ブリーチャー・レポート(Bleacher Report)は、カタールで開催されているFIFAワールドカップ2022の盛り上がりに参加するための方法として、独特なパロディ風アニメーションビデオを活用している。同社の人気アニメーション・シリーズ 「ザ・チャンピオンズ(The Champions)」の特別エピソードを放映するほか、「チャンピオンズ・チャット(Champions Chat)」と呼ばれる、新しい短尺の番組や、ワールドカップの試合結果を紹介する簡単なスキットも用意する。
ブリーチャー・リポートのサッカー専門のバーティカルであるB/Rフットボール(B/R Football)は、2018年に行われた前回のワールドカップ時点ではYouTubeチャンネルを持っていなかった。また、ティックトック(TikTok)は現在のような形では存在せず、Instagramは依然として主に写真共有アプリだった。つまり、当時のワールドカップで中心に作られたコンテンツは画像中心だったということだ。
では、なぜブリーチャー・レポートは今回アニメーションに方向転換したのだろうか。B/Rフットボールのブランド戦略担当シニアディレクターのリー・ウォーカー氏は、「我々はこれ(アニメーション)で知られている」と述べ、ティックトック、Instagramリールズ(Instagram Reels)、YouTubeショーツ(YouTube Shorts)など各プラットフォームは、これまで以上に動画をプッシュしているという。
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W杯向けのアニメーションコンテンツを制作
アニメーションコンテンツはほかのB/Rフットボールのコンテンツと比較し「投稿あたりのプラットフォーム全体のエンゲージメント(シェア、いいね、コメント)が72%上昇した」とブリーチャー・レポートの広報担当者は社内の数字を引用して話す。
加えて、アニメーション・コンテンツは、2022年のB/Rフットボールの最もエンゲージメントの高いポスト10のうちの8つを占めているという。スポーツマーケティング代理店レボリューション(rEvolution)の最高クリエイティブ責任者であるブライアン・カールズ氏は、B/Rフットボールはワールドカップを取り巻く「乱雑」な「多くのコンテンツ」とは一線を画していると語った。
しかし、ワールドカップ向けの新しいアニメーション・コンテンツにはスポンサーが付いていない。加えて制作コストも高い。ウォーカー氏と広報担当者はアニメーション制作にかかる費用については明言を避けたが、ウォーカー氏は「我々が制作するなかでもプレミアムな番組であり、それにはコストが伴う」という。彼らの見解では、「長い(コンテンツとしての)有効期間」があり、最も人気のあるコンテンツであるため、コストは正当化されるようだ。
「ザ・チャンピオンズ」 のこれまでのシーズンはスポンサーはあり、シーズン3ではプレイステーション(Playstation)、シーズン4ではHotels.comがスポンサーだった。
ワールドカップを視聴する選択肢が増える
2018年以降、ストリーミング配信プラットフォームが増加していることを考慮すると、視聴者にとってはワールドカップを視聴する選択肢が増えたことになる。インサイダー・インテリジェンス(Insider Intelligence)が米国で実施した調査では、20.56%がリニアテレビで試合を視聴すると回答。
NBCユニバーサル(NBCUniversal)は、テレムンド(Telemundo)、ユニバーソ(Universo)、ピーコック(Peacock)、テレムンド・デポルテス(TelemundoDeportes.com)、テレムンド・デポルテス・アプリで2000時間以上のワールドカップ報道を放送するという。アドウィーク(Adweek)の報道によると、同社は2018年大会よりも多くの広告収入をこのワールドカップで得たいと考えているようだ。
同社によると、B/Rフットボールは現在、ソーシャルで3600万人のフォロワーを持ち、毎月2億以上の動画ビューを記録。広報担当者によると、B/R Footballの2022年の動画再生回数は17億5000万回を超え、エンゲージメント数は10億を超えたという。
