをわかっていて、注目もされている人々がNFTをフィッシングされ、何百万ドルも失うのをよく見かける。セレブリティから、この分野におけるリーダー的な人々まで、誰もが被害者になっている」とサイモン氏は言う。「設定や導入も複雑だが、セキュリティも複雑だ。この両方に対して適切な答えが得られるようになるまでは、ニッチな趣味のテクノロジーのままだろう」。

暗号取引に最適なのはNFTマーケットプレイスや自社運営プラットフォームだ

企業が暗号通貨と引き換えにデジタルアート作品などのバーチャルアイテムを販売する場所を決定する際、大多数が目を向けているのがNFTのマーケットプレイスだ。回答者の70%が、暗号通貨やデジタルコインベースの支払いによるバーチャルグッズの販売にサードパーティマーケットプレイスを利用していると答えている。自社運営プラットフォームは回答者の60%と、2位につけており、将来的に暗号通貨をより広範囲に使用できるようになる可能性があるため、一部の企業は現在枠組みを整えている。

暗号通貨取引所の利用率は一般にかなり低く、取引所を利用していると答えた回答者は半数以下(45%)だった。これは、取引所が暗号通貨を受け入れているだけで、暗号通貨を作り出しているのではないためだと思われる。だが、おそらく驚くには当たらないが、ほぼ3分の1の企業がゲーミング環境での商品販売の機会を見出しており、回答者の30%がオンラインゲーミングを通じてバーチャル製品を販売している。

もっともよく利用されているプラットフォームであるオープンシー(OpenSea)やラリブル(Rarible)といったNFTマーケットプレイスでは、企業や個人が暗号通貨と引き換えにNFTの表示や売買を行うことができる。消費者はそれらのマーケットプレイスでほかの買い物客にNFTを転売することも可能で、プラットフォーム上でNFTを鋳造する機能も提供するNFTマーケットプレイスもある。

タイム誌は、タイムピーシーズNFTを販売する独自のプラットフォームを作らず、サードパーティのマーケットプレイスで販売する選択をした。タイムのクリシュ氏は、マーケットプレイスには消費者ベースが備わっていると話す。

「オープンシーやコインベースのようなマーケットプレイスには実際にオーディエンスがいるので、自社独自のマーケットプレイスを構築する必要はない」とクリシュ氏は言う。「そこで当社は最初の鋳造の面倒だけをみて、その後、二次販売のためにオープンシーの我々のコレクションの中にコミュニティを作っている」。

「最初の鋳造から二次販売への流れも、我々が構築した一連のカスタマージャーニーの一部のようなものだ。ユーザーエクスペリエンスは本当に重要だ。初めて参入する人だったとしても、確実に誰もが参加できるようにしたいと考えている」。

他の企業は、自社所有運営プラットフォームで暗号通貨を使用する機会を消費者に提供することに価値を見出している(回答者の60%)。回答者の大半がブロックチェーン技術の構築には主にサードパーティを利用していると述べた点を考慮すると、この戦略は興味深い。しかし今、強力な自社運営システムを備えておくことは、今後利益をもたらす可能性がある。

自社プラットフォームで暗号通貨を受け入れることで、企業は将来的に暗号通貨をより広範囲に利用できるようになった場合に向けて、今から技術的な準備を整えておくことができる。さらに暗号通貨による決済を受け入れることで、新しい若い世代の層や、銀行口座やクレジットカードといった従来の決済手段にアクセスできない消費者に対してもアクセスを提供できるかもしれない

業界の専門家らが暗号通貨取引で新たな消費者グループにリーチしようとしているもうひとつのプラットフォームは、オンラインゲーミングだ。回答者の30%が、ゲーミング環境で暗号通貨やデジタルコインベースの支払いによってバーチャル商品を販売していると述べている。

前述したパクサンを含む企業は、2022年5月にBuzzFeedのコンプレックスネットワークス(Complex Networks)が主催したバーチャルファッションとミュージックフェスティバルの第3弾となるコンプレックスランド3.0(ComplexLand 3.0)でNFTを販売した。コンプレックスランドは、その環境内で自社のアーティストが作成したNFTも販売していた。

