このほど、コカ・コーラ(Coca-Cola)は、生成(ジェネレーティブ)型AIツールを使って同ブランドのアートワークを作成し応募するよう、一般のファンたちに呼びかけた。優秀なアートワークは、ニューヨークやロンドンの広告看板に掲載される可能性があるという。同時に、同社はマーケティングにAI技術をどのように統合できるかを検討するため、コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニー(Bain & Company)とも提携していると報じられた。
現状のAI活用方法
コカ・コーラのような大手企業の多くが、ジェネレーティブAI技術をどのように活用できるかをエージェンシーに尋ねている。しかし、マーケターやエージェンシーの幹部によれば、現時点では消費者向けの仕事をジェネレーティブAIで制作しているところはほとんどないという。
多くのマーケターは、実際の制作ツールとして舞台裏で活用するのではなく、AIを使った技術のPR効果(AI技術を使っていること自体をPRに使っている)に依存していると、マーケターとエージェンシーの幹部たちは述べている。
Advertisement
ロレアル(L’Oreal)の最高デジタル・マーケティング責任者のハン・ウェン氏は、同社が現在のマーケティング活動でAIをどのように使用しているかという質問に対して、「テストを行っている」と語った。「消費者の目標を達成するために、多くの方法でテストを行っている。コンテンツ制作を加速させる方法は議題となっており、ジェネレーティブAIの力がどのように活用できるかを考えなければならない」。
同氏は続けて、「ブランド安全性のある複数のブランドでテストを行っており、この分野で働くクリエイターに対しても安全かつ公平な方法で進めている。この分野はまだ始まったばかりだ。ジェネレーティブAIの力は明らかだが、マーケティング組織として消費者の期待によりよく応えるために、これをどのように活用して意味のある方法で取り入れるかが問題だ」と述べた。(ウェン氏は、ロレアルがどのようにしてジェネレーティブAIをブランドに試しているかについて具体的には言及しなかった)。
リスクは潜み、慎重になるエージェンシー勢
マーケターとエージェンシーの幹部たちによると、彼らのクライアントはマーケティングにおけるジェネレーティブAIの活用に興味を持っている一方で、AIを既存のクリエィティブ・プロセスで使用する方法に焦点を当てており、一般向けに公開されるようなクリエイティブ作品をそのままAIで作成することは今はあまり考えていないようだ。
さまざまなジェネレーティブAIプラットフォームが出版社やアーティスト、そのほかの関係者から許可を得ずにデータ学習や作品の生成を行なってしまっている。それが原因で、それらのプラットフォームを使用して作品を作成するクライアントにとって法的な問題が生じる可能性がある。
ジャイアント・スプーン(Giant Spoon)の共同創設者であるジョン・ハーバー氏は、「表向きの作品に対しては懸念がある。まだ法的な闘いがこれから起きるだろう。誰も炭鉱のカナリアになりたくない。それがクライアントの表向きの作品での(AIの)使用意欲を減速させている」と述べた。
カラットUS(Carat US)のイノベーション部門責任者かつシニア・バイスプレジデントであるマイケル・リュウ氏は、クライアントが法的問題の可能性を考慮して慎重になっており、クライアントの法務チームとジェネレーティブAIプラットフォームのデータ収集方法について話し合っていると説明した。
ワンダーマン・トンプソン(Wunderman Thompson)のデータサイエンス部門ディレクターであるイリンカ・バルサン氏も同様の意見を述べた。これらのAIはマーケターやエージェンシーたちが独自に開発したわけではないため、ジェネレーティブAIプラットフォームが何を学習に使ったかについて疑問を持っているという。「この技術活用に関して、リスクを軽減することは難しい」と同氏は言い、ブランドがジェネレーティブAIの利用に関して「テストと学習の段階にあると捉えるべきだ」と指摘した。
安全な活用方法は?
その一方で、カラットUSはクライアントと共にAIを使用したプロジェクトに取り組んでいると、リュウ氏は明らかにした。具体的なことは語らなかった。現在の焦点については教育やテスト、学習にあると付け加えた。
「これまでに多くのPR駆動型の取り組みがリリースされ、『自分たちはAIに取り組んでます』というアピールに留まっている」と同氏は言い、コカ・コーラのような大手マーケターが自分たちのブランドのためのアートや画像を一般人から求めるのは、「自社のアセットに限った範囲で遊ぶのが、AI活用に関しては最も安全な方法であるため」だと述べている。
そのほか、「マーケティングでのジェネレーティブAIの可能性は、(現状では)まだ表面をかすめているに過ぎないだろう」と、ガット・マイアミ(Gut Miami)の最高データインテリジェンス責任者であるクリスチャン・ピエール氏は言う。「2024年には主要な業界のアワードショーでのクリエイティブデータ部門のアイデアのほとんどが、ジェネレーティブAIやそれに触発された何らかの形であることになっても、驚かないだろう」。
Kristina Monllos(翻訳:塚本 紺、編集:島田涼平)