トゥビュラー・ラブズ(Tubular Labs)の最新データによると、B/Rフットボールは2022年9月に、ティックトックで5280万回、YouTubeで3580万回、Twitterで2080万回、Facebookで1320万回再生された。視聴者層は男性が多く、年齢層は18歳から34歳。YouTubeの視聴者の3分の1近くは米国在住だ。410万人のフォロワーがティックトックに、230万人の購読者がYouTubeにいる。
B/Rフットボールで最も人気のある番組であるアニメーション・シリーズ「ザ・チャンピオンズ」は、11月18日午後12時(東海岸時間)にYouTube、B/Rアプリ、Twitter、Instagramで「ザ・チャンピオンズ・オブ・ザ・ワールド(The Champions of the World)」というワールドカップの特別エピソードを初公開し、その短尺版がティックトックで共有された。
この番組のコンセプトは、UEFAチャンピオンズリーグの選手たちが大きな邸宅で一緒に暮らすというもの。エピソードは5分から7分まであり、実際のサッカーの試合で起きたことを、物語のなかでパロディ化している。ブリーチャー・リポートの広報担当者によると、第六シーズンは1話あたり平均1500万回再生され、視聴のほとんどはYouTubeからのものだった。
ライブ感をより意識した、アニメーション制作
『ザ・チャンピオンズ』の問題点は制作にかかる時間で、通常は2、3カ月程度かかるという。しかし、ワールドカップのニュースが次々と発表される中で、B/Rフットボールのチームはワールドカップの試合に対応するために、より短い形式で、より制作時間でアニメーション・コンテンツを制作したいと考えた。
これには2つのやり方が取られる。1本目は「チャンピオンズ・チャット」と呼ばれ、2〜3分の長さの5つのエピソードで構成され、ワールドカップの各ステージの後に続く形で放送されるというもの。第1話はグループステージ終盤の12月2日に封切られる。さらに、B/Rフットボールは約15時間で作成できる、60秒のスキット動画も制作する。
「チャンピオンズ・チャット」 は、「ザ・ビュー(The View)」のような昼間のテレビのトークショーをモデルにしているとウォーカー氏はいった。これにより、ブリーチャー・レポート・チームは「通常の長さのエピソードではできない早さで、ワールドカップの出来事に、はるかに迅速に反応することができる」と彼は述べた。これは「ザ・チャンピオンズ」と同じアメリカを拠点とする15人のチームによって制作されたもので、8人のアニメーター、2人の作家、3人のプロデューサーが参加している。
この番組に登場するサッカー選手のキャラクターは「あらかじめアニメーション化されている」ため、ウェブカメラの顔追跡機能を使ってキャラクターを操作し、アフレコの音声に合わせた口の動きを生成することができる、とウォーカー氏は説明。
ボイスオーバーのない、短い制作時間のスキット動画は、B/Rフットボールのティックトック動画をモデルにしている。そのうちの一つは、ワールドカップに向けて準備している選手たちをコメディ風に描いたもので、2400万回近く再生された。
アニメーションスタイルは「ザ・チャンピオンズ」よりも少しシンプルで、外部のアウトソース・チームによって行われる(ウォーカー氏は、「ライバル」にすくわれることを懸念し、制作チームの名前を明らかにしなかった。ただし、彼らは米国に拠点を置いておらず、米国で人々が目を覚ます前にビデオを制作してしまえる「時間帯の利点」があるとも述べた)。大会期間中、約20本のスキット動画が制作されるという。
ソーシャル上での話題をキャッチし素早くコンテンツに反映
「ワールドカップが進行するなかで、ソーシャル上での話題をキャッチし、素早く60秒アニメーションのスキット動画に落とし込むのは、非常に忙しない作業になる」とウォーカー氏は語る。
これらのアニメーションがパロディであるという事実は、ブリーチャー・レポートが有名アスリートの名前を掲載するために高額な権利を支払う必要がないことも意味する。「ブランドにとっては、ワールドカップについて話したり、話題に参加するための(適切な)ポジションを見つけたりすることが重要だと思う」とウォーカー氏は述べつつ、「ファンが関わることのできるコンテンツ……それはパーソナリティに関するものだ。これらの選手たちのパロディ・キャラクターを通して、(ワールドカップを)観察する、窓のような存在になっている」とした。
[原文:How Bleacher Report is using animation to differentiate its World Cup coverage]
Sara Guaglione(翻訳:塚本紺、編集:島田涼平)