AR ・VR再ブームがもたらす、コンバージョンのチャンス拡大

DIGIDAY

AR(拡張現実)がより身近になるにつれて、エージェンシー各社は、MR(複合現実)体験で消費者のエンゲージメントを高めるべく、スポーツチームやエンタメ会場との提携を進めるようになっている。

ソーシャルメディアやコマースに根差した戦略(たとえば、服の試着やカメラフィルターの利用など)から、娯楽やメディアを取り巻く間接的なサービスの模索へとARが変わりつつあるいま、このメディアのマーケティングの測定方法も変わる可能性があると、今回、米DIGIDAYが取材したエージェンシー幹部4名は口をそろえる。

熱心なファンとカジュアルなファンの両方を取り込める

スタグウェル(Stagwell)は今年4月、ライブARプラットフォーム「アラウンド(ARound)」の開発を引き続き行い、アプリに新たなスポーツチームを追加して、試合関連のコンテストなどのコンテンツを提供した。アラウンドCEOのジョシュ・ビーティ氏によれば、スタグウェルはアラウンドを、消費者のエンゲージメントを大きく高められる「新たなコネクテッドマーケティングメディア」と考えているという。

「ブランドがARをうまく活用すれば、ファンのエンゲージメントを高め、試合やイベントを通してより多くのタッチポイントを提供できるインタラクティブ体験を生み出すことができる」と、同氏は語る。(MLBの)ミネソタ・ツインズの試合では、ファンひとりあたりのアラウンドのエンゲージメントは25分超だったという。

同アプリには今年、スポート関連のデータフィードのための自動化やインテグレーションが追加で導入されることになっている。その目的は、スタッツやリアルタイムの情報を好む、熱狂的なスポーツファンを引き込むことだ。また、同氏によると、ARコンテンツは若年層のオーディエンスや、カジュアルなスポーツファンのエンゲージメントを高めるのに、とくに効果的だという。

いずれ、人によって異なるAR広告が配信される未来も

メディアモンクス(Media.Monks)がVR(仮想現実)に参入したのは、2020年のことだった。その口火を切ったのは、メタ(Meta)およびNBAとの提携による、コードサイドを180度体験できる没入型VRだった。翌2021年には、アーティストのポスト・マローン氏と提携して、没入型コンサート体験を提供した(これらの提携における金銭的詳細については、情報を入手できなかった)。

今年、NBAの52試合がメタのヘッドセットであるオキュラス(Oculus)で視聴可能になった。そのうちの5試合には、NBAのスター選手とスペシャルゲストによる実況を交えた没入型放送がフィーチャーされた。メディアモンクスのイノベーション担当シニアバイスプレジデントであるルイス・スミシンガム氏は、MRコンテンツを用いれば、やがてストーリーテリングは「ひとつの平面」という枠を超えられるかもしれないと話す。

いずれは、地理空間テクノロジーによって、各消費者が同じ掲示板を見ても、それぞれのデータに基づいて異なるAR広告が配信されるようになるかもしれないという。「未来は大きくひらけている」と、同氏は語る。

また、静止したページや動画とは違ったかたちで消費者がその各要素と関係するため、エージェンシー各社はAR/VRコンテンツに促されて、インプレッション指標の先へと進む未来も考えられる。以前なら、マーケターは何百万というインプレッションを求めたかもしれないが、消費者がコンテンツの一部となって、それと相互作用できれば、MRによってコンバージョンのチャンスが膨らむと、スミシンガム氏は付け加える。

同氏の口からNBAとの提携の成果は明らかにされなかったが、メディアモンクスによれば、ここ数シーズンにファンと交わした会話から、これらの放送が熱狂的なバスケットボールファンだけにとどまらない幅広いオーディエンスをも引きつけていることがわかっているという。

ARやVRの活用は必須になるか?

「マーケティング費については、さらにもう一歩踏み込まなければならないところに差しかかっていると思う」と、スミシンガム氏は語り、「コントローラーに手をかけるとき、消費者はコンテンツと相互作用している。VRのなかにいるとき、消費者はコンテンツにエンゲージし、そこに存在してそのストーリーの一部になる。今後はこれがブランドにとって何よりも重要になってくるはずだ」と述べる。

さまざまな面を移動するコンテンツが増えてきているいま、エンゲージメントに対する見方を変え、コンテンツを消費者の記憶に焼き付けることが重視されていると、同氏は考えている。「テレビを見ているとき、ゲームをしているときでさえ、消費者は違うことをしている。彼らは必ずしも注意を払っているわけではない」と同氏は付け加える。

さらに、「いまという時代にありながら、インタラクティブでないものは、壊れているも同然だ。そう私は確信している」とも語る。「ARやVRを活用することで、ブランドがより意味のあるエンゲージメント、記憶の形成につながるエンゲージメントを得るチャンスが生まれる。ブランドに目を向け、ヘッドトラッキングを基にブランドを識別できるVR体験に取り組むことで、このチャンスをものにできる」。

従来のキャンペーンを超えたクリエイティブなストーリーの作成

ピュブリシス・グループ(Publicis Groupe)内のインタラクティブエージェンシーであるレイザーフィッシュ(Razorfish)も、没入型メタバース体験やプロダクトなどのWeb3サービスを増やしている。同エージェンシーのコンシューマーおよびコンテンツ体験担当エグゼクティブバイスプレジデントであるクリスティーナ・ローレンス氏は、MRは物理的な場所やライブイベントを「新たなデジタル空間レイヤー」と結びつけることができ、そこがライブ会場だろうと店舗だろうと、ユーザー体験に変化をもたらすことができる、と指摘する。

「こうした感情的つながりを深めるテクノロジーのひとつがARだ」と同氏は話し、「ライブ会場では、ARを使えば物理的体験を効果的に超越した、ライブショー体験の隠れた要素を見せられる。もうひとつの事例は小売りだ。消費者が動く商品をARで確認できれば、一般的な店内体験よりもその商品の利点や機能がよくわかる」と説く。

また、効果的なARキャンペーンは、最終的に従来のキャンペーンを超えた「クリエイティブなストーリーを解き放つ」ことができると、同氏は言い添える。なお、レイザーフィッシュは、コカ・コーラの企業博物館であるザ・ワールド・オブ・コカ・コーラ(The World of Coca-Cola)のために12の没入型体験を制作している。

「ザ・ボールト(The Vault)」と名付けられたこのインタラクティブ体験は、来場者がコカ・コーラの極秘レシピにまつわる物語を体験できるアトラクションで、顔検出やバーチャルゲームなどの要素を取り入れて制作された。詳細は明らかにされなかったが、ザ・ボールトはザ・ワールド・オブ・コカ・コーラの人気アトラクションのひとつで、年間の来場者数は120万人だという。

AIの導入でAR/VRはさらに進化するか

加えて、ローレンス氏は「チャンスの芽が増えるにしたがって、そのほかの新たなMR体験の言語学習モデルが、AR/VRコンテンツに果たす役割も大きくなるかもしれない」と話す。たとえば、可能性のひとつとして考えられるのが、消費者エンゲージメントやサポートのシナリオにAIを活用することが挙げられる。

同氏はこう語る。「AIが、リアルタイムボットのペルソナやキャラクターをどのように強化できるかを考えると胸が高鳴る。ストーリーテリングやライブインタラクション、リアルタイムアシスタンスを介して、体験全体が高められるだろう」。

[原文:Agencies’ reignited AR, VR forays could create new ways to measure consumer engagement

Antoinette Siu(翻訳:ガリレオ、編集:島田涼平)

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