5月10日、GoogleはジェネレーティブAIを取り入れた検索機能のアップデートの試行期間を発表した。アクセス権を持つ一部のユーザーにショッピング体験が拡張され、通常のグリッドに並ぶ製品以外にも検索結果が提供される。5月上旬に開催されたGlossy eコマースフォーラムでの講演にて、Googleのグローバルコマースマーケティング・シニアディレクター、ステファニー・ホートン氏が説明したところによると、そこには検索されたアイテムの概要、検索を迅速化し最適な方向に導くためのプロンプト、「検索に関して必要とは知らない可能性のある情報」が含まれる。
これはショッピングを「より効率的に、より速く、よりスマートに」しようとするGoogleの動きの最新段階だとホートン氏は言う。1日に10億回以上同サイトで買い物をするGoogleのユーザーらは、その高度なショッピング機能を受け入れている。Googleのビジュアル検索ツールであるレンズ(Lens)を利用する買い物客は月に120億人で、2年前とくらべて4倍に増えているという。また、レンズの「マルチサーチ」ツールを活用することで、ビジュアル検索にテキストベースの指定を加えることが可能になった。たとえば、黄色のスカートの画像をアップロードし、「ピンク」という単語を入力すると、リクエストした色の同様のスカートが表示される。さらにGoogleは、ARトライオンに強気である。同社によると350億点の商品リストがあるという。
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「消費者はどこでもシームレスに買い物ができるのを期待している」とホートン氏は述べた。
業界はライブストリーミングとショッパブル動画に賭けている
ホートン氏は、サーチジェネレーティブエクスペリエンス(Search Generative Experience)という今回の新たなジェネレーティブAI検索は、「発見力を表面化させるための」手段だと述べているが、その機能はある程度自分が探しているものが何かを知っている人に向けたものなのは明らかだ。
Googleのニュースをもとに業界の多くが私たちが知るショッピングの終焉に備えるなか、一部の関係者はAI検索の欠点を指摘している。すなわちAI検索には、ソーホーでの午後や古きよきショッピングモールへのお出かけにはあったような「発見」はまずない。しかも、あまりにもロボット的なのだ。そこで業界は、ライブストリーミングとショッパブル動画が小売の未来になることに賭けている。主な理由は、消費者、特にZ世代の現在の習慣に合致しているからだ。
チコズ・ファス(Chico’s FAS)のCEO兼社長のモリー・ランゲンスタイン氏は最近の対談で、パンデミックが始まった頃に同社が顧客から大量のメッセージを受け取ったことを振り返った。その多くは、お気に入りの売り場の従業員である「自分の担当者」の勤務状況や安否についての問い合わせだったという。それに関連していえば、米国の買い物客は全体的に、パンデミック後に店舗に戻りたくて落ち着かない様子だった。来店数の高さに基づき、何カ月ものあいだ、メディアには「小売りが戻ってきた」という見出しが踊り、ブランドリーダーたちも同じ意見を共有していた。その結果、デジタルネイティブなD2Cブランドは、次第に卸売チャネルに参入あるいは再参入を果たしている。
ここでのはっきりした教訓は、消費者は人間性をショッピングの貴重な要素とみなしているというものだ。それは、ほとんどのオンライン体験に欠けているものであり、そしてAIがそれを解決することはない。
QVCの親会社キュレートリテールグループ(Qurate Retail Group)が4月にローンチした動画ショッピングアプリ、スーン(Sune)の創業者であるブライアン・バイトラー氏は、「eコマースは購入を超便利で効率的にしたが、それは楽しいものではない。買い物の喜びをつぶしてしまった」と話す。「ショッピングにはエンターテインメント性があり、さらには心を癒す価値もある。だが、オンラインには、人間らしさや発見のセレンディピティの魔法が欠落している」。
いまも実店舗で買い物をするZ世代
