Q&A :「 メタバース 」とは何か?:現代のインターネットの「後継版」

DIGIDAY

インターネットの後継版のルーツは、ゲーム業界にあるのかもしれません。

「メタバース(Metaverse)」という用語はSF作家のニール・スティーヴンスン氏が1992年に小説『スノウ・クラッシュ(Snow Crash)』で創作したものです。『スノウ・クラッシュ』のなかのメタバースは、AR(拡張現実)技術を装備したユーザーが一人称で体験する人気の巨大仮想世界です。

過去1年、ゲーム業界やハイテク業界の幹部やクリエイターたちは、メタバースの概念に新たな息吹を吹き込み、「フォートナイト(Fortnite)」、「ロブロックス(Roblox)」、「マインクラフト(Minecraft)」などの多人数同時参加型ゲームは、スティーヴンスン氏が描いた架空のメタバースと、新型コロナウイルス感染症のパンデミックのさなかにデジタル化が進んだ現実世界を組み合わせた、広大なデジタル世界の先駆けとなっています。

マーク・ザッカーバーグは、2021年7月22日付けの「ヴァージ(The Verge)」のインタビューのなかで、Facebookが今後5年以内にソーシャルメディア企業から「メタバース企業」へ移行すると述べ、注目を集めました。

メタバース志向のベンチャーキャピタルファンド、ビットクラフト・ベンチャーズ(BITKRAFT Ventures)のパートナー、モリッツ・ベア=レンツ氏は、「いまあるものはまだメタバースではないと言っていい」と述べています。「しかし、メタバースについての説明を求めると、ほとんどが映画『レディ・プレイヤー1(Ready Player One)』のようなものに集約されるだろう。それは、前例のない規模と双方向性、相互運用性を備えた、物理的世界とデジタル世界のあいだの持続的な架け橋なのだ」。

メタバースにはさまざまな解釈がありますが、今回は、メタバースとは純粋に何なのか、なぜロブロックスからアンハイザー・ブッシュ・インベブ(Anheuser-Busch InBev:以下、ABインベブ)まで、誰もが興奮するのかについて、説明しましょう。

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──まずは、メタバースとは、ひと言でなんですか?

メタバースは、現代のインターネットの「後継版」であり、コンテンツの内容は同じですが、そのコンテンツにアクセスできる場所や方法の制限はより少なくなります。現在のオンラインプラットフォームでは、ユーザーは特定のサービスの範囲内である程度自由に移動することができますが、プラットフォーム間の相互運用性は制限されています。つまり、「マインクラフト」では何でも作れますが、作ったものを「フォートナイト」のマップに移すことはできません。メタバースでは、ユーザーは自分でコンテンツを作成し、広くアクセス可能なデジタル世界で自由に配信できるのです。

現代のインターネットとは異なり、メタバースのユーザーは、すべてのユーザーによる変更をリアルタイムに経験することになります。ユーザーがメタバースに何らかの変更を加えた場合、その変更は永続的なものとなり、ほかのすべてのユーザーがすぐに見ることができます。メタバースの永続性と相互運用性は、現代のインターネットとの比較において、ユーザーのアイデンティティと経験の継続性を高めます。メタバースではユーザーは、Twitterのプロフィール、「フォートナイト」のキャラクター、Reddit(レディット)のアカウントをそれぞれ別々に持つ必要はありません。このアイデンティティの連続性は、ユーザーがメタバースでコンテンツを購入したり消費したりする際の中核的な要素となります。

ロブロックスのブランド・パートナーシップ担当バイスプレジデント、クリスティナ・ウートン氏は次のように話しています。「この分野で先進的なブランドは、人々がオンラインで多くの時間を過ごす理由として、自己表現が非常に重要な要素であるという事実を理解している。彼らは、そこで『なりたい自分』になれるのだ」。

──ビデオゲームがメタバースの先駆けと見られている理由はなぜですか?

ビットクラフトは、ゲーム開発者やメタバースに焦点を絞った技術に投資するベンチャーキャピタルファンドで、メタバースについて、新型コロナウイルス感染症のパンデミック時に加速した物理世界とデジタル世界の融合による、成長する「合成現実」の産物であると説明しています。しかし、ゲーマーたちはすでに、主にウェブ上で社会的交流やコンテンツ制作を行っていました。「ゲーム、eスポーツ、インタラクティブメディアへの投資で私たちが興味を掻き立てられるのは、ゲームが本質的にこうした幅広いトレンドの先鋒になっているからだ」とベア=レンツ氏は述べています。「もともとゲームのユースケースのために開発された革新的技術が、メディアのエコシステムだけでなく、テクノロジー全体で広範囲におよぶイノベーションを引き起こした例は数多くある」。ベア=レンツ氏は、ゲームの3D演算用に開発されたグラフィックカードが、その後、人工知能などの技術を支えるようになった例を指摘しました。

「フォートナイト」や「ロブロックス」のようなビデオゲームは、メタバース内に広がる一種の文化的相互運用性を示しています。たとえば、ひとつのゲームで、バスケットボールプレイヤーのレブロン・ジェームズの格好をしたプレイヤーは、デッドプールやジョーカーのようなアメコミのキャラクターに扮した相手と戦うことができます。さらに、これらのゲームのマルチプレイヤー体験は、メタバースが提供する体験のリアルタイムな連続性を示唆しています。2020年に開催された「フォートナイト」でのトラヴィス・スコットのコンサートでは、1200万人以上のプレイヤーが世界中でリアルタイムに参加できましたが、どの「ルーム」でもほかのユーザーとの交流は49人までに限られていました。この成功したイベントは、「フォートナイト」の流行に火をつけ、ひいては「メタバース」の流行にもつながりました。今年6月、マーケターはこのコンセプトをさらに推し進め、英国のバンド「イージー・ライフ(Easy Life)」のコンサートに先駆け、ロンドンにあるO2アリーナをフォートナイト内に再現しました

──真のメタバース誕生まではあとどのくらいかかりますか?

