ファレル 考案の「ダモフラージュ」とファッションのグッズ化【ラグジュアリーブリーフィング】

DIGIDAY

今回はファレル氏の歴史とルイ・ヴィトン初のショーが語る、同ブランドの新たな方向性について注目する。

静かなラグジュアリーの時代はもう終わり。

6月20日にパリで開催されたルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)の2024年春のメンズウェア・ファッションショーは、意図していたように大きな話題を呼んだ。このイベントは世界中にライブストリーミングされた上に、超大物セレブリティを招待し、音楽をドロップし、高額なコンサートを兼ね、さらに200億ユーロ(約3兆円)の大手ラグジュアリーブランドの伝統的なデザインコードに対するまったく新しい現代的な解釈を明らかにした。

そしてこれが、3年間メンズのアーティスティック・ディレクターを務め、ラグジュアリー市場にストリートウェアを定着させたことで広く知られるヴァージル・アブロー氏のインパクトあふれる時代に続く、ルイ・ヴィトンの新たな方向性を示したことは言うまでもない。ファレル氏のルイ・ヴィトン・デビューパーティとして開催された今回のショーは、メディアのインパクトという意味では、とにかく大盛況だった。

ファッション全体に変化が訪れている兆し

ショーの場所とタイミングも、いわば歴史に残る瞬間となった。ここ数年、パリ・メンズファッションウィーク(Paris Men’s Fashion Week)はメンズファッションのファンにとってスーパーボウルのような存在となっている。ノードストローム(Nordstrom)のポッドキャスト、ノーディ・ポッド(Nordy Pod)の6月20日のエピソードで、GQのグローバル編集ディレクター、ウィル・ウェルチ氏は、「パリ・メンズファッションウィークは(GQの)文化的世界の中心だ。音楽、アート、パフォーマンス、そしてスポーツといったすべてがぶつかり合う場所だ」と語っている。

だが、今回のファッションショーの構成要素は、どれもほとんどのブランドが実現できるよりも高いレベルだったとはいえ、決して目新しいものではなかった。とはいえ、このイベントにいたるまでのファレル氏の動向と、独自の道を歩んできた彼の歴史は、ルイ・ヴィトンに、そして同ブランドの影響力を考えるならファッション全体に、変化が訪れていることを示唆している。

4月下旬、バージニア・ビーチで行われたファレル氏の音楽フェスティバル、サムシング・イン・ザ・ウォーター(Something in the Water)では、ルイ・ヴィトンのトランクを積み上げた砂の城のような彫刻や、特に注目すべきグッズのコレクションを通じて、ルイ・ヴィトンは驚くほど大きな存在感を示した。「LV」というイニシャルが「Virginia is for Lovers(バージニア州のスローガンで、愛する人たちのためのバージニアという意味)」のグラフィックに使用され、それを刻印したTシャツ、パーカー、ジャケットなどが860ドル(約12万円)から3050ドル(約43万円)で販売されたと報じられている

特に、消費者が新たに自己表現を重視するようになったことを考えると、フェスティバルの参加者や参加したいと思っている人々に、盛り上がっているその時にしか手に入らない記念品を提供するのはビジネスとして優れている。ルイ・ヴィトンのショーの世界的なリーチからすると、ファレル氏の「ダモフラージュ」デザインもまさにそれだといえるだろう。ダモフラージュとはファレル氏が考えた用語で、ルイ・ヴィトンのアイコニックなダミエのチェスボード柄をピクセル調のカモフラージュ柄に解釈したものだ。リアーナ氏やキム・カーダシアン氏などが着用し、写真に撮られ、投稿され、さらにそれがリポストされるなど、ダモフラージュにはいまや文化的な意味合いがある。これは来シーズンには間違いなく新たなモチーフに置き換わり、また別の大きな話題を呼ぶ斬新なショー形式で発表されることだろう。

ファッションショーはさらに大規模でコンセプチュアルに

ライブストリーム動画ショッピングプラットフォームのネットワーク(NTWRK)の創設者でCEOのアーロン・レヴァント氏は、ファッションショーの重要性がますます大きくなるにつれて、ルイ・ヴィトンや他の大手ブランドは、シーズンスタイルをデビューさせた直後に「See Now, Buy Now(いま見て、いま買う)」モデルで製品を提供し始めるだろうと予想している。レヴァント氏は2016年にファレル氏、村上隆氏、マーク・エコー氏とともにコンプレックスコン(ComplexCon)をローンチしている。

レヴァント氏は、ファッションブランドのフィア・オブ・ゴッド(Fear of God)が「音楽フェスティバルで行うように」4月のLAのショーで限定グッズを販売したことを指摘した。「その瞬間に自分が参加していた証として自慢できる記念品を手にし、その場を後にすることができる」。

「そうしたことを目にする機会が増えるだろう」とレヴァント氏は言う。「最終的には、大規模なファッションショーをライブストリーミングで同時配信し、それを見てそこで購入し、翌日にはその服を着ることができるようになる。それが消費者にとっての究極(のシナリオ)だ」。

ブランドにとっても同じことがいえる。

マーケティングとファッションの世界では、「誰もが消費者の注目を得るために戦っている」とレヴァント氏は述べた。あるブランドが消費者から注目された際に、販売を促進してその注目を活かせるのは、星の巡り合わせがよいときだ。

