模倣し合う ソーシャルメディア プラットフォーム:「一部は広告に注力し、ユーザーを置き去りにしている」

DIGIDAY

模倣は最大の賛辞。ソーシャルメディアほどこの言葉が当てはまる場所もないだろう。

新しい機能がユーザーの人気を集めるたびに、競合するプラットフォームはユーザーの流出を食い止めようと、こぞって似たような機能を実装しようとする。しかし、こうした後追い組はことごとくソーシャルメディアの歴史のゴミ箱にうち捨てられてきた。フレンドスター(Friendster)しかり、マイスペース(MySpace)しかり、Google+(グーグルプラス)しかり。

めまぐるしく変化する流行

たとえば、2013年にVine(ヴァイン)という短編動画アプリがソーシャルメディアの世界を席巻した。しかし4年後、Vineの姿はどこにもなかった。ただ、その簡潔な動画スタイルはやがて復活し、ソーシャル分析会社のブランドウォッチ(Brandwatch)で戦略担当シニアバイスプレジデントを務めるジェイムズ・クリーチ氏の言うところ、ソーシャルの世界で「もっとも熱い戦場のひとつ」へと発展した。この戦場でしのぎを削るのが、Snapchatの「ストーリーズ」であり、インスタグラムの「ストーリーズ」であり、あるいはインスタグラムの「リールズ」やFacebookの「リールズ」、そして「YouTubeショート」らだ。

さらに、新興アプリのBeReal(ビーリアル)がインカメラとアウトカメラを使った新機能で話題を集めるや、「TikTok Now」やメタの「ロールコール」などがいち早く後に続いた。一時の盛り上がりは下火になりつつあるが、ユーザーと広告主を奪いかねない潜在的な脅威であることに変わりはなく、この機能を模倣するプラットフォームはいまも後を絶たない。

こうして、ソーシャルメディアのかつての流行は、やがて新たな流行として復活するのである。

TikTokの存在が火蓋を切った

この現象のルーツをたどれば、そこには古き良き時代の競争がある。少々パラノイア的な要素も働いているかもしれない。

広告エージェンシーのR/GA(アールジーエー)でメディアおよびコネクション担当のバイスプレジデント兼執行役員を務めるリチャード・オールドフィールド氏は、こう説明する。「多くのアプリが資金源たるユーザーの時間と注目を渇望するなか、どこかのプラットフォームが抜け駆けして人気を集めたらどうすればよいか。そんな不安に後押しされて、どのプラットフォームも即座に反応し、ユーザーの関心に訴える要素から自分たちも恩恵に預かろうと試みる」。

アップトピア(Apptopia)によると、TikTokは2020年の「もっともダウンロードされたアプリ」ランキングでトップに君臨したが、このときのダウンロード数は8900万DLだった。インスタグラム(6200万DL)やFacebook(5300万DL)は間違いなく警戒の目を向けただろう。

調査会社のガートナー(Gartner)でディレクターアナリストの肩書きを持つクローディア・ラターマン氏はこう話す。「ほかのプラットフォームがTikTokの存在に気づき、オーディエンスの注目を獲得または維持するために、自分たちのサービスを調整しはじめたのはまさにこの時期だ」。

かくして熱い戦いの火蓋が切られた。そして、たとえ模倣された機能がオリジナルほど優秀ではないにしても、既存ユーザーの引き留めや新規ユーザーの獲得には有益であり、さらにユーザーがほかのアプリや機能に手を伸ばす可能性を下げることもできる。ユーザーの流出を食い止めることさえできれば、彼らに広告を表示する機会はむしろ広がる。

模倣し合うソーシャルメディアプラットフォーム

しかし、巨体であるほど、成長しながら進化するのは難しい。結局、Facebookは「すばやく動き、破壊せよ」という悪名高い社内スローガンを2014年に放棄した。

「おそらく、彼らのようなプラットフォームはあまりにも大きくなりすぎて、イノベーションに多くの時間を割くことができない」と、R/GAのオールドフィールド氏は話す。「消費者の嗜好は急速に変化しているのに、自分たちの製品について深く再考したり調整したりする余裕がなく、10年前あるいは15年前と変わらぬやり方を続けている」。

そして同氏はこう続けた。「しかも、先を見通す余裕もないため、競合が現れれば『ただちに力づくで押しのける』しかない。リールズがよい例だ」。

TikTokのループ動画にせよ、BeRealのデュアルカメラ機能にせよ、大手プラットフォームで模倣された機能は、既存ユーザーの粘着性(スティッキネス)向上に貢献している。それはすなわち、彼らへの広告配信を通じて、収入を生み出す機会が増えているということでもある。

