コーチ(Coach)の新しいサブブランド、コーチトピア(Coachtopia)は、デザイン段階から循環性を組み込んだZ世代オーディエンス向けの製品にフォーカスしている。4月18日の時点で、TikTokとインスタグラムに専用アカウントがあり、デビューコレクションはすでに2回完売した。だが、見かけほどよいものなのだろうか。
コーチトピアは、4月21日にコーチのウェブサイト、北米の店舗、セルフリッジズ(Selfridges)の販売チャネルで正式にローンチした。発売当初のスタイルには、バッグ6点、カードケース1点、パーカー1点、Tシャツ3点、サンダル1点、ステッカーセット、キーホルダー、バッグのハンドル、デニムを再利用した洋服4点などがあった。
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このサブブランドは、「コーチトピアン(Coachtopians)」と呼ばれる120人の循環型のインフルエンサー、スポークスパーソン、教育者の集団とともに作られ、ソーシャルメディアを通じたコミュニティの共創という新たなモデルを活用している。コーチの中核となるラインとの大きな違いは、コーチトピアの主な目的が、商業的成功のために循環性をテストすることにある。将来の製品ドロップも循環性を念頭に置いて作られる。82年の歴史があるコーチブランドはハンドバッグとレザーアクセサリーを専門とし、2022年の売上は49億ドル(約約6590億円)だった。
ローンチのきっかけはソーシャルメディアでのブランドの廃棄問題
コーチトピアの製品はリサイクルやアップクラフトされたレザーやデニムなど、循環型のデザイン要素を特徴とするほか、全製品が寿命がきたら解体されるよう設計されている。またデジタルウォレットは、クロエ(Chloé)やマルベリー(Mulberry)とも提携している製品デジタル化プラットフォームのイーオン(EON)によって統合されている。そのウォレットは、アイテムの組成やケアに関する詳細な情報をエンドコンシューマーに提供し、さらに、所有者から所有者へとアイテムのライフサイクルを追跡する。各アイテムのウォレットは、情報が掲載されたその製品ページにリンクするタグからスキャンできる。
コーチの関係者によると、コーチトピアのローンチの動機となったのは、ブランドの実践を暴露するTikTokのカルチャーだったという。2021年8月、反廃棄のTikTokerであるアンナ・サックス氏が、あるコーチの店舗のそばでダンプスターダイビング(ゴミ箱漁り)をしていた際、切り裂かれたバッグ数点を見つけて、それを紹介する動画を作成した。批判的な報道とTikTokのコミュニティに後押しされて現在580万回再生されているその動画は、ソーシャルメディアの力がブランドの廃棄に関する会話を促進したことを示した。
だが、コーチは当時すでに廃棄物問題に取り組んでいた。また偶然にも2021年8月には、アップサイクルした中古のバッグをベースにしたコレクション、コーチ・リラブド(Coach (Re)Loved)をローンチしている。それから2年間で、コーチは2万個のバッグをアップサイクルしてきたという。コーチトピアは、教育やマーケティングを駆使し、Z世代への販売に注力することで、その努力をさらに拡大している。
コーチの生産規模
皮革産業は、環境への影響、生産コスト、サイズに関する誤った情報に覆われているため、この分野のブランドにとって透明性とトレーサビリティの提供にはメリットがある。ほかのファッションカテゴリーと同様に、意識の高い若い消費者の多くは、革製品ブランドの主張を明確にするために知識豊富なTikTokerに注目している。
TikTokでタンナー・レザーステイン(フォロワー数79万8000人)として知られるヴォルカン・イルマズ氏もそのひとりだ。革製品に特化したクリエイターであるイルマズ氏は、20年以上の業界経験がある。彼の動画では、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)やコーチといったブランドの革製ハンドバッグを切り刻んで燃やし、その品質を判断している。コーチのバッグのいくつかのレビューは革が優れていると評価されており、950万ビューを記録している。イルマズ氏はまだコーチトピア製品のレビューをしていない。
イルマズ氏がコーチを批判したのは、その規模についてだった。「こうした動画を作り始めてから、ドイツなどにあるタンナー(製革業者)が私に連絡をくれるようになった。あるタンナーは、30年間コーチのためにレザーを作っていて、私がカットしていたバッグはそのレザーで作られている、と言っていた」とイルマズ氏。「ある時点で、そのタンナーは年間4000万~5000万個の革製品を(コーチのために)作っていたが、それはあまりにもとんでもない生産量だ」。
コーチが廃棄物問題に取り組んでいる一方、いまだに手をつけていないさらに大きな問題が過剰生産である。卸売再販業者のバンクアンドヴォーグ(Bank & Vogue)の創業者で、非営利団体アクセラレーティングサーキュラリティ(Accelerating Circularity)の役員でもあるスティーブン・ベセル氏は、ジ・インダストリーファッション(The Industry.Fashion)での最近のインタビューで、ほとんどのブランドは自社の過剰生産の割合を認識していないと語っている。卸売りで販売された後、アイテムがどこに行くかを知ることは重要だ。ベセル氏は、ブランドが過剰生産を減らして循環性を高めるためにも、どのアイテムがどこへ行くのかというデータを収集している。同氏は、1週間に300万点以上の中古の衣料品やアクセサリーを販売している。