「ルイ・ヴィトンのショーにすべての注目が集まった。だが、問題は、自分たちがやっていることに高い関心を持つ人々を半年も待たせるのではなく、その瞬間をどう活用してコンバージョンさせるかだ」。

もちろん、巨額の資金を持つルイ・ヴィトンは、ビッグブランドとして話題を呼ぶ瞬間には事欠かない。

レヴァント氏は、ファレル氏のルイ・ヴィトン初のショーの成功に刺激され、今後ファッションショー業界全体がさらに大規模でコンセプチュアルに、そしてこれまで以上に体験的になっていくだろうと予測した。その上、予想外のファレル氏の就任が賢い選択だったことがすでに証明されているため、大手ブランドが採用するクリエイティブディレクターの人材のタイプについて「門戸を広げる」ことになるだろう、とレヴァント氏は言う。

ファレルはこれまでとはまったく違う予想外のことをやるだろう

ファレル氏は、文化的に意味のある製品の価値をよくわかっている。2022年10月、彼はデジタルファーストのオークションハウス、ジュピター(Joopiter)をローンチし、自身の持ち物のオークションを行った。そのオークションには、彼が2000年代半ばからずっと愛用していたネックレスや、授賞式で着用した「Women’s Rights(女性の権利)」のジャケットなどが含まれていた。このオークションは525万ドル(約7.5億円)の売り上げを記録している。

2月にGlossyが掲載したジュピターの詳細な記事では、「従来のパラメーターにとらわれず」つねに進化し続けるという、その革新的なインフラストラクチャーと、「集団的」な運営アプローチから「未来のブランド」だと述べた。当時、フルタイムの従業員よりも外部のコラボレーターのほうが多かった。そのなかには、ヴァージル・アブロー氏が設立したクリエイティブエージェンシー、アラスカ・アラスカ(Alaska Alaska)などもいた。

当時のCEOケレン・ローランド氏によると、ジュピターは文化的芸術品の寿命を延ばすという新しい現象にも拍車をかけた。ラッパーのドレイク氏はオークションで獲得したアイテムをミュージックビデオで着用し、キッド・クーディ氏はジュピターに投資して入手したものを自身のワードローブの定番にした。これもまた、大衆的な規模でトレンドとなっている「ノスタルジア」と考えることができるだろう。

ジュピターは超高額な一点物の商品以外にグッズを販売し、より多くの人々がコミュニティに参加できるようにしている。また同社のeコマースサイトでは、ほかのアイテムより価値があると位置づけされるアイテムはひとつもない。

ジュピターには、クラシックバージョンとモダンバージョンのふたつのロゴがあることも注目に値する。これはダミエとダモフラージュの関係性を連想させ、ルイ・ヴィトンの異なる顧客層にアピールするのは間違いない。

ルイ・ヴィトンの新作バッグについてレヴァン氏は、誰もが何かしら特別なものを感じるだろうと言う。ファレル氏と仕事をした経験から、レヴァン氏は業界の新たなレベルの包括性など、予想外のことが起こることを期待すべきだと話す。

「ファレルは我々がうれしい驚きを覚えるような、これまでとはまったく違う想定外のことをたくさんやるつもりだ」とレヴァン氏。「彼はアイコンであり、新たな挑戦に向かって立ち上がっている」。

ハイスノバイエティのパリファッションウィークに関するマーチャンダイズ

パリ・ファッショウィーク・メンズの期間中、ストリートウェアの出版社ハイスノバイエティ(Highsnobiety)は、コンテンツ、プログラミング、スーベニアのようなプロダクツなど、このイベントに関する5回目となる多面的なアクティベーション「ノット・イン・パリ・ファイブ(Not In Paris 5)」をローンチした。ハイスノバイエティ編集長のウィラ・ベネット氏が、そのマーチャンダイズ戦略について語った。

ーーラグジュアリー消費者がファッションを購入する際の現在の優先順位に対して、マーチャンダイズはどのようにフィットするか?

「マーチャンダイズはつねに人々にとって重要だ。最近では、カフェ・ド・フロール(Café de Flore)、ラス・デュ・ファラフェル(L’As du Falafel)、パリ装飾芸術美術館のルールー(Loulou)など、私たちが気に入っている世界中のいくつかの場所のためにグッズを作成した。それは最終的に、私たちがつねに考えているパーソナルスタイルというものに帰結する。つまりそれは体験を身にまとうことで自分自身を表現するという方法だ。今回のケースでは文字通り(ロゴで)主張している」。

ーー特定の場所と時間に結びついたファッションの価値とは何か?

「スーベニア(お土産)というアイデアは新しいものではない。それは思い出に残るひとときの体験を未来に持っていくためのひとつの形である。ノット・イン・パリのショップはまさにそこを利用している。50年代を代表するコミック『プチ・ニコラ(Le Petit Nicolas)』からジャン・ポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)やディプティック(Diptyque)にいたるまで、パリ文化の最高峰と協力しながら、どうすればこれらのアイテムのできるだけ面白いバージョンをオーディエンスに提供し、私たちならではのスーベニアショップを作ることができるのかを考えた」。

[原文:Luxury Briefing: Pharrell, ‘Damouflage’ and the merch-ification of fashion]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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