その反面、いずれすべてのソーシャルメディアプラットフォームが何かしらの短編動画機能を提供するようになれば、どれも同じように見えてしまう危険は免れない。しかし、アプリがユーザーにとって重要な存在でありつづける方法がいくつかある。

重要なのは存在意義と位置づけ

第一に、消費者が自社のプラットフォームに惹かれるそもそもの理由に焦点を当て、そこを出発点としてイノベーションを模索すべきだ。ほかのプラットフォームの様子をうかがいながら、まったく新しい方向に舵を切るのは上策ではない。

デジタルエージェンシーのブランドアーキスト(Brandarchist)で最高戦略責任者を務めるゲイリー・J・ニックス氏は、ユーザーにとってもっとも重要な部分を大きく変えることは危険だと警告し、自分たちの存在意義とエコシステム全体における位置づけを知ることが重要だと述べている。

「既存ユーザーの期待は無視できない」とニックス氏は話す。「それを怠り、ライバルに追随しようとすれば、既存のユーザーにそっぽを向かれる。『別のプラットフォームの真似ごとをして、私が好んでいたものをなくすというなら、私がこのプラットフォームに来る理由はどこにあるのか?』と」。

オールドフィールド氏は、TikTok風の動画をテスト中と報じられたSpotifyを例に挙げてこう述べる。「確かに、音楽と映像には大きな機会がある。しかし、TikTokが示すように、自分たちのコアバリューを超えて進化しようとすると、さらなる困難にぶつかるだけだ」。

収入をもらたすのは誰で、広告主を呼ぶのは誰なのか

模倣、あるいはクリーチ氏がいうところの「機能過多」も、ユーザーエクスペリエンスを劣化させる危険を伴う。ユーザーがアルゴリズムの気まぐれに翻弄されるばかりで、見たいコンテンツを見られないおそれが出てくるからだ。同氏はインスタグラムに言及し、「リールズ」タブを目立たせ、「ショップ」タブを格下げしたナビゲーションバーの更新はその一例だと指摘した。

同氏によると、「メタはいまもこれらの機能をテスト中で、事業の優先課題として取り組んでいる」という。「一方で、ユーザーの要望にも対応しており、そのあたりのバランスをうまく図ることができれば、ユーザーエクスペリエンスの向上につながるだろう」と話すが、「インスタグラムがリールズを強く押すことについては苦情も耳にしている」ともいう。

また、「完全なソーシャルプラットフォームをめざして競合アプリの機能を常に模倣しつづけることに対して、世間からの強い反発があるのも確かだ」といい、「多くの人々は『インスタグラムは写真投稿、TikTokは動画投稿、Facebookはニュースコンテンツの場でよい』というが、それはできるだけ多くのオーディエンスと広告主を集めるというインスタグラムの事業上の利害とは必ずしも一致しない」と続けた。

結局のところ、プラットフォームに収入をもたらすのは広告主であり、広告主を引き寄せるのはユーザーとユーザーデータだ。だからこそ、プラットフォームは誰にとってもすべてでありたいと切望する。

現在のSNSはユーザー視点か?

ユーザーの反発を回避する一助として、ソーシャルリスニングツールを導入すれば、ユーザー行動をよりよく理解することができる。たとえば、TikTokで人気を集める検索機能があったとする。ほかのアプリが機能強化を検討する際、ユーザーに対する理解があれば、機能強化の是非だけでなく、その方法についても正しく判断できるだろう。

「外部環境の変化に応じて、ユーザーの行動も微妙に変化するため、それに合わせて彼らが求めるものを提供する必要がある」と、ガートナーのラターマン氏は話す。「ユーザーは何が欲しいのか我々に教えてくれている。彼らの声に耳を傾け、彼らにとって有用なプラットフォームに転換できれば、ブランド本位ではなく、ユーザー本位のプラットフォームといえるだろう」。

同様に、ブランドアーキストのニックス氏は、競争に勝つことよりもユーザーにとって重要な存在であることをめざすべきだと説いている。また、「新しい機能を見つけて、既存の機能の強化に使えると感じたら、それらを融合する道を模索すべきだ」といい、「新しい機能を追加してエクスペリエンスを改善できるなら、それは単に利益追求のためではなく、ユーザー本位の取り組みといえるからだ」と話す。

ラターマン氏も同意するところだが、一部のプラットフォームは「一にも二にも広告に注力し、ユーザーを置き去り」にした結果、苦戦を強いられている。「他社ではうまくいっているように見える新しい広告モデルを拙速に導入しようとすれば、そこには危険が伴う」とオールドフィールド氏は警告する。「広告を増やす一方で、ブランドセーフティへの配慮が薄くなれば、そうした環境と、ひいてはその環境で作られるコンテンツにも疑問符がつきかねない」。

[原文:When social media platforms start to look alike, the key differentiator is in their roots

Lisa Lacy(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)

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