ポッドキャスト広告 長尺の売り込み増加も、人気は安価な短尺:「2分間の広告を最後まで聴きたい人がいるだろうか」

DIGIDAY

規模の小さなポッドキャスト制作会社やクリエイティブスタジオが、カスタムの長尺ポッドキャスト広告フォーマットのメリットをアピールしている。短尺の読み上げ広告に比べて高い料金を請求できるのだから、当然といえば当然だ。しかし、メディアハブ(Mediahub)、ホライゾンメディア(Horizon Media)、グループエム(GroupM)といったアドバイヤーは、もっぱら1分未満のポッドキャスト広告を好んで購入している。そのほうが安いうえ、リーチを犠牲にすることもリスナーの関心を失うこともないからだ。

IAB(インタラクティブ広告協議会)が5月10~12日に開催した「ポッドキャスト・アップフロント(Podcast Upfront)」で、ポッド・デジタル・メディア(Pod Digital Media)などの小規模なポッドキャスト制作会社は、カスタムブランデッドセグメントのメリットをアピールした。長さを2~3分にすることで、広告をポッドキャストの『ミニインフォマーシャル』として利用できると、多文化ポッドキャストネットワークを運営するポッド・デジタル・メディアの創業者兼CEO、ゲイリー・コイチー氏は語っていた。

また、このような広告フォーマットは、短尺のポッドキャスト広告と比べて、エンゲージメント、コンバージョン、ブランドリフトの上昇をもたらしているという。15~30秒のホストリード広告(ホストが読み上げる広告)のCPMが平均で25~30ドル(約3230〜3876円)なのに対し、同社はカスタムセグメントで75~80ドル(約9045〜10337円)の料金を設定できているという。

小規模ブランデット広告を売り込む各社

パブリッシャーのスレート(Slate)でクリエイティブ戦略ディレクターを務めるリリー・バトラー氏は、同じアップフロントで60~90秒の「小規模ブランデッド広告」を広告主に売り込んだ。これは「しっかり作り込まれ、完全にカスタマイズ可能なミニドキュメンタリーで、スレートのポッドキャストの途中で流される」という。

ボックスメディア(Vox Media)のブランドコンテンツスタジオであるボックス・クリエイティブ(Vox Creative)も、60秒~5分のブランデッドセグメントを販売している。これは「ポッドキャスト内のポッドキャストセグメントのようなもの」で、ブランドについて、ポッドキャストのスポンサーとしての貢献を説明するといった使い方ができると、同社でオーディオ担当エグゼクティブプロデューサーを務めるアンヌ・スブラマニアン氏は説明した。たとえば、同社は2019年、HBOのドラマ「シリコンバレー(Silicon Valley)」のファイナルシーズンの宣伝でHBOと契約を交わし、テック系ジャーナリストでポッドキャスト「ピボット(Pivot)」の共同ホストを務めるカラ・スウィッシャー氏(同ドラマにカメオ出演)と同ドラマの登場人物(俳優のマット・ロスが演じた)ギャビン・ベルソンのインタビューを配信している。

好まれているのはいまも30秒の広告

だが、広告バイヤーに話を聞く限り、ポッドキャストの広告ミックスで長尺動画のカスタム統合セグメントにお金をかけられるのは、大きな予算をもつ広告主だけのようだ。それ以外の広告主は、30~60秒の広告を頑なに利用している。

IABが5月9日に発表した米国におけるポッドキャスト広告の収益調査の結果も、同じようなものだった。米国ではポッドキャスト広告の半数以上が16~30秒で、ポッドキャスト広告のインベントリー(在庫)全体に占めるシェアは、2019年の38%から増えている。これに続くのが31~60秒の広告だったが、そのシェアは27%で、2019年の44%から下落した。1分を超える広告のシェアはわずか3%で、こちらも2019年の9%から減っていたことが、この調査で明らかになっている。

メディアハブがクライアントのために購入しているポッドキャスト広告は、そのほとんどが30~60秒のプレロール広告かミッドロール広告だと、メディアプランニングとメディアバイイングを手がける同社で、全米のオーディオ投資を担当しているアソシエートメディアディレクター、ジェイコブ・シュワルツ氏は話す。

「これがポッドキャストを購入するもっとも効率的なやり方だ」と、シュワルツ氏はいう。「実際に目にしている結果から考えて、2分間の読み上げ広告を配信すべきなどとはとてもいえない。(中略)自社のブランドについて、ブランドが行っていることについて、そして注目してもらいたい理由についてのメッセージを60秒間で伝えられないのなら、私はクリエイティブのほうに問題があるのだと思う」。

