ピスタチオや紙。ニッチな フレグランス が人気急上昇中【ビューティ&ウェルネスブリーフィング】

DIGIDAY

D.S.&ダーガ(D.S. & Durga)の共同創業者であるデイヴィッド・セス・モルツ氏が2021年2月に限定版のピスタチオフレグランスを発売したとき、彼にはフレグランス業界をディスラプトする目的はなかった。100mlで小売価格280ドル(約3.7万円)のこの製品は大ヒットした。

口コミで完売したピスタチオフレグランス

D.S.&ダーガの限定版ドロップコレクションであるスタジオ・ジューシズ(Studio Juices)の9番目の香りとして、ピスタチオは100本作られた。同社の2店舗(ウィリアムズバーグとソーホーに1軒ずつ)ではそれぞれ5本が取り扱われ、残りの90本はオンライン販売となった。D.S.&ダーガのインスタグラムと口コミで発売を知った人々は製品を手に入れるための尽力をソーシャルメディアで記録し、結局製品は2時間で完売した。

モルツ氏はピスタチオフレグランスに対する熱狂の理由をまだ探っているという。彼の言葉を借りれば、D.S.&ダーガは「クールで、楽しくて、風変わりで、ファンシーな」ものを作っているという。

「おそらくこれはこの時代にアピールしているのでは」とモルツ氏。「パンデミックから抜け出したばかりで、皆楽しみたいと思っている。当社はブランドとしてそれほど自社をシリアスには考えていない。ユーモアにあふれている。なので、(ピスタチオ人気は)おそらく(人々が)ユーモアのある方向に向かっているからなのかもしれない」。

以来、D.S.&ダーガは1月にピスタチオを定番に加えた。現在、ニーマン・マーカス(Neiman Marcus)やバーグドルフ・グッドマン(Bergdorf Goodman)、リバティロンドン(Liberty of London)、オーストラリアのメッカ(Mecca)などの小売業者がオンラインで販売している。ほかのフレグランスブランドもピスタチオ人気に便乗し、カヤリ(Kayali)が3月21日にヤム・ピスタチオ・ジェラート(Yum Pistachio Gelato)を、エルメス(Hermès)が3月1日にアン・ジャルダン・ア・シテール(Un Jardin à Cythère)をローンチ。エルメスの香水はピスタチオの香調が特徴である。

ニッチな香りの人気上昇

D.S.&ダーガの斬新なフレグランスの人気は、風変わりなフレグランスのニッチなトレンドの高まりを反映するものだ。ピスタチオや図書館、紙、そのほかの型破りなものがインスピレーションになっている。パスタの茹で汁や膣にインスパイアされた香りで風変わりな進化を遂げたキャンドルのいとこ版といえるフレグランスは、非凡な香りに取り組むようになっている。また、PerfumeTokなどのソーシャルメディアによってさらに後押しされており、個性とユニークな製品に対する消費者の意欲はますます高まっている。

NPDグループ(NPD Group)の2022年第4四半期のデータによると、米国のプレステージビューティ業界の売上高は前年比で15%増加し、2022年には271億ドル(約3.5兆円)に達した。フレグランスは11%増加している。インター・パヒュームズ(Inter Parfums)は直近の第4四半期の収益が好調であると報告している。一方、エスティ ローダー カンパニーズ(Estée Lauder Companies)はトムフォードビューティ(Tom Ford Beauty)とその大規模なフレグランス事業の所有権を確保している。(食品の香りの)グルマンフレグランスはフレグランス界に常に存在しているが、バニラやデザートを連想させる香りはZ世代に特に人気が高い

ディプティックの紙の匂いのフレグランス

その一環として、ディプティック(Diptyque)は3月16日にロー パピエ(L’eau Papier)をローンチした。紙に描かれたインクをインスピレーションにしたこの香りには蒸したコメのような香調が含まれている。ロー パピエは、当初はアーティストとしてインクと紙を使っていたディプティックの創業者らに敬意を表して作られた。

ディプティックのマーケティングディレクター、エドゥアルド・バラデス氏は次のように述べている。「当社のフレグランスは大量のマーケティングが必要なマスフレグランスではなかったため、常にニッチなカテゴリーにフィットしていた。当社は、ストーリーを語るという発想、特に創業者たちのストーリーに忠実であり続けている」。

ディプティックは紙の香りのフレグランスを販売しているものの、それに関するマーケティングはあまり紙には関連していない。オンラインマーケティング資料とブティックの店頭デコレーションは、ディプティックの原点の芸術性とフレグランスをまとう人が自分の物語を語る可能性にフォーカスしている。

「この(フレグランス)は原材料そのものが重要というよりは、紙、つまりブランドの誕生をフレグランスでどのように表現するかということが課題だった」とバラデス氏は語っている。

ニッチな香りやブランドの成長

ニッチな独立系フレグランスメゾンは数年前から注目を集めつつあり、着実に売上を伸ばしている。ときには、もっと商業的な従来のファッションブランドのフレグランスを圧倒することもある。マーケットリサーチカンファレンスのオッセルバトリオ・フラグランツェ(Osservatorio Fragranze)によると、独立系ブランドは2017年の業界売上の47%を占めたという。さらに、2018年の(香水の国際展示会である)ピッティ・フラグランツェ(Pitti Fragranze)会議に出展した独立系ブランドの43%は5%を超える年間収益成長を見込んでいた。

しかし、クリード(Creed)やパルファム・ドゥ・マルリー(Parfum de Marly)といった独立系フレグランスメゾンでさえ、インスピレーションや原料としてピスタチオや紙を取り上げるほど遊び心にあふれたものではなかった。クリードとパルファム・ドゥ・マルリーの香りはフローラルやムスク、シトラスなど伝統的な香りのハーモニーを想起させることが多い。

社歴17年のバイレード(Byredo)は、2017年に、同社のベストセラーである図書館にインスピレーションを得たビブリオテック(Bibliothèque)キャンドルを基に、限定版ビブリオテック香水を作成した。この香水もヒットし、2018年3月には定番入りしている。バイレードは、2022年、プーチ(Puig)に買収された。買収額は10億7000万ドル(約1400億円)と噂されている

D.S.&ダーガはピスタチオのヒットに続いて、3月1日に最新のスチームドレインボー(Steamed Rainbow)をローンチしており、さらに斬新で珍しいフレグランスが主流になる可能性が高まっている。スチームドレインボーはその名のとおり、グリーンシダー、オレンジ、インディゴグラスなどの香りを含んでいる。

「(甘い香りのフレグランスは)これまで作ったことがなかったので、(ピスタチオぐらいなら)作ってもいいかと思った」とモルツ氏。「だが、いまはもう覚悟を決めた。求められるものを提供するために、昨年末以降、とんでもなく甘いフレグランスを作っている」。

[原文:Beauty & Wellness Briefing: What’s behind the burgeoning popularity of quirky fragrances

EMMA SANDLER(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)

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