コンプレックスネットワークスのライト氏によると、NFTはバーチャル環境内で入手できたが、販売はサードパーティのプラットフォームで行われたという。「2年目は、我々のNFTギャラリーがニフティゲートウェイ(Nifty Gateway)と提携していたため、実際の取引はすべてニフティゲートウェイのマーケットプレイスにクリックで移行した」とライト氏は述べた。「今年は、ひとつのパートナーに限定していなかった。さまざまなマーケットプレイスが数多く生まれているので、アーティストやコラボレーターが希望する場所と提携している。アーティストがオープンシーにドロップするなら、こちらはそれに対応できる」。

ゲーミング環境でNFTを販売することは、アーティストが作品を収益化するのを助けると同時に、急成長するWeb3テクノロジーをサポートするという、ふたつの価値があるとライト氏は言う。「コンプレックスランドで行うことは何であれ、たとえそれが我々が作った場の中に限定して起こったことではなかったとしても、サポートをすることが本当に大切なのだ」と彼は述べた。「このようなバーチャル世界では、テクノロジーが非常に重要であり、我々は、ブランドだろうがアーティストだろうが、何よりもまずキュレーター的存在であり続けたいと考えているし、そしてその取引がどこで行われたとしてもサポートできるようにしたい」。

ブロックチェーンが普及するには技術的な改善が必要である

企業がNFTや暗号通貨を使った新しい事業や実験を行っているにもかかわらず、調査回答者の大多数はブロックチェーン技術を利用する理由をまだ見つけていない。ビジネスにおける関連性が企業が採用する際の主な障壁となっており、回答者の大多数(71%)は、このテクノロジーが自社のビジネスには関連していないと述べている。

現在ブロックチェーン技術を使用していないとした回答者のうち半数以上が、このテクロノジーに投資していない理由をビジネスとの関連性がないためとしており、さらに16%が顧客の関心がないことを理由に挙げている。

NFTに関しては、デジタルトークンはブランドに関する即時の話題性やアウェアネスを生むために使用されることが多いが、企業は消費者の関心を維持し続けることに苦労している。もうひとつの課題は、NFTの形でデジタルアートを入手することに対して、オーディエンスに関心をもってもらうことだ。これまでNFTを購入したり暗号に投資したりしたことがない個人がNFTを手に入れようとしないのは、画像や動画、その他のデジタル資産の所有権に一定の価値を関連づけられないためだ。

コンプレックスネットワークスのライト氏は、消費者の関心を引き続けるには、ユーザーのメリットを付加した長期的なアプローチを見つけることが必要だと話す。「短期的には、実際の(NFT)には純粋な価値も実用性もない」とライト氏は言う。「ブランドの観点から、それをローンチする方法に関して戦略的であるならば、コミュニティと深い関係性をきちんと築いて、ある程度の意思決定に個人的に投資してもらえるようにできる。それがもっとも参入の障壁が低いことであり、特典を与えることだ」。

ターナースポーツ(Turner Sports)は、ブロックリーテ(Blockletes)というNFTベースのゴルフゲームを作ることで、それを実現しようと試みている。このゲームでは、NFTを購入して価値を高める機会をプレイヤーに与えている。ターナースポーツのデジタルリーグ事業運営およびグロース・イノベーション・シニアバイスプレジデントのヤン・アディジャ氏は、特典はユーザー間のコミュニティの構築を助け、長期的な消費者の関心を高めて維持するのに役立つと話す。

「特定のNFTやデジタルコレクティブルを所有すると、他のメディア資産へのアクセスも得られる。つまりこれらは報酬プログラムとなり、あなたが所有し、価値のあるものにアクセスするためのチケットとなる」とアディジャ氏は説明した。「それを自分で所有しているので、販売することもできるし、誰かにアクセスを与えることもできる。自分で獲得したものだ。自分のものであり、自分が権限を持っている」。

ターナースポーツのアプローチは、すでに述べたタイム誌のコミュニティ構築のアプローチと似ており、(前者はゲームの中で、後者は育成されたコミュニティの中で)NFTが価値を持つ文脈を作り、その文脈を維持することで、NFTが最初の購入後もその中で価値を維持できるようにしている。NFTの本質的な価値を当てにするのではなく、NFTを特定の環境における特定のユーザーのサークルにとって重要なものにするという企業の努力は、成功する戦略となるように思える。