ホライゾンメディアのバイスプレジデントで、アドバンスト・デジタルオーディオ担当マネージングディレクターを務めるマリア・ターリン氏によれば、同社も同じ状況だという。

プロデューサーが読み上げる短尺広告が「人気を集めている」のは、オーディエンスのターゲティングやセグメンテーションが改善されているからだ。実際、アイハート(iHeart)やSpotify(スポティファイ)のような大手企業は、オーディエンスの属性に合わせたポッドキャストネットワークを立ち上げてきたと、ターリン氏は指摘する(アイハートの「ブラックエフェクト[Black Effect ]」や「マイカルトゥーラ[My Cultura]」など)。

業界の側は、ホストリードのネイティブ広告から離れ、ホストがポッドキャストの番組内でブランドについて話しているうちに60秒を超えるような広告からも離れようとしていると、ターリン氏はいう。だが、「スポンサーシップ(セグメント)を購入している場合を除き、そのような広告(60秒を超える広告)が増えているようには感じられない」と、同氏は語った。

グループエムでチャネルソリューション担当エグゼクティブディレクターを務めるジェン・ソック氏によれば、ホストリード広告はいまも30秒のものが「好まれており、もっとも一般的だ」という。

「ポッドキャストでより多くのオーディエンスにリーチしようする人が増えている。ポッドキャストの予算が増え、リーチできる人数への関心が高まっているため、30秒のコミュニケーションにより適した状況になっているのだ」と、ソック氏は語った。

コストが膨れ上がるなどのリスクも

また、ポッドキャストで長尺のカスタム統合を行えば、パブリッシャーや番組、それに共に仕事をするタレントによっては、「たちまちコストが膨れ上がる」可能性がある。メディアハブがこの広告フォーマットに多くのお金をかけていないのは、このことも理由だとシュワルツ氏は明かした。

例を挙げよう。「50万ドル(約6464万円)のポッドキャスト予算で1000万インプレッションを獲得できるときに、1カ月に15万回ダウンロードされるポッドキャストに25万ドル(約3232万)をかけるとしたら、予算の半分を使い、リーチの半分を失ってまで、より規模が小さく統合に手間のかかるポッドキャストに予算を回す価値はあるだろうか。ブランドによってはうまくいくだろうが、うまくいかないブランドもある」と、シュワルツ氏は語った。

カスタム統合にすればCPMが必ず高くなるわけではないが、広告主の最低支出額は高くなると、シュワルツ氏は指摘する。たとえば、ポッドキャストキャンペーンのホストリード広告で広告主に最低10万ドル(約1292万円)を支払うよう求めているパブリッシャーなら、タレントやポッドキャストによっては、カスタム統合に最低50万ドル(約6464万円)の支払いを求めてくる可能性がある。ソック氏も同じ意見で、問題はCPMが高くなることではなく、「全体的な投資レベルが大幅に上がる」ことだと述べている。

「ブランドによっては、常に50万ドル(約6464万円)しか予算をかけられないこともある。その場合に、ひとつのポッドキャストのひとつのセグメントに全予算を投じる価値はあるだろうか。おそらくない」と、シュワルツ氏はいう。「それよりも、より多くのポッドキャストで、よりお金をかけずにより短い広告を配信するほうが効果的だろう」

ただし、大きな予算をもっているブランドなら意味があるかもしれない。ポッドキャスト広告費の一部を長尺のカスタムセグメントに振り分けても、規模の拡大が見込める短尺スポットでのリーチが犠牲にならないからだと、シュワルツ氏は指摘した。また、ホストとのインタビューやブランドのストーリーを配信するスポンサー付きセグメントでは、1分を超える広告が有効なこともあると、ターリン氏は述べている。

とはいえ、長尺の広告の欠点は、視聴者の関心を失ってしまうリスクがあることと、やはりコストがかかることだとシュワルツ氏はいう。「60秒を超える場合は、ユーザー体験についても考える必要がある。2分間の広告を本当に最後まで聴きたいと思う人がいるだろうか。おそらくいないだろう」。

[原文:Podcasters are pitching longer, more lucrative ads, but ad buyers prefer shorter, cheaper spots

Sara Guaglione(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:黒田千聖)
Illustrated by Ivy Liu

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