4月にローンチしたスーンは、キュレートリテールグループが18歳から29歳の若い消費者に向けて展開している。そのため、その世代の習慣に基づいて開発された。つまりモバイルベースでショート動画を中心に、魅力的なストーリーを持つ個性的な商品やブランドに焦点を当てているとバイトラー氏は言う。ホストを務めるのは、インフルエンサー、俳優、ミュージシャンなど、ストーリーテリングに長けた著名人だ。
バイトラー氏は、Z世代はいまでも現実世界で買い物をしていると強調した。実際、Z世代はミレニアル世代よりも実店舗で買い物をする傾向がある。「私たちはそうした世代が親指を使って発見できる場を提供し、対面での体験と同じくらい魅力的なものにしたいと考えている」とバイトラー氏は述べた。
その反面、事前のアクティビティに基づくアルゴリズムは、発見を阻害するという。スーンは関連する動画や製品を表示する検索ツールが特徴となっている。
現在160のブランドを扱うスーンはマーケットプレイスモデルを活用している。各ブランドは、このプラットフォームに参加する際に収益分配契約を結ぶ。バイトラー氏によると、契約の数分後には、ブランドのeコマース在庫をプラットフォームに読み込むことができる。同社はスタートするにあたって、TikTok、インスタグラム、YouTubeに広告を掲載した。
バイトラー氏は、スーンが若い買い物客のスマホ上にある大手ソーシャルアプリと共存し、楽しみながら時間を過ごしたいときに利用するプラットフォームになるのが目標だと語った。
ソーシャルプラットフォームは、eコマースのコードの解読を目指すようになっているが、バイトラー氏はそれらのプラットフォームがショッピングに重点を置いていないことが、成功の妨げとなるだろうと述べている。
「TikTokとインスタグラムは、新しい商品を発見して購入決定のヒントになるように、信頼できる方法で動画を活用できるようにした。米国ではそれが加速している。だが、TikTokとインスタグラムにとって(ショッピングは)二次的な存在理由なのだ。人々が大好きなすばらしい小売ブランドの活動の中核となっているのは、ショッピングを楽しく、エンターテインメントなものにすることだ」。
ライブショッピングで買い物を「義務から会話へ」
米国に拠点を置くライブストリーミング企業ショップショップス(ShopShops)のアドバイザー、メガナ・ダール氏も同じ思いを抱いている。バイトラー氏と同様に、彼女は動画をショッピングの未来と呼ぶ。「私の考え方はこうだ。遊び場に行くのか、ショッピングモールに行くのか。インターネットは遊び場であり、そのひとつの面が購買やショッピングかもしれない。でもショッピングモールに行くのであれば、その目的は買い物をすることだ。ショッピング・プラットフォームも同じで、そこで遊んでいるわけではない」。
ライブショッピングアプリのワットノット(Whatnot)が、テック系VCのアンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)が3月に発表したマーケットプレイス100で9位に入ったのは注目に値する。マーケットプレイス100は、消費者向けの最大規模のマーケットプレイスのランキングである。100人以上のワットノットユーザーが、2022年に同プラットフォームでそれぞれ少なくとも100万ドル(約1億4000万円)を稼いだと報告されている。米国ではライブショッピングの売上が2026年までに3倍の550億ドル(約7.6兆円)に達し、eコマース全体の20%を占めると予想されている。
ダール氏は、インスタグラムのショッピング・パートナーシップ責任者として、インスタグラム・ライブショッピングをブランドに紹介して以来、ライブストリーム・ショッピングに強気になっているという。「マーチャントやブランドがこのようなショッピング行動をどれほど渇望しているかを目の当たりにした」と彼女は言う。ライブショッピングがインスタグラムでもっともコンバージョンの高いショッピングフォーマットとなったのは、一部にはホスティングクリエイターのおかげでもあるという。クリエイターはブランドとバイヤーの間に信頼関係を築き、ショッピングを「義務から会話へ」移行させている。
