なにに見えます?
南アフリカの南端に位置するスティル・ベイで発見されたこの風成岩。
発見者であるチャールズ・ヘルム(Charles Helm)氏と、アラン・ウィトフィールド(Alan Whitfield)氏は、左右対称であること、そして表面に削られたような跡があることから、これがある動物をかたどって人為的に製作されたアートではないか?との仮説をRock Art Research誌上で発表しました。
だとすると、これが世界最古の芸術品ということにもなります。
そしてその動物とは、エイ。
正確に言えば、南アフリカ沖の海域に棲むブルースティングレイ(Dasyatis chrysonota)です。
うん、言われてみればたしかに…!
もともとは絵だった?
ネルソン・マンデラ大学に所属する古生物学者のヘルム教授、そして南アフリカ水生生物多様性研究所で名誉主任研究員を務めるウィトフィールド博士がThe Conversationに投稿した記事によると、この仮説は「何万個にもおよぶ同様の石の分析を経て得られた高度な知見に基づく憶測」であるとのこと。
さらにおふたりは、この石が “ammoglyph(アンモグリフ)” であるかもしれないとも説明しています。アンモグリフとは、砂浜の表面に描いた線や絵が長い年月を経て石化したものだそうです。
儀式に使われた?
特徴的なのは凧のようなかたち、そしてほぼ左右対称に引かれたいくつもの溝。
さらに、石の右下部分には切り込みがあり、研究者たちはそこから尾っぽのようなものが伸びていた可能性もある、そしてその尾っぽは儀式的に切り落とされた可能性もある、との見解を示しています。
この石が浜辺で発見されたことを鑑みると、生きたブルースティングレイと並んで描かれた、はたまたトレースされた可能性もあるとのことです。
こんなふうに、石とエイを重ねてみると…あらピッタリ。
壊れちゃうかもしれないので石の年代を直接測ってはいないものの、光ルミネッセンス年代測定法を用いて周辺の岩石を調べた結果、この石は13万年前に作られたと考えられるそうです。
偶然の産物、それとも…?
発見者のヘルム教授とウィトフィールド博士は、
左右対称性は常に興味深く、いくつもの理由によって起因します。人為的なものはそのうちのひとつに過ぎません。
しかし、この石について説明するとなると、その何層にも重なった左右対称性が単に偶然の産物である可能性は低い。従って、ヒト由来のものであるという仮説が妥当ではないでしょうか
と仮説の根拠について説明しています。
現時点で世界最古と言われている動物の絵は、インドネシアの洞窟内で発見されたイノシシ(推定43,900年前)。人間が狩りをする様子が描かれた40,000年前の壁画も発見されており、いずれもネアンデルタール人によるものだと言われています。
いずれにせよ、もしこの石がエイをかたどったアートだったとしたら、ぶっちぎりで世界最古の記録を塗り替えることまちがいなしです。
何をもってアートと呼ぶか
ちなみに、チベット高原で2023年に見つかった推定20万年前の手形と足形は、人間によって作られたものではない可能性も指摘されてはいるものの、もしそうだったら人類初のアートだ、と主張している学者もいるそうで。
アートか、アートじゃないかっていう線引きはなかなか難しいですし、個人の意識がどこに向いているかによってただの石にも、素晴らしいアートにも見えてきますよね。
ひとつだけ確実に言えるのは、先史時代であれ、現代であれ、人の想像力はたくましい!ということでしょうか。