次世代 AI 人材育成に挑戦する企業たち。自社のAIスキル不足を懸念か

DIGIDAY

現在のジェネレーティブAIブームのなかで、人々はAIのポテンシャルについて、実用的なものから哲学的なものまでさまざまな問いを投げかけている。AIを職場で導入すること自体は新しいことではないが、急速な革新とその加速度的な普及により、「AIスキル不足危機」とも評される、スキル不足を埋めるための優秀なAI人材の採用、訓練、適用を巡る新たな競争が生まれている。

この数カ月で、新しいAIツールの開発とそれらの使い方のトレーニングが、あらゆる業界で最優先課題となった。大きな注目とそれに伴う投資金は、多くのビジネスリーダーに緊急性と懸念を感じさせている。従業員が学ぶべきことは何か、何から始めるべきか、そしてそれが現在および未来の仕事に何を意味するのか。

ジェネレーティブAIを扱う職種は多くの企業でトレンドに

マイクロソフト(Microsoft)が1月にOpenAIへの100億ドル(約1兆4358億円)の投資で大きな話題を引き起こして以来、スタートアップから大企業まで、多くの企業がさまざまな種類のジェネレーティブAIに無数の賭けをしてきている。4月には、会計大手のPwCがジェネレーティブAIの活用を増強し、6万5000人に「より迅速かつ効率的に作業できるためのスキルアップ」を提供することを目標とした10億ドル(約1435億円)の投資を発表した。

数週間後には、AIを活用したソリューションを提供するSASも10億ドル(約1435億円)の3年間計画を発表した。ほかの企業も最近、従業員やクライアント向けのAI専門プログラムを作り始めている。3月には、アクセンチュア(Accenture)が新たな大規模言語モデルのセンターオブエクセレンスの設置を発表し、5月にはIBMがジェネレーティブAIに特化したセンターオブエクセレンスの設置を発表した。

ジェネレーティブAIは、人材サービスのアドズーナ(AdZuna)でも一般的になりつつある。ジェネレーティブAIを扱う職種の広告は、1月の時点でわずか185件だったが5月には1500件に増加し、平均給与も2月の13万1000ドル(約1886万円)から5月には14万6000ドル(約2100万円)に上昇した。一方で、Appleは少なくとも数十のジェネレーティブAI職を埋めるために求人を出していると報じられており、数え切れないほどのスタートアップや大企業が自社のチームを拡大している。

AIを学び始めるビジネスパーソン

コーセラ(Coursera)のような教育プラットフォームでは、AIについて学ぶユーザーの関心が高まっている。2022年4月から2023年4月のあいだに、プラットフォーム上でのジェネレーティブAIに関連する検索は230%増加し、GPTやLLMs、GANsなどの語が含まれていた。

「AIが人気を博すにつれて、より詳しく学びたいとの意欲が高まっている」と、コーセラのヨーロッパ、中東、アフリカ地域マネージングディレクターであるハディ・ムサ氏は述べる。同氏によると、労働者、企業、政府のすべてが、求人市場の変化に反応しているようだ。

「とくに雇用が非常に厳しく、同時に企業側も現行の経済環境での支出レベルをある程度減らす方法を真剣に模索しているこのような環境では、ジェネレーティブAIへの反応は大きい」と同氏は言う。

増大する需要に対応するため、コーセラは教育領域のテクノロジーを提供するディープラーニングAI(DeepLearning.AI)の「AIフォーグッド(AI for good)」や、ミシガン大学の「ChatGPTティーチアウト(ChatGPT Teach-Out)」など、新たなAIコースを追加している。

また、「コーセラコーチ(Coursera Coach)」のようなユーザーの質問に答えてパーソナライズされたコンテンツを提供するAIツールをプラットフォーム自体に組み込んでいる。ほかにも、AIアシスタント付きのコースビルダーや、機械学習を用いてコースを多言語に翻訳する新しいツールなどが新しいものとしてある。

これらの新ツールは、自分で学習を試みる人々に歓迎されるだろう。コーセラが最近実施した英国のビジネスリーダーを対象とした調査では、回答者の80%が既にジェネレーティブAIを自社の業務に利用していると報告し、一方で34%がスキルを持った労働者の不足が最大の課題であると述べた。英国のディシジョンメーカーの83%は、「AIは会社が必要とするスキルを変えるだろう」と予想しているが、英国の管理職でAIスキルが求職者にとって重要であると述べたのは67%だけだった。

