冬の北八ヶ岳ハイキング、天気が悪いと実は楽しい

デイリーポータルZ

晴れれば空が異常に青い、天気が悪くてもけっこう楽しい。

ここ3年くらい、冬の北八ヶ岳を歩く機会がちょいちょいあり、思ってたより良いところだなと思いました。冬の北八ヶ岳は当然雪山なんだけど、個人的な印象としては登山っていうよりはハイキングのイメージ。登山に行くなら南八ヶ岳だろうなどと、北八ヶ岳をあなどっていました。

すみません、北八ヶ岳の登山、思ったより良かったです!だからここでその良さを普通に説明させてください!

あばよ涙、よろしく勇気、こんにちは松本です。

1976年千葉県鴨川市(内浦)生まれ。システムエンジニアなどやってましたが、2010年にライター兼アプリ作家として自由業化。iPhoneアプリはDIY GPS、速攻乗換案内、立体録音部、Here.info、雨かしら?などを開発しました。著書は「チェーン店B級グルメ メニュー別ガチンコ食べ比べ」「30日間マクドナルド生活」の2冊。買ってくだされ。(動画インタビュー)

前の記事:重曹でスパゲティがラーメンになる(デジタルリマスター)

> 個人サイト keiziweb DIY GPS 速攻乗換案内

冬の八ヶ岳登山と言えば南八ヶ岳だと思ってた

八ヶ岳は正しくは八ヶ岳連峰。山梨県と長野県の県境にあります。長野県に入り込んでいる北八ヶ岳と山梨県に接している南八ヶ岳に分けられ、北はなだらかな地形が多くハイキング的(下の地図の青い部分)。南は急峻な地形が多く、登攀的(時に手も使って登る)な登山となります(下の地図の黄色い部分)。

北八ヶ岳は蓼科山から天狗岳、根石岳辺りまで。南八ヶ岳は硫黄岳から編笠山辺りまでのエリアとなります(境界は人によって分かれるかも)。

偏った意見なのは承知で書くと、冬に登山で行くのなら南八ヶ岳だと思っていました。

赤岳(八ヶ岳の最高峰で2899m)の厳冬期バリエーションルート(赤岳主稜)。

思えば、厳冬期の八ヶ岳はだいたい冬期クライミングばかりでした。冬は普通のルート(一般ルートと言います)で登ったことがないと言ったらまぁまぁ驚かれました(その後一般ルートも登った)。一般ルートを登るのに飽きちゃった人たちと行くと、こういう事になりがちな登山あるあるです。

厳冬期の阿弥陀岳(赤岳の隣にある2805mの山で急峻)のバリエーションルートに行ったけど天気が悪すぎて撤退した時の写真。斜面の角度がヤバい。
別の時に阿弥陀岳の北西稜というルートを登った時の写真。天気はだいたい悪い。

あとは、たまに簡単なところ(ホントに簡単なとこ)でアイスクライミングをしたり。 これもだいたい南八ヶ岳。

過去記事:リアルのアイスクライミングはアイスクライマー(ゲーム)と全然違う

人によってはロープを付けずに登っちゃうかも知れないって感じの氷瀑。僕はロープ付けます。

という感じで冬の南八ヶ岳に行ってたんですが、最近になって北八ヶ岳にも行くようになりました。

赤岳鉱泉という山小屋から見た南八ヶ岳の稜線。全体的に急峻です。この日はたまたま天気がよかったけど、たぶん稜線は爆風。

人を連れていくための下見で行ったら天国だった

冬の南八ヶ岳は主に山岳会とかクライミングの先輩に連れて行ってもらっていたんですが、ひょんな事から自分が人を連れて行く側になってしまいました。

と言って、僕がリーダーになって雪山初心者を連れて行くのは怖いので(連れて行って死んじゃったら嫌じゃん?)、簡単なところにしようと思い、そうだ、北八ヶ岳ならいいのでは?と思い下見に出かけたのでした。なんか、初心者向けってよく聞いてたし。

北八ヶ岳の南端、天狗岳から見た南八ヶ岳。奥に赤岳や阿弥陀岳が見える。

南八ヶ岳の山は、ちょっと登ったら強風に晒され隠れる場所も無くひたすら寒い。常に-15℃以下で風速15m/s以上。1秒毎にHPが削られていきます。このまま動かずにいたら死ぬな…、とか、アイゼンとかピッケルが数cmズレたら落ちるな…みたいな感じ。

