シンエヴァ 教科書には残らない – シロクマ(はてなid;p_shirokuma)

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タイトルで内容を言い切っているので、タイトルしか読まない人はここで回れ右を。わざわざブログに書いたのは、知人に「ブログに書く」と約束してしまったからだ。

そもそも教科書に載るような作品、資料集に載るような作品とは

1.表現様式に目新しさがあり、しかも優れていること。たとえばジョットやダ・ヴィンチの絵画は優れているだけでなく、同時代のほかの画家よりも表現の様式が先んじていた。ターナーやピカソなどもそう。
 
2.表現される対象に目新しさがあり、しかも優れているもの。神の世界や聖書の世界ではなく、いちはやく人間の世界を描いた作品、王侯の世界ではなくブルジョワの世界を描いた作品、ひいては庶民の世界を描いた作品、等々。
 
3.時代精神や風俗を見事に表現しているもの、その典型など。バルザックの作品、東海道中膝栗毛、曽根崎心中など。

この3つのうち最低一つが抜きん出ていないと、100年後の教科書には載りそうにない。世に出た時の評判やセールスが良かったからといって、その作品が教科書に載るとは限らない。時代が変わるとまったく顧みられず、思い出されなくなる作品もある。
 
で、シンエヴァンゲリオンはどうなのかというと。
 
シンエヴァンゲリオンを作った庵野秀明は、教科書に載ってもおかしくない。宮崎駿の少し後、20世紀後半から21世紀に活躍した代表的なアニメ監督として(DAICON FILMやGAINAXも含めて)名前が残るように思う。
 
では、その庵野秀明の代表的作品として教科書に印字されるのはどれだろう?
 
候補は幾つかあるけれども、表現の目新しさ、斬新さなら若い頃の作品が、時代精神の反映という点では20世紀の『新世紀エヴァンゲリオン』が当てはまるように思う。これらは、現在の視聴者が死に絶えた遠い未来になってもアニメ史の重要な一部として紹介されそうだ。
 
対して、新劇場版のヱヴァンゲリヲン、ひいては『シンエヴァンゲリオン』は1.2.3.に合致していないと思う。
 
1.の表現様式の目新しさについては、それほど時代の先端を行っていたとは思えない。『序』『破』『Q』の戦闘シーンが美しかったりはするけれども、あれらが21世紀の同世代アニメに比べて一歩先と言えるのか、まして『トップをねらえ!』や『オネアミスの翼』の時ほど冒険していると言えるのか考えても、自分にはあまりピンと来ない。登場人物についても、新劇場版の登場人物たちは斬新というより、旧エヴァの登場人物たちをいくらか21世紀のテイストに寄せた感じだ。むしろ他作品を追いかけているような印象すらある。
 
2.については、『新世紀エヴァンゲリオン』で表現されたものを基本的にはなぞっているので、アニメ界に新しい境地、新しい表現対象を流し込んだ風にはみえない。この点では、20世紀の『新世紀エヴァンゲリオン』のほうがよほど新しい境地をもたらしてみえる。
 
3.についても、20世紀の『新世紀エヴァンゲリオン』のほうがずっと時代精神を反映していた。大人になりきれない大人に育てられた子どもの苦しみ、いつまでもわかりあえない苛立ち、ヤマアラシのジレンマ、深層心理、等々、あれはまさに90年代の作品だった。しかし『シンエヴァンゲリオン』は2021年の時代精神を反映しているとはいえない。たとえば『天気の子』のほうがまだそれらしい。
 
『シンエヴァンゲリオン』が教科書に載るようなアニメじゃない根拠として、私なら以上のようなことを挙げる。確かに公開初日には心が動いたし、『シンエヴァンゲリオンを見て三回泣いた』の話をはじめ、感動したとかせいせいしたとか、たくさんの感想を目撃した。でも、そうなったのはたくさんの視聴者が『新世紀エヴァンゲリオン』の影響下にあったからではなかっただろうか。『新世紀エヴァンゲリオン』をリアルタイムで視聴した人々はもちろん、そうでない人々も、世にエヴァンゲリオンなるコンテンツが存在することをさまざまなメディアやSNSでのバズ等をとおして聞き知ったうえで新劇場版と向かい合ったのだった。
 
換言すると、『シンエヴァンゲリオン』はたくさんの視聴者の事前の期待や思い入れのうえに成り立っている作品であり、そうした下駄によって記憶に残ってヒットした、そういう作品だ私は言いたいのだと思う。「『シンエヴァンゲリオン』は、作品を評価するよりビジネスを評価すべき」とも言いたいのかもしれない。20世紀の『新世紀エヴァンゲリオン』以来積み上げてきたエヴァンゲリオンへの思い入れや記憶を、いわばIPとしてのバリューを換金したのが『シンエヴァンゲリオン』なのであってそれ以上の意味を見出そうとしてもたかがしれている、などと私は考え始めているのだろう。

だって、いろいろ隙間があるし、それほど斬新でもないし

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