コーチは生産数については公表を避けた。多国籍のラグジュアリーの持株会社タペストリー(Tapestry)が所有するコーチブランドは、同社の2023年の予想売上高が66億ドル(約8878億円)に設定されていることに大きく貢献している。100ドル(約1万3500円)から600ドル(約8万円)のバッグの生産量は相当なものであるはずだ。しかし過剰生産に取り組むことは、株主を満足させることと相反するのだ。
コーチトピアは循環型の商業化にどのように関わっているか
「コーチトピアの目標は、最終的にコーチを完全な循環型ビジネスモデルに変えること」。そう語るのは、コーチのグローバルマーケティング・クリエイティブ・サステナビリティ・シニアバイスプレジデントで、コーチトピアのトップを務めるジュン・シルバースタイン氏だ。「システムを測定可能にする点に関してコーチ・リラブドとコーチトピアが学習したことは、再びコーチにフィードバックされ、進歩の共有エコシステムを作り出す」。
さらにシルバースタイン氏は「当社はこの継続的なフィードバックのループを実装している」とも述べた。そこには、ソーシャルリスニングや、無償でブランドに携わるコーチトピアンたちからのフィードバック、そして営業や顧客の反応も含まれている。これらはすべて、今後のローンチを改善するためのデータとして照合される。コーチトピアンには、Amazonのドラマシリーズ『私たちの青い夏(The Summer I Turned Pretty)』で知られる俳優のローラ・タン氏、気候変動活動家のアディティ・マイヤー氏、グラフィックデザイナーのサブリナ・ラウ氏、古着ブティックオーナーのナタリア・スポッツ氏がいる。
コーチトピアのTikTokとインスタグラムのソーシャルメディアチャネルは、コーチのウェブサイトにある既存のレザーに関する教育的な情報をもとに、若い消費者向けに構築されている。インスタグラムのアカウントには現在1万人のフォロワーがおり、TikTokには2000人のフォロワーがいる。
非常に難しい問題は、コーチが循環型を測定可能にしてなおかつ商業的に成功させ、他のブランドにとって再現可能な例を示すことができるかどうかだ。
コーチトピアのマーケティング費用は過剰か?
ブランドにとって、マーケティングとローンチは密接な関係にあるが、サステナビリティや循環型に取り組む場合、それはいっそう複雑になる。関連技術を拡張するためにほかの場所への投資が必要な場合、マーケティングはどの程度過剰になるのだろうか。
匿名希望の元従業員で革の専門家は次のように述べた。「コーチはその規模の大きさゆえに、もうすでに(サステナビリティに関する)大きな問題に対してマーケティングをまったく行わずに大きな解決策を実施できている。2年前に再生レザーを導入したが、ウェブサイト上でそれに関する記述を見つけることさえ難しい」。
その一方で、コーチトピアのマーケティング費用は、同ブランドは公開を拒否しているものの過剰であると読み取れる。これまでのところ、ソーシャル広告やコンテンツへの投資、専用のポップアップショップが含まれている。同ブランドは、単に教育を通じてサステナブルな生産を支援するのではなく、新製品のローンチとそのスタイルに焦点を当てることで若い層に買い物をするよう促している。コーチトピアのTikTokの動画に寄せられるコメントのほとんどは、スタイルが売り切れであることを嘆き、そのバッグがグローバルで購入できる場所がどこかを尋ねるものだ。
サステナビリティに特化したコミュニティプラットフォームのファッシュマッシュ(FashMash)の創設者で、国連環境計画でサステナブルファッションのアドボカシーリーダーを務めるレイチェル・アーサー氏は、「ブランドにとって、新しい循環型のコンセプトを確立することと、それがもたらす影響を誇張するマーケティング活動に全力を注ぐこととの間には、非常に微妙なラインがある」と話す。「最終的にこれは、消費者にほかのものを買うよりも真に優れた循環型ソリューションに賛同してもらうということだ」。
D2Cテック企業のESWが4月に行ったグローバルボイセズ(Global Voices)の調査によると、Z世代の回答者の64%が、サステナブルであることを理由に、製品に金銭を多く支払ったことがあると回答している。ファッションブランドのグリーンウォッシュが依然として横行していることを考えると、その金が有益に使われているかどうかは不明だ。
「これらのクラフトプロジェクトでは、マーケティングの機会よりも測定可能なソリューションが重要だ」と前述の元従業員で革の専門家は言う。「ビジネスに(サステナブルな取り組みで)本当に影響を与えたいのであれば、測定できる解決策が必要であり、またそれは利益を生むものでなくてはならない」。
[原文:Fashion Briefing: The potential impact of Coachtopia, the new sub-brand from Coach]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)