(ただし、これでも雪山としては中級程度で、多くの人は目標ではなく練習、通過点として冬の南八ヶ岳を登ります)

南八ヶ岳の阿弥陀岳。厳しめの登山も、「生きてる!」って感じがしてとても楽しいです。

下の写真は、天狗岳の少し北、中山から見た北八ヶ岳。全体的になだらか。

北八ヶ岳って、なんか平和ですごく良いな…ってなりました。

北八ヶ岳は樹林帯が多い。寒いのは同じですが、逃げる場所があるのでだいぶマシです。滑落とか転落のリスクもそんなにありません(たまにあります)。なんていうか、ボーッと立ってられる(場所にもよります)。

北八ヶ岳の登山道は、概ね森に囲まれています。風が弱いのでHPが減りません。

というのが、僕が北八ヶ岳に行き始めるまでのストーリー。以下では北八ヶ岳の楽しさを説明します。

読んだら行きたくなっちゃうかもよ?

いったん広告です

眺望がとてもいい

まずは分かりやすいポイントから。なんと言っても眺望がいい。コースの途中は上に書いたように樹林帯なので景色は見えないのだけど、山頂や峠などポイントごとに開けた場所があります。天気が良ければ南アルプス、中央アルプス、北アルプス、奥秩父、浅間山などあらゆる山がクリアに見えます。冬は空気が澄んでるから特に。

右寄りの白い平原は白駒池という池で、冬は凍る。正面やや左寄りで遠くにある山は群馬の浅間山。

八ヶ岳の空はとても青く、最近は八ヶ岳ブルーなんて言うらしい。でもまぁ、晴れた冬の山の空は大体深い青でキレイですけど。

北側から見た天狗岳。双耳峰(ピークが2つある山)で、左が東天狗岳、右が西天狗岳。だいたいいつも西側(写真の右)から風が吹いているので木の枝は東側に寄る。

しかし悔しいのは、この圧倒的な景色が写真に写らないこと。スマホやパソコンの画面では奥行きもスケール感も伝わらないだろう。悔しい。

圧倒的に青い空、白い雪、風の冷たさと音。

明確なピークを目指すというよりは、空や周りの山を見ながら雪を踏みしめて歩き続ける感じ。登山というよりはハイキングに近いのだけど、それが妙に楽しいのです。こんな平和な冬山登山もあったのか…という。

高見石小屋という山小屋の横にある高見石。空が青すぎる。

標高が南八ヶ岳の山より低いので、同じ日でも天気の荒れ方が緩やかみたいです。 

凍った池の散策が楽しい

南八ヶ岳には全然無くて、北八ヶ岳にいくつもあるのが池。特に白駒池という池は、冬になると凍って上を歩けることで有名。

高見石に登ると、凍った白駒池を見下ろせます。よく見ると人が歩いた跡が見えます。

実際に行ってみると、真っ白な平原になっています。凍ってて上を歩けると言われても、初めてだと上を歩くのは勇気が必要。だって、氷の下は水ですよ?怖くないですか?(最初はビビった)

登山の講習で受講生を連れて行った時の写真。みんなおっかなびっくり歩いてました。

雪を掘ると氷が出てきます。けっこう厚いっぽくて人が歩いた程度では割れません(12月は凍りきってなくて、2月だと凍ってました)。

この年はよく凍ってましたが、先日(2022/02/27)行ったら雪が積もりすぎたためか、下の方はシャーベットになっていました。

ちょっと肝試しっぽく、山の中ではなかなか無いまっ平らな場所をサクサク歩くのは気持ちがいい。白駒池散策はおすすめです。

[embedded content]

動画で歩きにくそうにしてるのは、雪が想定より深くて下のほうの氷が溶けていたためで、早々に諦めて岸に戻りました。スノーシューとかワカンがあれば快適に歩けます。

行くのがわりと簡単

南八ヶ岳の山は、山小屋に行くまでが長くてけっこうな登りだったりするけど、北八ヶ岳はロープウェイでサッと山頂近くまで登れてしまいます。(いくつかあるルートの一つですけどね)