ショッパブル動画はeコマースに「人間味」をもたらす
同様に、リテールアドバイザーで投資家のケン・パイロット氏も、eコマースに「人間味」をもたらすという理由でショッパブル動画に賭けている。「オンラインショッピングは変わっていない。より早く、より簡単に使えるようになったが、いまだに商品説明ページに行き、カートに入れ、それが家に届く。おもしろみがない。会話もなく、交流もなく、個性もない」。彼はアジアでライブストリーミングが急速に普及していることを指摘した。中国では、ライブストリームショッピングが小売の売上の10%を牽引している。
パイロット氏は、ブランドや小売業者がショッパブル動画やライブストリームを自社のeコマースサイトに埋め込むことを可能にする技術企業、ファイヤーワーク(Firework)に投資している。米国でライブストリームを成功させるには、トッド・スナイダー氏やトリー・バーチ氏のようなカリスマ的なブランド創業者がホストを務める必要があると彼は言う。また、最大の費用対効果を得るには、ブランドはライブストリーミングで紹介した商品が売り切れるまで、その動画をショッパブルでアクセスしやすくすべきだ。パイロット氏は、1回きりのライブストリームよりも、ショッパブル動画の方が多くの可能性があると考えている。
バイトラー氏も同意しており、「若い消費者は、約束のために必ずしも決められた時間と場所で会うことを望んではいない」と述べた。
エンゲージメントがいずれ売上に結びつくと期待
5月18日の朝、インスタグラムをスクロールすると、キャロライナ・ヘレラ(Carolina Herrera)のライブ配信があり、同ブランドのクリエイティブ・ディレクターであるウェス・ゴードン氏がホスト役を務めていた。視聴者が好意的なレビューやフィット感に関する質問をコメントするなか、彼は画面上のモデルが交代で着用する新コレクションのルックを説明した。この動画は現在、同ブランドのインスタグラムのアカウントからアクセスすることはできない。
Z世代に特化したブランドで、ライブストリームを積極的に開催しているのは、パクサン(Pacsun)だ。同社は、販売に特化した番組を毎週運営するとともに、より大きなイベントをライブ配信して幅広いオーディエンスを惹きつけている。ライブストリームはすべてTikTokで行われ、毎週の番組はパクサンの店舗で撮影されている。マーケティング・バイスプレジデントのクリスティーナ・セレソーリ氏によると、ライブストリームによるパクサンの売上は時間とともに「少し」伸びているが、視聴率とインタラクションは「かなり」増えている。彼女は、このエンゲージメントがやがて売上に結びつくと期待している。各番組は、催しに合わせた着こなしなど、タイムリーなテーマに基づいている。
毎週の番組は「ほとんどチャットのようなもの」だとセレソーリ氏は言う。「視聴者は、ホストに試着してもらったり、どんな感じか説明してもらったりする。ほとんどの場合、私たちが当初は話すつもりがなかった、背景に見える何かについて質問される。物理的な環境には、顧客にとって非常にエキサイティングな何かがある」。
セレソーリ氏は、顧客が楽しみながら情報を受け取りたいと考えていることから、ショッピングのライブストリームを「インフォテインメント」と呼ぶ。パクサンのPSリザーブ再販事業を率いるミキ・グェッラ氏も、最近のホストに名を連ねる。
さらに再販プラットフォームのポッシュマーク(Poshmark)は、4月上旬にポッシュショウ(Posh Shows)機能でライブストリーミングを開始した。また当然ながら、Googleもこのトレンドに乗っている。YouTubeは昨年、Shopify(ショッピファイ)との新たな提携によって、ライブショッピングの機能を拡充した。そして5月上旬に発表された、いくつかのAIツールでYouTuberをまもなくサポートする予定だ。明らかに、これは二者択一の議論ではない。
[原文:Fashion Briefing: Is AI or livestreaming the future of shopping?]
JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)