ライブストリーミングからリテールメディアまで:デジタル時代に突入したショッピングモール

DIGIDAY

こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
※モダンリテール[日本版]は、DIGIDAY[日本版]内のバーティカルサイトとなります

ショッピングモールは、その不動産をより効果的に収益化するため、ライブストリーミングやロイヤルティプログラムなど、より新しいテクノロジーに特化したソリューションで、アナログからデジタルの体験へと進化を遂げている。

2020年後半にポップショップライブ(Popshop Live)で初のライブストリーミングの取り組みを試験的に行ったミネソタを拠点とするモールオブアメリカ(Mall of America)は、「ショップMOA(Shop MOA)」という新しいeコマースウェブサイトを開設するなど自社のサービスを拡張している。モールオブアメリカは来年、同社のオンラインの買い物客に特典を提供する新しいロイヤルティプログラムも開始する。それとは別に、ショッピングとエンターテイメントのデスティネーションセンターである同社は、ショップMOAと統合されたファーストパーティーデータを中心に、新しくアップグレードされたライブストリーミング構想を来年導入する。

マセリッチ(Macerich)などほかのモールの所有者も、店舗内のショッピング体験をアップグレードするため、回転ディスプレイ、デジタルディスプレイ、小規模キオスクなどを取り入れ、よりインパクトのある体験を作り出している。それ以外にも、ブルックフィールド(Brookfield)は、モール内の仮想エアスペースを販売し、広告主が、消費者のスマートフォンからアクセスできる拡張現実を実現するなど、革新的な試みも行っている。サイモンプロパティ(Simon Properties)は、ライブストリーミングを推進するため、アジア市場で成功した中国の新興企業であるショップショップス(ShopShops)と提携した

顧客はブランドではなく商品を見ている

ほとんどの人々は、モールを大規模な小売不動産と考えている。従来、ほとんどのモールのデベロッパーは、そのスペースを貸し出して収益を得てきた。しかし、パンデミックの最中には、モールのアンカーテナントであり、主要な集客源であった有名ブランドの店舗を訪れる顧客が減少した。この減少のため、一部のモールは従来型のビジネスモデルへの依存を減らすことを試みてきた。戦略のひとつは、広告用スペースを収益化し改修する新しい方法を見つけることだ。世界経済が再開するにつれ、数多くのAクラスのモールが繁盛し、多くの客を引きつけるようになっている。しかしそれでも、今日のモールはオンラインの買い物客を無視できないと、デベロッパーは語る。なかには、自社のウェブサイトを通じて社内のデジタル機能を開発したり、サードパーティの専門家と協力して、モールを訪問する前のプレショッピングなど、オンラインショッピングの利便性を顧客に提供しているところもある。

モールオブアメリカのマーケティング担当バイスプレジデントを務めるグラント・バンジェ氏は、次のように米モダンリテールに語った。「モールコマース領域で、消費者がオンラインでの購入を求めているジャーニーに割り込むことは、非常に重要だと考えている。商品を購入する方法は、これまでにないほど多様化している。このため当社は、ショップMOAでライブストリーミング配信を行い、ブランドそのものを強調するだけでなく、商品を強調することに重点を置き、商品を目立たせることに注力して、ロイヤルティプログラムを導入する予定だ」。

モールオブアメリカがは、約1年前のクリスマス頃にオンラインショッピングのウェブサイトを立ち上げ、ザラ(Zara)やH&Mのようなファストファッションのブランドを含む、70以上の小売業者の商品を買い物客に提供している。モールオブアメリカはこれまで自社店舗に訪問客を集めることに注力してきたが、現在は自社の小売業者が提供する商品を目立たせることを強く意図している。消費者はブランドよりも商品を追い求めていると、バンジェ氏は語る。「ブランドへのこだわりは減ってきている。消費者と接点を持つためには、ブランド名だけに頼ることはできない。それを行うには、これらのeコマース空間において、積極的かつ率先的に活動する必要がある」と、同氏は説明する。

ショップMOAは、モールオブアメリカにとって、収益面においても新たな広告の可能性を切り開くものだ。「望むなら、当社はこのサイトのスペースを販売することもできる。また、小売業者による従来型の広告を掲載することもできる」と、バンジェ氏は述べる。