北八ヶ岳ロープウェイ。電車の駅からバスで行けるし、家から自家用車やレンタカーで行くことも可能。駐車場も広い。

南八ヶ岳も電車とバスで登山口まで行けますが、ロープウェイはありません。標高1760mまでは車で行けて、そこから標高2200mまでロープウェイで行けてしまう北八ヶ岳の楽なことと言ったら。

また、山荘によっては雪上車で送迎してくれたりもします。そうなると、登山者以外の人もアクセス出来てしまいます。

これは渋の湯の登山口。天狗岳に登る人が多い登山口で標高1850m。ここにはロープウェイが無いので足で登ります。山小屋までだいたい2時間くらい。

ホントに山小屋なの?ご飯が超美味しい

八ヶ岳は北も南も1年を通して営業している山小屋が多いのですが、どこの小屋もご飯が美味しい。そして特に北八ヶ岳の山小屋は、もう旅館では?というくらいご飯が美味しい。山小屋のご飯ってカレーでしょって?全然違うんだな、これが。

先日高見石小屋に泊まった時の夕飯。鳥肉のグリル、人参のマリネ、生野菜のサラダ、スナップエンドウ、エビフライ、クラムチャウダー、雑穀入りのご飯。全部うまい。本当に。

しかもデザートまで付いてきます。普通に驚いた。

ティラミス。しっかり苦くて濃くて甘くてうまい。

南八ヶ岳の山小屋もご飯が美味しいんですよ。ステーキとかバイキング形式とか、時期によっては生ハム原木とかあるのですごい(荷物を運ぶの超大変なので本当にすごい)。

でも、北八ヶ岳は更に一段上と言うか、街の宿を凌駕するクォリティだったりします。

高見石小屋は、こだわりのクラフトビールが飲めたりもします。しかもグラスまで出してくれてすごくない?(すごいんですよ、普通は缶のまま飲むんです)
超人気のお宿、夏沢鉱泉の夕食。豆乳鍋、さば味噌、鶏の唐揚げなどに小鉢が4つ。デザートはアイスクリーム(種類を選べる)。すごすぎてヤバい。

割愛するけど、他の小屋もすごいし、白駒池のほとりにある白駒荘なんて普通に湖畔の瀟洒なホテルって感じ。泊まったことないけど、食事も良いらしいので今度泊まりたい…。

山小屋に泊まらなくても、昼時は立ち寄りで食事をすることも出来ます。下の写真は黒百合ヒュッテのビーフシチュー。登山客に大人気です。

パンかご飯を選べるし、標高2400mだけどご飯はちゃんと炊けてて美味しいし、シチューの肉が柔らかいし生クリームも掛かってて、ほんとすごい。標高2400mの山の中ですからね?ここ。

北八ヶ岳ロープウェイはスキー場なので『スキー場のレストラン』もあるんだけど、最近は『スキー場カレー』もちゃんと美味しくて、北八ヶ岳は弱点無しかよ、と思いました。

カツカレー1350円。トンカツもカレーもちゃんと美味しいでやんの。値段も良心的。
いったん広告です

天気が悪くても死ぬほどじゃないので楽しい

上にも書いたけど、吹きさらしで簡単に死ねる南八ヶ岳と違って、北八ヶ岳の山の多くは樹林帯がすぐ近くにあり逃げ込めます。平和すぎる…。

(ただし天狗岳や根石岳は割と吹きさらしの部分が長いため、時々悪天候による遭難者が出ます)

先日、雪山経験ほぼゼロの友人と北八ヶ岳を歩いてきました。このような樹林帯が多い。なお、風はとても冷たく、素手なら即効で凍傷になります。

樹林帯のため、本格的な冬山の装備(前爪ありアイゼン、ピッケル、冬用ハードシェルなど)が無くても歩けるし、雪山初心者を連れて行くことも出来ます。

(ただし初心者だけで行くのは危険です)

防寒着、防水透湿のレインウェア、軽アイゼン、ストックなどでもどうにかなるので南八ヶ岳よりだいぶ敷居が低いと言えます。

(天狗岳に登る場合は前爪ありのアイゼンやピッケルなど本格的な装備が必要となります。無くても登れてしまうこともありますがリスクは高めです)

という事で、多少天気が悪くても比較的安全に歩くことが出来ます。例えばこのくらいの悪天候とか。

[embedded content]