消費者の関心が低いという点では、暗号通貨は、投機とは対照的により幅広く取引に使用される必要があるなど、NFTと同じような課題に直面している。だが現時点でより差し迫った懸念は、市場の安定性である。

最近のFTXの破綻で、一部の有名企業は全体的に暗号から距離を置き始めている。たとえば、昨年11月のフォートナイト・チャンピオンシップシリーズ2022インビテーショナル(Fortnite Championship Series 2022 Invitational)では、TSMがFTXのスポンサーロゴをテープで覆った。この動きについて尋ねられたエピック・ゲームズ(Epic Games)の広報担当者は、Glossyの姉妹メディアであるDigidayに対し、暗号を含む数多くの「リスキーな」カテゴリーにおけるスポンサーのプロモーションを制限するという、同社の公共イベントライセンス条項について指摘している。

Glossyが最近の暗号市場の暴落以前に話を聞いたガネット(Gannet)のシレル氏は、業界が理論的に議論されているテクノロジーを超える方法を見つけることができ、暗号通貨がいくつかの選ばれたデジタルコインに絞られるならば、ブロックチェーンの使用が増加する可能性があるだろうと述べた。

「ブロックチェーンと言うと、人々は自動的に暗号通貨やビットコインを思い浮かべる」とシレル氏は言う。「この種のサービスや製品、ドメインが一般的になるにつれて、何らかの形の暗号通貨が、経済を促進するための絶対要件であることは明らかだ。業界や業界関係者が整理しなければならないことのひとつは、ブロックチェーンという用語が暗号通貨と同義語とみなされないようにするにはどうすればよいかという点だ。最終的には何百種類もの違う言葉が生まれるのだろうか? それは持続可能な構造とは思えない」。

タイムの前プレジデントであるグロスマン氏は、このテクノロジー自体が議論の最前線に立つことが減り、コンピュータの進化と同じように、人々の日常生活に溶け込まなくてはならないという点に同意している。「パソコンが普及し始めた頃、人々が自分のコンピュータについて話していたのと同じように、今はテクノロジーが会話をリードしている」と彼は述べた。

「本当に重要なのは、このテクノロジーが見えなくなり、人々がNFTという言葉を使わなくなるまで、(ブロックチェーンが)大規模に普及することはないだろうということだ。今はアーリーアダプターカーブのもっとも早い段階にあるが、毎日、エコシステムから摩擦が取り除かれ、やがて大規模に普及していくのを目にすることができるかもしれない」。

IPGメディアラボのサイモン氏は、ユーザーエクスペリエンスがさらに分散化され、改善される必要があると述べている。「複数のブランドの複数のNFTを所有し、体験をアンロックするといったようなことを理論的に行う準備ができている人は、まだごく少数しかいない」と彼は言う。「ユーザーエクスペリエンス側で行わなくてはならないことはたくさんある」。

「これらの技術が主流になる方法は、すでにあるプラットフォームとプラットフォームオーナーに吸収されることだ。分散化は消費者やユーザーからかなり反感を買う傾向があるため、Web3周辺の分散化の約束の多くは保証されていない」。

将来的に業界におけるブロックチェーン技術の採用を増やすためには、このテクノロジーへのさらなるイノベーションが、改良に投資する資金と時間的余裕のあるテック大手からもたらされる必要がありそうだ。2014年にMetaがVRヘッドセットメーカーで開発会社のオキュラスVR(Oculus VR)を買収し、サムスン(Samsung)とAppleがAR対応のスマートフォンカメラレンズを制作しているのと似たような形で、マーケターと消費者が同じように利用を増やす以前に、他のテック企業がブロックチェーン技術を手軽に使えるようにするための基礎的なインフラを構築する必要があるだろう。

したがって現在のところ、ブロックチェーンはほぼ理論上の新興テクノロジーに留まっている。

[原文:Glossy+ Research: Buzz aside, how are marketers really experimenting with blockchain?]

CATHERINE WOLF AND LI LU(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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