メディアバイヤーがパブリッシャーの ベリフィケーション に納得しない理由

DIGIDAY

ニュースパブリッシャーは、インテグラル・アド・サイエンス(Integral Ad Science)やダブルベリファイ(DoubleVerify)のようなベリフィケーション企業のプログラマティック広告ビジネスにおける発言力に対してますます苛立ちを募らせている。しかしながら、そのインベントリを購入する広告主やエージェンシーにしてみれば、こうした企業は完璧とはいえなくても、必要な役割を担っている。

匿名を条件に話してくれたメディアバイヤーによると、「市場に新しいテクノロジーが登場するときには必ず、そのテクノロジーを始める巨獣が存在する。その後、参入するものが現れて、そのテクノロジーは完璧になる。今は成長痛のようなものだ」という。メディアバイヤーにしてみれば「振り子を振りきった」状態で、テクノロジー誕生から、ブランドにとって安全で適切な環境を見つけ出せるよう広告主のサポートに努めてきた。今はパブリッシャー側が痛手を受けていると話す。

英国のガーディアン(The Guardian)やインディペンデント(The Independent)をはじめとするパブリッシャーは、サードパーティのベリフィケーション企業がデータをスクレイピングすると、ページに負荷がかかり、広告のロード時間が長くなると訴えている。ガーディアン北米広告担当シニアバイスプレジデントのルイス・ロメロ氏は、コンテンツが「ブランドにとって安全ではない」と(パブリッシャーにしてみれば)不当なフラグを立てられようものなら、収益が30%近く減少すると話す。

主なポイント

  • ニュースパブリッシャーは、ベリフィケーション企業の介入で、プログラマティック広告の収益に影響がおよぶ状況に閉口している。
  • メディアバイヤーは「第三者のベリフィケーションに関する状況は、まだ完璧とはいえない」と認識しているものの、特にオープンマーケットプレイスの場合、ベリフィケーション第三者機関のお墨付きがないブログラマティックバイイングは妥当ではない。
  • バイヤーは、たとえプライベートマーケットプレイスやプログラマティックが保証された取引であっても、コンテンツのブランドの安全性に関するパブリッシャーの話を鵜呑みにはしない。

ベリフィケーション企業の存在は極めて重要

本記事の取材で、メディアバイヤー5名に「ベリフィケーション企業の役割はオープンプログラマティックマーケットプレイスで極めて重要であると考えているか」と尋ねたところ、全員が「極めて重要である」と肯定した。一方、「ベリフィケーション企業のインプットを一部回避するパブリッシャーの取組みとして、プライベートマーケットプレイス(PMP)とプログラマティックギャランティード(PG)の取引数が増加しているのか」(つまり、ベリフィケーション企業がきっかけで生じた問題を回避するための営業強化)という質問には、回答に微妙な違いが見られた。

「ブランドのプログラマティックメディアバイイングが増加するにつれて、ベリフィケーションの役割がその重要性を増すのは間違いないし、データがどのように抽出されているのか精査する重要性も増していく」と話すのは広告代理店MMIのメディア担当ディレクター、マイク・タシク氏だ。

また別の質問で、「パブリッシャーのインハウスブランドの安全性が高く、ベリフィケーションも実施されるとなれば、予算がオープンマーケットプレイスからPGやPMPに流れるだろうか」と問うと、同氏は「流れるだろう」と回答、「ただし、ベリフィケーションツールには汎用性の高いものと専用のものがあり、それをうまく活用できれば、の話だ」と説明した。

実際のところ、ベリフィケーション企業のデータと、パブリッシャーのコンテンツにおけるブランドの安全性や適合性、広告詐欺、ビューアビリティのベリフィケーション企業の評価は、オープンプログラマティックマーケットで展開するメディアバイヤーの間では、共通のカレンシーとして扱われている。それは、パブリッシャーとのプログマティックの直接取引でも変わらない。

別のバイヤーA氏は匿名を条件に、「我々は今、ベリフィケーション企業の計測をカレンシーとして信頼し、パブリッシャーに支払う金額を出す基準としてベリフィケーションデータを使用し始めている」と実情を話してくれた。

