ウクライナ危機巡る西側の価値観 – 非国民通信

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 総じてレイシストは「自分は差別主義者ではないが……」と前置きしますし、反ワクチンもまた「自分は反ワクチンではないが……」という枕詞を使います。同性愛の嗜好を隠している人ほど表面ではムキになって同性愛を否定する傾向があるとも言われますし、しきりに中国への挑発を繰り返しているバイデン米大統領も「冷戦を望んでいない」と口にするわけです。何かを否定することは、往々にして否定していることの正しさを示すものでもあります。

EU、難民受け入れの「二重基準」否定(時事通信)

【3月19日 AFP】欧州委員会(European Commission)のマルガリティス・スキナス(Margaritis Schinas)副委員長は18日、欧州連合(EU)はウクライナとシリアからの難民の受け入れにダブルスタンダード(二重基準)は設けていないと主張した。

(中略)

 EUはウクライナ難民を一時保護し、滞在許可や医療や教育を受ける権利、就労の権利を認めている。

 一方、2015年にシリアなどから100万人以上の難民が欧州にたどり着いたときには、こうした保護措置が自動的に適用されることはなかった。

 ロシアの侵攻開始以来こうした二重基準は至る所で発揮されており、アジアからの難民を入管で拘束したまま死亡させるなど常習犯の日本ですら、ウクライナからの難民であれば特別待遇での受け入れを開始しています。こうしたウクライナへの優遇措置を我が国の政府は「人道的」なものと称しているわけですが、真の難民と認められるためには肌の色や「どちらの陣営に属しているか」ということの方が本人の境遇よりも重要であることがよく分かります。

 イギリスを筆頭に西側諸国ではロシア人の資産凍結や資格剥奪が進められています。とても法治国家とは考えられない一方的な処罰と言うほかありませんが、ロシアと同じ土俵で互角以上に張り合うべく頑張っているのでしょう。なかでも槍玉に挙げられているのが「オリガルヒ」と呼ばれるロシアの新興財閥関係者で、これが軒並みプーチンと関係が深いものであると少なからぬ国から一方的に認定されているわけです。

 このオリガルヒが誕生したのはエリツィン時代でした。エリツィン政権下では国有資産の不正な私物化が進み、ロシアという国家全体が貧困化する中で巨万の富を築く人が続出したわけです。エリツィンは自身を取り巻く財閥に利益を誘導し、財閥は政権を支える、西側諸国はロシアを弱体化させてくれるエリツィンを支持する──ロシアを敵視する国から見て平和な時代はそうやって築かれました。

 潮目が変わったのはプーチン政権に替わってからで、エリツィン時代とは反対に財閥の力を弱めることでロシア国内の支持を集めるようになりました。政府に口を出し続けて潰されるオリガルヒもいれば、政治への関与を諦めて資産だけを保ち続ける人もいるのが現状ですが、後者の政治への関与を止めた「単なる金持ち」が今、西側諸国では標的とされているわけです。エリツィン時代に不正を働いてきた人々には違いありません。ただ罰されるべきとしたら今ではないでしょう。

 中には完全な不採算事業であり、営利行為として成り立っていないサッカークラブの所有にまで一方的な剥奪処分が下されているケースもあり、これを見るとイギリスなどは法治国家であることを捨てたと評価せざるを得ないと感じるばかりです。まぁ、犯罪者であれば人権は不要、極悪人には法律など適用されないと考えるのと同じようなものでしょうか。敵性国民が標的ならば、全てが許される──それが西側の価値観というものです。

 ウクライナにも外交的妥協は必要ではないかと問う声は僅かながらもあります。しかしながら、こうした指摘に「降伏しろというのか!」と、いきり立つ人の方が現状は明らかに多数派です。同様に「国がなくなる!」と叫ぶ人と、それに賛同する人も少なくありません。77年ばかり前に「それで国体の護持が出来るのか!」と吠えていた人々と全く同じ感覚でいるのでしょう。

 国家のために国民が犠牲になることが当然視されるとしたら、それは全体主義と呼ばれるものです。しかし日本を含む西側陣営で人々が求めているのは外交的妥協を含む早期和平なのか、あくまでロシア側を完全に斥けるまでの徹底抗戦なのか、後者が優勢であるならばそれは一億玉砕の精神が今なお継承されている証左というほかありません。厭戦機運が高まる社会は健全ですが、人々を戦場に駆り立てる方向で盛り上がっているとしたら、その社会は危険です。

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