東スポ社員 1週間限定採用を自虐 – BLOGOS しらべる部

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競馬場やプロレス会場の必需品ともいえるスポーツ紙「東京スポーツ」(通称・東スポ)が今月24日、新入社員の募集を告知した。一般的な企業では短くても1ヶ月以上の募集期間を設けるのが通例だが、東スポの締め切りはまさかの今月30日。わずか1週間で志望動機や自己PRを盛り込んだ書類の準備から提出といった応募作業を完了せねばならない。

あまりにも無茶な採用計画で、社内でもアナウンスされていなかったというが、そこは海千山千の東スポ社員。文春オンラインに経営危機を報じられたことを引き合いに、「東スポに就職して本当に大丈夫なのか」などと東スポ記者が採用担当幹部を問い詰めた記事がインターネット上に登場。なんでもありで自由な東スポの魅力を自虐的に伝えている。

東京スポーツ新聞社公式ホームページから

募集開始から1週間で締め切り

時代を感じさせる古めかしい東スポの公式ホームページに、「2022年度 新卒及び中途社員募集のお知らせ」との文言が掲載されたのは今月24日。紙面上でも同じ日に社員募集を告知した。

ホームページでは、退職金制度や産前産後・育児・介護休暇制度など充実した福利厚生制度を紹介するほか、「東スポの使命は、読者の想像を上回る意外性や驚きを生み出すこと」との文言で業務をPR。“面白い”を追求する東スポの姿勢がわかり、採用情報としてはいたってノーマルだ。

提出書類も成績証明書、卒業証明書(卒業見込み証明書)、会社指定の履歴書の3点で、PDFにしてメールで送ることで応募は完了する。ここまでは何の変哲もない。

ところが、特に目立たないフォントで記された提出期限を見ると驚かされる。今月30日で1週間を切っているのだ。

採用担当者をインタビュー 自虐的内容もOK

「採用計画自体も知らなかった。ほぼ全社員がそうだろう」。デジタル・事業室の森中航記者は、24日に出社して紙面を見て社員募集を知ったという。明らかに計画性がない採用計画。「何でこんなに急なのか」。シンプルな疑問が募り、森中記者は採用の経緯を取材することにした。

動きは早い。その日のうちに、採用担当の初田秋彦管理局長をインタビューした。社内の人を取材対象にすることは東スポでも異例だ。「うちを受けようとしても経営を不安視する人もいるはず。綺麗事ではなくありのままを書こう」。そんな思いで臨んだ。

土日に記事をまとめあげ、週が明けた27日、会社に原稿を見せた。かなり自虐的な内容だけに「もしかすると怒られるかも」と覚悟した。ところが、役員、人事担当者からゴーサインが出た。

入社に反対する親も… 東スポの実情を明け透けに

文書投稿のプラットフォームサービス・note上に、「東京スポーツ新聞社〝超ゲリラ採用〟のおしらせ」との文章を公開したのはその日の夕方。公式Twitterアカウントでも文書を宣伝した。「東京スポーツ新聞社 新卒・中途社員募集 マジで短い6日間! どうしてこうなった」と題して、採用計画がどうだったのかを問う一方、会社の魅力が伝わってくる。

自らが所属する会社でありながら、東スポのウィークポイントを容赦無く指摘する森中記者の質問に対し、初田管理局長は親に入社を反対されるケースがあったことやデジタル化が遅れていることなど東スポの実態について赤裸々に吐露する。東スポらしく2人とも一切格好をつける様子がない。

東スポをめぐっては、今年4月20日、文春オンラインが「東スポが社員100人リストラ “入社2年目で年収1200万円”高給で知られた会社が危機の理由」との記事を公開。かつては入社2年目の年収が1200万円だったものが今や半減したとする匿名の社員の証言を紹介しつつ、社員100人をリストラしたことなど、経営難を伝えた。

この記事は東スポにとって大きな打撃となったようだ。インタビューでは初田管理局長の口から「アレ」との表現で計3回も登場する。森中記者は「文春オンラインのPVに貢献するのは悔しい」と、あえてぼかしたそうだ。


正直に語る採用担当者 “自虐”満載のインタビューに

文春オンラインの記事に対する説明を求められると、初田管理局長は経営の健全化に向けた3ヵ年計画のスタートが上々である一方、デジタル化が遅れている現状を正直に認め「新生東スポに(デジタル化に対応できる)若い人たちの力が不可欠です」と呼びかけている。

インタビューは全てを明け透けに語ろうとする初田管理局長の姿が印象的だ。

文春オンラインの記事が公開された後の社内の雰囲気については「やはりアレがありましたので今現在、社員みんながのびのびと働いてますとは言い切れません」と回答。さらには、東スポのあり方について、「これまでは親父メディアでいいやと開き直っていた部分がありました(苦笑い)」と重ねて開き直っている。

一方、“新生東スポ”との表現を使いながら、若い人の入社が必要なことを力説し、「面白いことを考えてやってみよう、上にもやらせてみようという空気があります」と社風を紹介し、紙の新聞に固執しない“進化型メディア”を目指す考えを示している。

女性の意見を取り入れたい 採用への強い思い

東スポは、男性向けの記事が多いことでも知られる。森中記者から女性社員が少ないことを問われると、「もっと女性の意見を取り入れていきたい」と応募を呼びかけた。

インタビューの末尾では、森中記者が「今後はもう少し計画的に採用活動しませんか」とまさかのクレーム。初田管理局長は「アレ」を引き合いに、「今年は仕方がなかったとご理解ください」と釈明している。

「普段、いろんな人に厳しく取材しているのに、身内に甘いのはNG」と森中記者は振り返る。記事は馬鹿馬鹿しくも自由な社風が伝わるように仕上がった。「読んでもらうために面白く書く。それだけのことです」

29日販売の東京スポーツ

日付以外は全部誤報? 東スポとは

東スポは現在、北海道を除く46都府県で販売され、地域ごとに「大阪スポーツ」「中京スポーツ」「九州スポーツ」の名で展開している。

プロレスや競馬、プロ野球に関する記事に手厚いことで知られ、毎年12月にはその年に活躍したプロレスラーを表彰するプロレス大賞を実施している。1991年にはビートたけし氏が客員編集長に就任した。

「阪神次期監督上岡龍太郎」「マドンナ痔だった?」「大仁田爆死」など娯楽性を重視した記事が増加する中で、「日付以外は全部誤報」と評されるなど、笑いを優先した記事やホッとする話題を提供し独特の存在感を確立した。

「飛ばしの東スポ」と評価が定着している一方、事実に基づくスクープ記事を放つことも稀にある。2008年5月12日には、サザンオールスターズの無期限活動休止を報道。1週間後の19日に、サザンの所属事務所は同年限りでの活動休止を発表(その後活動を再開)した。

今月28日発売の東スポ1面は、「帰国 小室圭さんのちょんまげ切る」などと銘打って、“男・山根”の愛称で知られる日本ボクシング連盟前会長の山根明氏が登場している。

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