「別の用途として、当社は2023年の第1四半期にロイヤルティプログラムを開始することを計画している。これは、当社のテナントを中心とし、MOAで買い物をする適切な消費者に特典を提供できるように設計されたプログラムになる」と、同氏は述べている。

サードパーティーに依存しない

今年の時点で、モールオブアメリカにライブストリーミング配信のプラットフォームはないが、ライブストリーミングを活用して、消費者がショッピングを行えるようにし、自社のプロパティに消費者が興味を持つような独自の方法で消費者を結び付けることが重要だと確信していると、同氏は付け加えている。「当社はポップショップライブ(Popshop Live)とパートナーシップを結び、成功した。しかし当社は、サードパーティー製のアプリでなく、我々自身のデジタルツールを多く使用する、ライブストリーミングショッピングの新しい方法を現在模索している。2023年にそのバージョンを公開する計画だ」と、同氏は述べている。

バンジェ氏は、ポップショップライブのテストは、全国のオーディエンスにモールオブアメリカとその商品を紹介するためには優れた方法だったが、ポップショップライブのアプリに組み込まれたオーディエンスに依存しすぎていたことに気づいたと語る。「つまり当社は、モールオブアメリカのオーディエンスではなく、ライブストリームアプリの人々に向けてマーケティングしていたことになる。そこで当社は、ライブストリームのショーをより柔軟に、他社のチャネルではなく当社のチャネルで行えるようなライブストリームパートナーを見つけることをめざしている」と、同氏は付け加えた。

モールオブアメリカの新しいライブストリームプログラムは、同社のテナントと商品を紹介するこのeコマースエンジンに統合される。「ライブストリームショッピングについての当社のビジョンは、ショップMOAにある商品を紹介することであり、そのために、サードパーティーに依存する必要をなくし、当社独自の在庫やチェックアウトを通じて際立たせていくことだ」と、バンジェ氏は述べている。

モールの広告の大部分は依然として物理的な看板広告に集中しており、これらはいささか時代遅れであっても、依然として消費者とつながるもっとも効率的な方法のひとつだと、コンサルティング企業のグローバルデータ(GlobalData)で小売担当マネージングディレクターを務めるニール・サンダース氏は語る。

リテールメディアの可能性

ブルックフィールドは昨年、拡張現実テクノロジーによるエンデミック広告やノンエンデミック広告を行うため、スーパーボウル(Super Bowl)などのイベントで、「ペプシ・ハーフタイム・エーアール(Pepsi Halftime AR)」によって没入感のあるARエクスペリエンスを提供していることで知られるアリア・ネットワーク(The Aria Network)と提携した。この契約により、アリアは全国の主要なモールの仮想空間での放映権など、数百万平方フィートの未使用広告スペースにアクセスできるようになった。「ブルックフィールド・プロパティーズ(Brookfield Properties)は常に、顧客のために新しい革新的なエクスペリエンスを探しており、当社のショッピングセンターのコミュニティはこの新しいサービスを喜んで取り入れてくれることを、当社は熟知している」と、ブルックフィールド・プロパティーズの戦略パートナーシップ担当シニアディレクターを務めるパトリック・ペコウス氏は、昨年夏のプレス声明で語った。

サンダース氏は、ライブストリーミングの取り組みはいまだニッチで、モールでの広告の主流には程遠いと付け加えている。「ほとんどのモールの所有者は、パンデミックがピークの頃に、別の収益源が必要だったことから、多くの実験を行った。しかし、対面でのショッピングが急速に回復してきた今、これらの所有者は、より従来型の広告に復帰したと、私は見ている」と、同氏は述べている。

インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)の小売およびeコマース担当プリンシパルアナリストを務めるアンドリュー・リプスマン氏は、米モダンリテールへのメールによる回答で、デジタルサイネージなどによるOOH広告は、モールにとって、利益率の高いデジタル広告収入を通じて不動産をよりよく収益化する大きな機会であると述べている。「これらの体験のデジタル化によって、より多くの広告インプレッションと、的確な測定能力を実現し、ブランドや小売業者からより多くの投資を引き出せるようになる」と、同氏は述べている。

[原文:From livestreaming to retail media, malls enter the digital age]

VIDHI CHOUDHARY(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Mall of America

Source

タイトルとURLをコピーしました