大手映画広告企業は倒産も、 映画広告 はダウントレンドにならず:「いまは誰もが、映画ビジネスはここから上がっていく一方だと見ている」

DIGIDAY

青天の霹靂――というわけではないが、全米最大の映画広告企業であるナショナル・シネメディア(National CineMedia、以下NCM)が、4月11日の晩、破産を申請した。それは皮肉にも、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』公開のおかげで、2023年度最大の盛り上がりを見せた週末から、わずか数日後のことだった。

NCMの破産は、コロナ渦中の映画館閉鎖によって積み重なった負債と、高金利のなかで資金再構築を迫られたことによるものであり、お粗末な経営のせいではないと、業界の評論家たちは見ている(もっとも、以前の経営が失われていたのは事実ではあるが――詳細は後述のとおり)。

ただ、破産は宣告したが、同社は債権者と債務再建に努めながら業務を続け、引き続き従業員に給与を支払い、事業を前進させていくという。

破産の原因はコロナ? それともお粗末な経営?

「弊社は財務バランスの立て直しに向けて重要な一歩を踏み出すが、お客様への最適な広告ソリューションの提供という点については、何も変わらない」と、同社チーフレベニューオフィサーであるマイク・ローゼン氏は書面で断言している。「今後も引き続き、広告主の皆様がNCMに期待するインパクト、価値、結果を提供していく」。

ローゼン氏は同書面上で、2023年度のこれまでの興行収入こそ前年比26%増と好調である点にも触れている。「我々は明るい未来への期待に胸を躍らせている。革新と成長をめざし、さらなる柔軟性をもって出現することを心待ちにしている」。

とはいえ、映画広告業界に詳しいある幹部は、NCMの経営体制は元プレジデントのクリフ・マークス氏が2021年に去って以来、すっかり変わってしまったと指摘する。マークス氏はNCMでの19年間、出世の階段を駆け上がった人物であり、文字どおり業界の顔だった。

映画館における広告ビジネスは復活しつつある

NCM最大のライバルであるスクリーンビジョン(Screenvision)から公式のコメントは得られなかったが、ある幹部は匿名を条件に、今回の報道が出たのは、映画広告企業勢が参入を計画しているハイシーズンの直前であり、あいにくのタイミングではあるが、業界にダメージを与えるものではない、と話す。

実際、同社に物理的な影響は及ばないだろうし、むしろ、広告契約あるいはより多くの劇場との独占的関係を通じて、同社がより大手のライバルの陣地を多少なりとも奪い取る結果になるのではないかと、同社の幹部は見ている。

「映画館に行くメインストリーム層の動きが戻り、それに伴って広告ビジネスも復活しつつある。我々の事業も好調だ」と、その幹部は話す。「ロケット並みの勢いではないが、スクリーンビジョンの財務状況は上々だ。広告販売が再びよい塩梅で伸びており、顧客との関係性も強まっている。本物で確実な追い風がいくつも吹いている。ようやく戻ってきた、という思いだ」。

充実するコンテンツパイプライン

そうした確実な追い風のひとつが、コンテンツパイプラインがこの先も充実すると思われる事実だ(これはちなみに、ライター勢のストライキ回避にも繋がる。ライターのストライキは映画からTVまで、映像コンテンツ業界全体に悪影響を及ぼしかねない)。たとえば、Appleは3月、Apple TVでの配信前に、まずは映画館で限定公開する予定の映画リストを発表した。

また、Amazonは4月第2週、『AIR/エア』を劇場公開し、予想以上の興行収入を手にした。

さらには、合併した新会社ワーナー・ブラザース・ディスカヴァリー(Warner Bros. Discovery)のCEOデビッド・ザスラフ氏さえも、最近のウォールストリート・ジャーナル紙の記事における引用のなかで、映画館ビジネスの価値は過去2年のそれをはるかに上回るものになると、断言している。「いまや、映画館で新しいものをかければ、経済的利益が得られるエコシステムが存在する」。これは、2022年11月のアナリストカンファレンスにおける同氏の発言を引用したものだ。

「コロナ禍の最中が、業界にとってのまさしく底だった」と業界団体のDPAA(Digital Place-based Advertising Association)でCEOを務めるバリー・フレイ氏は言う。「いまは誰もが、映画ビジネスはここから上がっていく一方だと見ている。『スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を見ればわかる。その動きを後押しできる強力な経営体制も整っている」。

[原文:Will National CineMedia’s bankruptcy drag cinema advertising down with it?

Michael Bürgi(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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