たまに樹林帯が切れるときは、そこそこ風に吹かれますが短時間なので耐えられます。南八ヶ岳だと、この状態で2時間とか3時間とか、長時間行動することになるので死ねます。 

[embedded content]

こういう天気の時にまず冷えるのは手で、冬用の手袋を使います。

冬山用の手袋。分厚くて二重。インナーとアウターに分かれています。うっかり濡らしたり風で飛ばされて無くすと指が死ぬので予備も1セット持ちます。

僕は更に、一番下にニトリルグローブを着けています。VBLシステムと言って、最近冬山に登る人の間で流行っている防寒対策です。 

通気性ゼロのゴム手袋。手汗の気化熱が奪われないため冷えにくいし、内側から濡れないため同じ手袋を連日使えます。ニトリルグローブの内側は汗で濡れるけど必要以上の汗は出ないし、指もふやけない。

手の冷えは装備で対応できますが、登山道が分かりにくくなった時に正しい道を見つけるのは、ちょっと経験が必要です。北八ヶ岳は人気があるエリアなので、大抵は他人が歩いた跡(トレース)があるんですが、風が強いとトレースが風で飛ばされて消えてしまいます。

[embedded content]

上の動画はまだ薄く残ってますが、本当に消えてしまうことがあり、そんな時でも冷静に地図や痕跡をよく見て、正しいルートを歩かなくてはいけません。

(自由に歩くことも出来るけど、正規のルートを外れると腰まで雪に沈んで歩くのがとても大変だし道に迷いやすい)

ここでタイトルの『冬の北八ヶ岳ハイキング、天気が悪いと実は楽しい』になります。天気が良すぎるとただのハイキングだけど、天気が悪いとトレースが消えるし視界が悪いし、風がゴーゴー唸って渦を巻いている。これが楽しい。『山やってんな!』という気持ちになり、良いんです。(お分かりいただけるだろうか?)

『山やってんな!』という生を感じる気持ちと、でも逃げられる樹林帯が多く安全地帯も近い安心感のバランスが良いと思います。

(なお、十分な装備や経験など、安全には配慮して行動しています。万人には勧めないし、上にも書いたけど悪天候時に初心者だけで行くのは危険です)

強風の天狗岳、めっちゃ楽しい

特にやっぱり、森林限界を越えたところの強風が楽しい。下の動画は2022/02/20に天狗岳に登ったあと、下山中に撮ったものだけど風が強くて地吹雪で視界も悪くてヒリヒリしました。

(結局、こういう登山が好きなのかも知れない)

[embedded content]

しっかりした装備がないと10分も耐えられないかも知れないけど、ガッチリと厳冬期用の装備をまとって行動すれば耐えられます。

そして、時々雲が切れて、瞬間的に見える景色の美しさといったら!

[embedded content]

天狗岳は初心者向けの山ですが、それでもやっぱりこういう景色を見てしまうと「ああ、これを見るために冬山に登ってるんだよ」という気持ちになります。動画で見ても分からないと思うけど、これを実際に見てしまったらもう、冬山に登るのをやめられません。北八ヶ岳はこれでも、掛け金(リスク)がだいぶ低いので危険と景色を適度に楽しめます。

どうですか?いいでしょう?いいと思ったら、経験者か登山のガイドさんと一緒に行ってみてください。ハマると思います。で、行くなら3月か4月がおすすめです。少し暖かいから。厳冬期も楽しいけど。

[embedded content]

これはロープウェイを降りてすぐの坪庭周辺。この辺を散策するだけでも楽しい。トレースは踏み固められているので、スノーシューがなくてもチェーンスパイクや軽アイゼンを着ければ歩けます。 

テント泊も良いぞ

北八ヶ岳の山小屋は快適だしご飯も美味しいので小屋に泊まりたいのだけど、アクセスが楽なのでテントの装備を背負って登るのも比較的簡単です。黒百合ヒュッテ前のテント場は、雪山テント泊デビューにも良いかも。

テント内で肉など焼きながらお酒を飲むのも楽しい。

ただし、これも未経験でいきなりテント泊をするのは難しいので、経験者やガイドさんに習ったほうがいいと思います。雪がない時のテント泊とはいろいろ違いますので。

翌朝、夜に降った雪でテントが半分埋まってました。前日、周りをかなり掘ったんだけどなぁ…。

Source

タイトルとURLをコピーしました