入り口は広く、出口は狭く…では困ります。
米連邦取引委員会(FTC)は先週、Amazonに対し「何百万人もの消費者を騙して無意識のうちにAmazonプライムに加入させている」と主張し、さらにユーザーを騙して企業が儲けるために作られたUI「ダークパターン」を使って解約を妨害したとして、同社を提訴しました。
同委員会のリナ・M・カーン委員長はプレスリリースの中で「Amazonは消費者を騙して罠にはめ、同意なしにサブスク登録させた」と述べ、「このような手口は消費者だけでなく、法律を遵守する企業にも損害を与える。FTCは今後もデジタル市場におけるダークパターンやその他の不公正、嘘にまみれた行為から米国人を強力に保護していく」と強調しました。
FTCの訴状によると、Amazonの幹部はこうした問題になると知りながら意図的な選択をはかり、消費者にとって有益な改善策を無視したとされています。米GizmodoではAmazonにコメントを求めましたが、今のところ回答はありません。
「解約しにくい」のは意図的なのか?
FTCによると、Amazonで買い物をすると何度もプライム会員に勧誘されるだけでなく、消費者がよくわからないまま自動的にプライム会員になる購入ボタンまであったそう。
訴状では、ユーザーは気づかないうちに月額14.99ドル(約2,151円)のプライム会員になり、解約しようとしてもなかなかできずに苦労した、とされています(ちなみに日米それぞれ料金体系が異なり、日本版は月額500円です)。
Insiderの報道によると、2017年にAmazonが意図的に解約プロセスを複雑化し、その後はキャンセルが14%減少したというデータがリークされました。Amazonはその、いわばキャンセル防止プロジェクトを、トロイア戦争の果てしない挫折を描いた長編のギリシャ叙事詩にちなんで「プロジェクト・イリアス」と呼んでいたんだそう(事実ならかなり悪質ですね)。
消費者擁護団体はこの訴訟を歓迎。Amazonに抗議する擁護団体のアテナ連合(Athena Coalition)は、「Amazonは自らの優位性を利用して消費者を罠にはめ、自社製品を買わせたり代金を支払わせたりしてはならない」という以下の声明を出しました。
Amazonプライムへの加入や退会は取るに足らないことだと思うかもしれませんが、Amazonのような独占企業が強圧的な手段で人々を騙そうとするなら、それは私たち自身の意思決定の自主性を制限することになります。こうしたな戦術は、オンライン・マーケットプレイス、物流、配送、動画配信などにおけるAmazonの支配を固定化し、地域経済を衰退させ、小規模ビジネスを閉塞させてしまいます。
実は、FTCは3週間のうちに3度もAmazonを訴えています。5月末には同社のスマートスピーカー「Alexa」が子どものプライバシーを侵害。そしてスマート・ドアベル「リング」の利用者の動画を同社の全従業員に公開したとして、罰金総額3100万ドル(約44億円)で合意に至っています。
解約が非常に面倒なAmazonプライムは、先述したダークパターンの典型例としてよく使われるんだとか。実際、解約するためには迷路のような隠しメニューの中を進む必要があり、最終的にはカスタマーサービスの担当者と対決して「どうか考えを変えてくれませんか」と説得されることになります。
FTCは悪質なサイトやアプリを取り締まる「ルール」を模索
FTCは、何十年にもわたって消費者を苦しめてきた問題を改善し、現代のインターネットのルールを書き換える取り組みを行なっています。
長年、法律の専門家たちは「どうせ政府はウェブの悪用に対して何もできないし、する気もない」と考えてきました。しかし、FTCは消費者の権利を守る戦いに再び力を入れています。議会からの支援がほとんどないなかで、規制当局は現代のニーズに対応するため、現行の数少ない法律を現状に適応させようとしているのです。
訴状では、これらの問題がFTC法と電子商取引に関する法律( Restore Online Shoppers’ Confidence Act)に違反していると主張しており、ほかのケースと違って和解ではなく法廷に持ち込まれています。
訴状の中身は大幅に編集されており、それも「企業秘密が明らかになる恐れがある」というAmazon側の主張が加味されたとのこと。FTCは裁判所に対し、「秘密保持の必要性を認めたわけではない」と伝えています。