メタ(Meta)の次なる最大のライバルは、リテールメディアになりそうだ。
今年2023年もレイオフやショッピング機能の終了が続く、Facebookやインスタグラムの親会社であるメタでは、この一年ユーザー数と広告売上の伸び悩みに苦しんできた。今は広告売上の成長率が1桁台に回復しつつあるが、伸びていこうとするその前方に新たな脅威が現れた。人気上昇中のリテールメディアネットワーク(RMN)だ。
ブランドにとって、リテールメディアは「購入時点により近いところで」消費者にリーチできるというメリットがある、と話すのはインサイダー・インテリジェンス(Insider Intelligence)のアナリスト、デブラ・アホウ・ウィリアムソン氏だ。
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つまり、さまざまなRMN、そしてAmazonが、やがて企業の広告費を「がっさり持っていく」かもしれないということだ、とウィリアムソン氏は書面による見解で述べた。「メタはまだこの脅威に真っ向から取り組んではいない」。
なぜリテールへのシフトが起きているのか
リテールメディアの価値はそのデータにある。RMNが「メタやその他のソーシャルプラットフォームに対する大きな競争相手」となりつつあるのは、購入に関するファーストパーティデータを持っているからだ、とエクスベラス・メディア(Exverus Media)のパフォーマンスメディア担当バイスプレジデントのシファット・ウッラ氏は説明する。
ウッラ氏によると、バイヤーは小売販売を拡大しているD2Cブランドでソーシャルからリテールメディアにシフトしている。また、「業界の期待とは裏腹に、メタでの直接的なソーシャルショッピングは消費者に気に入ってもらえていない。D2Cブランドのほうがこの影響を大きく受けている」そうだ。
インサイダー・インテリジェンスによると、2023年のメタの世界広告売上は6.3%伸びて1208.2億ドル(約16兆円)に達し、世界デジタル広告市場の20.1%を占めることになると予想されている。これでもGoogleの28.4%には及ばない。Facebookだけを見ると市場シェアは13.4%だが、次に大きいシェアはAmazonの7.5%だ。2023年のFacebookの世界全体でのユーザー数の伸びは「2022年に比べて基本的に横ばい」で、月間利用者数は20.7億人。一方のインスタグラムは世界全体で利用者数13.4億人と、2022年に比べて4.7%増加することが予想されている。
UMワールドワイド(UM Worldwide)の米国コマース責任者のエイミー・オーウェン氏は、広告予算がリテールに向かっていてメタからは離れつつあるトレンドが見られることは認めながら、具体的な数値の見極めは難しく、クライアントにもよる、と話す。オーウェン氏は、リテールメディアが最初に登場しはじめたのは1970年代だが、今になって再び人気が出てきたのは、テクノロジーとデータ機能が追加されているからだと説明する。そして、RMNはメタに比べるとリテール関連のデータが充実しているのだ。
「実際のところ、リテールメディアに広告費が流れているのは、そこに単にメディア以上のものがあるからだ」とオーウェン氏は米DIGIDAYに語った。「コマースメディアでうまくいった例を見るときに問題となるのはコンバージョンであり、それがオンラインで起きたのか、それとも実店舗内で起きたのか、という点だ。こうして確実にループをクローズしていく必要があるが、現在メタは多くのパートナーにそれを提供していない」。
オーウェン氏は、名前は明かせないとしながら食品・スナックのクライアントを例に挙げ、その会社の商品の場合、実際に商品が購入される「陳列棚に最も近い場所」としてソーシャルよりリテールのほうが広告費を投じるのに合理的なのだと話した。
オーウェン氏は「だが、そこで商品を買うとは限らないので、ほかの場所でも存在感を示す必要がある」という。
異なる用途とメリット
用途とメリットは、クライアントの種類と広告の目的によって違ってくるだろう。ウッラ氏は、メタなどのソーシャルメディアは認知度とエンゲージメントの向上に強みを持ち、RMNは下位ファネルの売上を自身のプラットフォームに取り組む上で戦略的な意味を持つと指摘する。
ウッラ氏は「この2つのチャネルはそれぞれが異なる成果を生み出すことを得意とし、1対1で交換可能なものではない」といい、「とはいうものの、2023年のブランドの傾向を見ると、明らかにリテールメディアへの投資が拡大し、ソーシャルへの投資は横ばいから低下へと向かっている」と語る。
オーウェン氏は、どのような種類のオーディエンスをターゲットとして狙いたいかという問題もあると付け加える。対象とする若年層のオーディエンスが、リテーラーのウェブサイトではなくソーシャルメディアにいる場合もある。ただ、両方のプラットフォームにいるのであれば、それぞれの場所での「ショッピング意識が異なるため」、彼らを両方の場所で追うほうが理にかなっているだろう。
「Facebookやインスタグラムにいるときには、特にショッピング意識はないだろう。だが、たとえばウォルマート(Walmart)やクローガー(Kroger)、さらにはAmazonでも、そこに行くときには何かを探そうという意識があり、そこを検索のために使おうとしている可能性がある」とオーウェン氏は話す。
ピュブリシス・コマース(Publicis Commerce)のリテールメディア戦略担当バイスプレジデント、アリソン・ルンディ氏も、クライアントのために両方の戦略を用いているが、必ずしも直接比較できるようなものではないと語る。「ソーシャルメディアはリテールメディア計画を補完するもの、またはその一部であるべきもので、競合させるべきものではない」とルンディ氏は語る。「RMNがオフサイト費用を拡大させる必要があるなか、ソーシャルサイト全体が重要な役割を担うことになる」。
メタがソーシャルコマースで克服しなければならない課題
メタがソーシャルコマースで競争していくには、上位ファネルとファネル全体にリーチすることがいかに売上に貢献するかを広告主に理解してもらう必要がある、とR/GAのメディアおよびコネクション担当バイスプレジデント兼エグゼクティブディレクターを務めるアンドリュー・ラフォンド氏は話す。エージェンシーが販売目標を追いかけている場合はリテールメディアへの投資が優先されることになるが、メタもその役割の一端を担い、予算の一部を獲得することはできる。
「メタをはじめとするソーシャルプラットフォームの課題は、ほかの重要な分野への投資を優先させながらも、ソーシャルコマース機能に関するイノベーションを継続し、向上させていくことだ」とラフォンド氏は話す。「ソーシャルコマースを引き続き推進することはできるが、前には少しずつしか進めないだろう」。
ピュブリシス・コマースのルンディ氏は、ソーシャルプラットフォームではシンプルかつシームレスにショッピングできるようにまだ取り組みを進める必要があるが、その一方で、消費者にインスタグラムの動画で見た品物をリテーラーのカートに追加してもらうのは難しいと話す。
ルンディ氏は「TikTokとゴーパフ(Gopuff)ではできるようになっているが、複数のソーシャルサイトやリテーラーにわたる幅広い展開が必要であるし、クローズドループ測定も確実に提供できなければならない」と話す。
[原文:Although Meta’s ad revenue is recovering, retail media may prove its biggest competition]
Antoinette Siu(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)