真のメタバースに至る道のりには、まだかなり多くのハードルがあります。現時点では、世界のネットワークとコンピュータの能力では、何百万人ものユーザーが同時にリアルタイムで体験できる永続的なデジタルワールドをサポートすることはできません。仮にこのレベルのネットワークとコンピューティング能力があったとしても、このような試みのエネルギー消費は、国の電力網と環境の両方で問題が起きるでしょう。

技術が充分に整ったとして、真のメタバースの発展に拍車をかけるためには広範囲に渡る文化的な変化が必要になります。消費者はすでに比較的高品質なVR(仮想現実)やARを利用できる状況にありますが、調査会社のスライブ・アナリティクス(Thrive Analytics)とアーティレリィ・インテリジャンス(ARtillery Intelligence)による2020年の報告書によると、VRヘッドセットを持っている米国人は20%に満たないということです。

しかし、それも変わっていくでしょう。ベア=レンツ氏は、VRとARのヘッドマウントデバイスが、早ければ2025年にゲーム機を超える可能性があると予測しています。

──技術の限界以外に、メタバースにとっての最大の課題は?

相互運用性です。いまのところ、「フォートナイト」など、いわゆるメタバースの先駆者たちは、プレイヤーが自身のユーザー生成コンテンツ(UGC)をほかのプラットフォーム上で再現することを認めていません。プラットフォーム間での真の相互運用性を認めるには、そうしたプラットフォームを所有する企業が、プレイヤーベースのコンテンツやユーザー体験に対するコントロール権を放棄しなければなりません。このプロセスはすでに始まっています。これまでクロスプラットフォームに反対してきたソニーは先頃、「プレイステーション(PlayStation)のユーザーがほかのゲーム機のプレイヤーとより頻繁に交流できるようにしました。

オールインワン型のUGCプラットフォーム、オーバーウルフ(Overwolf)でCMOを務めるシャハール・ソレク氏は、(開発者が作成したコンテンツとは対照的に)UGCは急速に現代のゲーム体験の中心要素になりつつあるので、コントロール権の放棄は避けられないと考えています。「銀行やそのほかの中央集権的なシステムとは異なり、コミュニティで共有される体験があり、その体験に対するコミュニティの反応がエンゲージメント向上の核となるのだ」とソレク氏は言います。「自分のコミュニティがコンテンツを作ることに終始しているのを見れば、ゲームメーカーは変化せざるを得ない。そうしなければ、競争相手が現れることを理解しているからだ」。

──メタバースにとってブロックチェーンテクノロジーが重要な理由はなぜですか?

ベア=レンツ氏はこう言います。「我々が描く未来は、真に分散化され、市民であるユーザーの手に委ねられたものになると期待している。そのためには、ブロックチェーンテクノロジーとWeb3.0上で作られたアプリケーションが最適であり、唯一のソリューションであると考えている」。

メタバースにおいて政府やそのほかの規制機関の監視がなくても、ブロックチェーンテクノロジーによって取引とアイデンティティの安全性と公共性は確保されます。さらに、NFT(非代替性トークン)によって、メタバースのユーザーは、現実世界と同じように、ユニークなオーダーメイドアイテムを所有でき、暗号通貨は、メタバース経済がどのように形成されるかを示すロードマップとなります。こうしたメタバース経済の創造はすでに進行しており、企業のなかには、ABインベブのように、限定ブランドのNFTを数十万ドル(数千万円)でオークションに出品し始めているところがあります。

ソレク氏によると、メタバースの通貨は、ビットコイン(Bitcoin)やイーサリアム(Ethereum)などの現代の暗号通貨と、「フォートナイト」のゲーム内通貨であるブイバックス(V-Bucks)の中間的なものになる可能性が高いといいます。「各ゲームメーカーは、ブイバックスのように購入できるトークンを提供するだろう。それぞれが独自の取引所を持ち、一方から他方にキャッシュアウトできるようになるのだ」とソレク氏は述べています。

──メタバースの誕生は避けられないのでしょうか?

おそらくそうでしょう。ただ、未来のユーザーは単にそれをインターネットとして理解するかもしれません。メタバースへの転換のスイッチは突然入るのではなく、むしろ、文化的変化や技術のアップグレードによって、インターネットユーザーがますます自由に行動できるようになり、ウェブ上でオーダーメイドのコンテンツを簡単に作成・共有できるようになることで、メタバースは徐々に実現していくでしょう。Web 1.0からWeb 2.0への移行時に公式な変化がなかったように、人々がオンラインで過ごす時間を増やし、自分のアイデンティティをデジタルライフに結びつけるようになれば、メタバースの発展は自然に起こるでしょう。

「フォートナイト」や「ロブロックス」はメタバースの先駆者と言われることが多いですが、メタバースのもっとも重要な先駆者はインターネットそのものです。しかし、インターネットが、決められた順序で各部屋を簡単に見ることができるアパートの動画ツアーだとすれば、メタバースはアパートそのものです。まだそこには住んでいないかもしれないですが、私たちはすでに賃貸契約を結んでいるのです。

[原文:WTF is the Metaverse?

ALEXANDER LEE(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:分島翔平)

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