パブリッシャーのソリューションは響かず

パブリッシャー各社は、全権を自らの手に取り戻すべく取り組んできた。しかし、一方のバイヤーは納得していないようだ。

さらに別のメディアバイヤーB氏も匿名を条件に「2~3年前、CNNやフォックス・ニュース(Fox News)のようなパブリッシャーが、ブランドの安全性や適合性に関して独自のソリューションを社内で構築したと話を持ちかけてきた。それなりのリソースがあるから実現できたことだと話していた」と明かしてくれた。

しかしながら、こうしたソリューションはバイヤーの心をつかむほどではなかった。メディアバイヤーによると、パブリッシャーが自社と広告主、双方のためになると考えたソリューションだったが、こうしたウォールドガーデンのような排他的アプローチは計測が不可能であるがために、持続可能ではないという。

「パブリッシャーが独自のツールを構築すれば、ブランドは複数のカレンシーを利用しなければならない状況に陥る。その結果、複数のカレンシーを駆使しながら煩雑な作業で精査しなければならず、とてもブランドの手に負えなくなる」。そう話すのは前述のA氏だ。現在はIASやダブルベリファイのような企業からブランドの安全性や適合性のカレンシーが提供されており、「バイヤーとしては、特にデジタルの世界では、そうした既存のカレンシーを手放そうとは思わない」と説明する。

一方、ベリフィケーションで、パブリッシャーが汎用性の高いモデルを使うのではなく、各社とも独自のパラメータを使用可能だとすると、実に厄介だとMMIのタシク氏は話す。その場合、基準がパブリッシャーによって異なるうえに、データの質の違いが最終的にどのような影響をもたらすのかわからず、エージェンシーへの負担が大きくなることが想定されるからだ。

「設定したら後はお任せ」はできない

メディアバイヤーのなかには、ニュースは「特別な注意が必要」なカテゴリーなので、特定のパブリッシャーと強い関係性が構築されていれば、パブリッシャー独自のベリフィケーションデータに基づくPMPやPGの取引のほうがより魅力的に映るメディアバイヤーもいる。

UMワールドワイド(UM Worldwide)のシニアバイスプレジデントで、グループパートナーとデジタル投資およびイノベーションに携わるモリー・シュルツ氏は、「ニュースの世界では、ニュースパブリッシャーの信頼性と透明性が通常よりも強く問われる。私たちは、どうすればいいのかわかっているので、これからも独自でブランドの安全性と適合性の評価設定を調整していけるだろう」と話す。「チームに実力があり、リソースも潤沢なメディアバイヤーの場合、パブリッシャーが積極的に取り組もうとしているなら、ブランドの安全性を示す出来合いの評価から脱却して、そうしたパブリッシャーと直接パートナーシップを結ぶとうまくいく可能性は十分あると思う」。

全般的に見て、オープンマーケットプレイスよりもPMPやPGの取引を優先させる動きが徐々に見られるようになったとシュルツ氏は話す。これは、PMPやPGのほうが、顧客の広告をどこに載せるのかという問題に関して、バイヤーの権限が増し、精神的にも安定するからだという。

メディア・トゥー・インタラクティブ(Media Two Interactive)でメディア・戦略担当バイスプレジデントと務めるメリッサ・イラルディ氏はこう話す。「パブリッシャーが取引のテーブルにつき、独自の安全性の評価を使おうとしているのなら、間違いなく検討に値する。とはいえ、プログラマティックバイイングなら、さらに第三者のベリフィケーション企業の評価も追加することも可能だ。結局のところ、テスト次第だが」。

要するに、メディアバイヤーはベリフィケーション企業1社だけのデータ、あるいは、パブリッシャー1社だけのデータに頼ってはいけないということだ。「バイヤーの仕事は、設定したらあとはお任せ、というわけにはいかない。たえず裏で入念に調べて、顧客の予算がどこに使われているのか、しっかりと把握していなければならない」とイラルディ氏は明かした。

[原文:Media Briefing: Why media buyers keep pressing publishers for third-party verification

Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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