次世代のAI人材

AIスタートアップのフューズマシーンズ(Fusemachines)では、グローバルな次世代のAI人材を育てることに部分的に焦点を当てている。同社の「デモクラタイズAI(Democratize AI)」プログラムでは、ネパールやドミニカ共和国、ルワンダなどの地域での幼稚園から高校までの学校、大学、政府とのパートナーシップによるAI教育プログラムを手助けしている。

また、自然言語処理を用いてエンジニアが求職者の面接に費やす時間を減らす「インタビューイングエージェント(Interviewing Agent)」といった、AI自動化ツールの開発も進めている。

同社の創業者兼CEOであるサミール・マスキー氏は、「AI業界はまだ新しいため、シニアAIエンジニアは最も見つけにくい存在だ」と述べている。組織は必ずしも若手AIエンジニアのトレーニングやメンタリングの計画を持っているわけではない。マスキー氏は、「アカデミックなトレーニングコースは、必ずしもAIの革新や新たな発見の変化のスピードに追いついていないのも問題だ」とも嘆く。

多様な分野の専門家とAIの融合

ほかのスタートアップもまた、その業界ごとに新しいAI職を作り出しており、そのなかにはエントリーレベルのものも含まれている。フィンテックのスタートアップであるイスラエルのエイプリル(April)は、AIによる税務プラットフォームの開発時に、「税務エンジニア」を雇用した。これは税務専門家が実際のエンジニアとともに働き、データセットの作成やベースラインモデルをサンプリングし、全体的なAIの精度を向上させる職だ。

また、エイプリルのCTOで共同ファウンダーであるダニエル・マーカス氏によると、「税務エンジニアたちは、教育分野などさまざまなほかの分野での経験を持っている人たちであり、彼らはオールラウンダーなエンジニアとなるキャリア経路も与えられている」という。

「AIの効率を最大化するには、コラボレーション体制とそれぞれの分野の専門家とを結びつけることが求められる」とマーカス氏(同氏は以前、携帯電話向けGPSアプリケーショのウェイズ(Waze)のCTOを務めていた)は述べる。「そのためには、大いに努力が必要だ。AIと相互作用し、それを調整するためのプラットフォームを構築する必要がある」。

仕事を奪われるという恐怖

人材サービスのモンスター(Monster)が行った2月の調査では、900人の会社勤務の回答者の49%がChatGPTやほかのAIジェネレーターを仕事で使用しており、そのなかには文章作成(50%)やコードの書き込み、財務予測といった専門的な応用例も含まれていた。

しかし、38%の回答者はジェネレーティブAIによって自分たちの仕事が奪われることを心配しており、26%は交通事故に遭うこと、キャリアを転職すること、そして職場で上司に嫌われること、そして人前でスピーチすることよりもChatGPTを恐れているという結果になった。

ChatGPTやほかの大規模言語モデル(LLM)が労働市場にどのような影響を及ぼすかはまだ不確かだ。しかし、オープンAI(OpenAI)とペンシルベニア大学の3月の研究論文では、LLMは米国の労働人口の80%のタスクの少なくとも10%に影響を与え、さらに19%のタスクの少なくとも50%に影響を与える可能性があると予測している。

AIの倫理を問う適切な人材とは

一部の人々にとっては、AIの人材はまだ必要ではない。ガートナーリサーチ(Gartner Research)によると、CIO(最高情報責任者)たちは内部および外部のリソースからAIの人材を確保しつつ、データサイエンティスト、データエンジニア、AIエンジニア、ビジネスエキスパートの4つの専門家を駆使してAIを展開しようとしている。5月のCIO対象の調査では、33%のCIOがすでにAIを展開しており、さらに15%が来年中には計画していると答えた。

AIの人材は、科学・技術・工学・数学などを学んだ人々を超えたところにも存在する。たとえば、アクセンチュアソング(Accenture Song)のデータ・分析部門責任者であるジャティンダー・シン氏によれば、「アクセンチュアのAIチームには、AIの偏見や先入観などの倫理問題に対応するために、歴史家や言語学者、哲学者が含まれている」と言う。同氏は、大規模言語モデルの構築に注力しすぎて、どのように「表現に命を吹き込む」かのアプローチについての議論が少なすぎると考えている。

「最良の本、最良の著者たちこそが、思考を解放してくれる」と同氏は言う。「私たちの心に創造性を生み出すのは彼らだ。この議論では、リベラルアーツ分野の友人たちを忘れてはならない。彼らは素晴らしい物語の語り手であり、彼らこそがこの技術を人間化する者だ」。

[原文: How Companies Are Training Next-Gen AI Talent To Avert Skills Shortage

Marty Swant(翻訳:塚本 紺、編集:島田涼平)

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