アドテク業界の危機も、大手 SSP は生き残りに自信:「SSPの終わりの始まりではなく、差別化できないSSPの死だ」

DIGIDAY

すべてのSSPが実存的危機に陥っているわけではない。一見、そう見えるかもしれないが、なかには順調なSSPもある。

パブマティック(PubMatic)とマグナイト(Magnite)という2大SSPが最近発表した財務情報は、そのことをよく物語っている。これを見る限り、状況がさらに悪くなる材料はいくらでもある。確かに、広告市場の低迷や良質なCTV在庫の不足など、彼らは多くの問題を抱えている。しかし、どの問題も胃に穴が空くほどのものではない。

下半期には広告費増加を見込み強気な姿勢

たとえば、パブマティックの場合、2022年最終四半期の売上は前年同期比1.7%減の7430万ドル(約99億9528万円)だった。この年は前年比13%増の2億5640万ドル(約344億8746万円)を稼ぎ出していたのだが、図らずも苦い結末となった。

それにもかかわらず、パブマティックは強気の姿勢を崩さない。当該四半期の業績を見て、アドテク業界がどれほど大きな圧力にさらされようとも、自分たちの事業は安泰だと確信できたからだ。つまり、パブマティックのプラットフォームには、今後も切れ目なく広告費が流入するということだ。第4四半期は、自動車、食品、飲料業界の広告が25%増加した。一方、ショッピング、テクノロジー、パーソナルファイアンス分野の広告費は前年同期比で13%減少したが、このマイナスは先のプラスで軽減された。

今後の見通しとしては、下半期まで不安定な状況が続くと見ている。下半期には、広告費の増加で財務状況が好転し、コスト削減と技術の最適化によって収益性の改善も見込めるとしている。

さらに、YahooやEMXら、複数の競合SSPが撤退を表明したことで、思いがけないアドバンテージも期待できそうだ。競合するSSPが閉鎖となれば、これらのルートで流れていた広告費はほかのSSPに分散される。おそらく、マグナイトやパブマティックも競合SSPの退場から恩恵を受けることになるだろう。とはいえ、それを実感するのは少し先のことになりそうだ。なお、YahooはSSP閉鎖の時期を年内としている。

パブマティックのラジーヴ・ゴール最高経営責任者(CEO)はこう話す。「サプライパスの最適化であれ、SSPの閉鎖であれ、結果的に業界の整理統合が進んでいることは明らかで、数を減らし、大手のプラットフォームが残る方向へと向かうだろう。すでに獲得している市場シェアと将来的な伸びしろに鑑みて、我々はこのプロセスの勝者であると認識している。現在の経済状況は、いま起きている業界の再編を加速させているにすぎない。本来、このような再編は、セルサイドではいつ起きてもおかしくないと多くの人々が感じていた。実際、アドテクのバイサイドではこうした整理統合がすでに進行しているのだから」。

供給を確保しつつ需要の創出にも注力

一方で、マグナイトもおおむね順調のようだ。パブマティック同様、マグナイトも同社なりの問題を抱えており、最高とは言いがたい状況だが、恐竜と同じ道をたどることはなさそうだ。それどころか、2022年の最終四半期には、前年同期比10%増、前月比では横ばいだが、1億5600万ドル(約209億8629円)の利益をあげている。

簡単にいえば、業績は順調ではあっても、絶好調ではなかったということだ。マグナイトはその原因の一端がCTVにあるとする一方、事態は遠からず改善されるだろうとも述べている。実際、CTV在庫の供給が限られるなか、同社は良質な在庫の確保を進めている。

とはいえ、せっかくの供給も需要がなければ意味をなさない。そこで、マグナイトは需要の確保にも力を入れている。同社CEOのマイケル・バレット氏がアナリストに語ったところによると、最近結んだホライゾンメディア(Horizon Media)との新規契約や、グループエム(GroupM)との既存の契約の拡大は、需要確保の取り組みの一環にほかならないという。実のところ、マグナイトのような企業は、こうしたこと(広告主の需要の集約化)に注力するほうが、非独占的に供給を集約化しようとするよりも、明らかに価値が高く合理的なのだ。

パブマティックの幹部たちも同じ考えで、マーケターのCTV在庫の調達を支援するツール開発に、より多くの資金を投入している。CTV広告の購入方法や購入先をより賢くかつ効率的に判断する支援を提供することで、こうした支援に積極的なアドテクベンダーにマーケターの広告予算が集まる流れを構築することが狙いだ。パブマティックのゴール氏はこう説明する。「パブリッシャーとバイヤーの距離を縮め、よりスムーズな取引を支援する。そのための技術革新の機会はいくらでもある」。

この種の需要は確実に存在する。いまやパブマティックのプログラマティックマーケットプレイスでおこなわれる取引の30%以上に、いわゆるSPO契約が導入されている。SPO契約とは、パブマティックが一定の広告予算を確保する代わりに、広告在庫の来歴について、広告主により多くの情報を提供するというものだ。2年前、パブマティックの取引の約20%がこのSPO契約を含むものだった。さらに、パブマティックとの取引歴が3年を超えるSPOパートナーの場合、2022年の広告費維持率は平均で124%になるという。

革新的な技術を持ったSSPだけが生き残る

「キュレーション(サプライパスを通じたデータと広告在庫の連携)を優先的に推進してきたSSPは、今日、健全かつ成長を続けるビッグビジネスとなっている」。そう話すのは、テクノロジーキュレーションプラットフォームのオーディジェント(Audigent)でプレジデントを務めるグレッグ・ウィリアムズ氏だ。「キュレーションがもたらすメリット、たとえばメディアバイヤーからの安定的な需要、パフォーマンスやプライバシー保護の向上などを考えると、まだキュレーションに注力していないSSPは、革新的なSSPに遅れを取り、今後も苦戦を強いられるだろう」。

このような展望は、SSPに対する最近の評価とは逆行する。昨今のアドテク市場では、SSPはコモディティ化した無用の長物扱いだが、この評価にある種の修正が働いているようだ。それには理由がある。YahooとEMXのSSPが相次いで閉鎖を発表した結果、SSPの価値に注目が集まった。正確には、特定のSSPの価値というべきだろう。具体的には、パブリッシャーと直接的な関係をほとんど、あるいはまったく持たないSSPだ。(少なくともトレードデスクのようなDSPにとって)SSPが重宝される理由は、複数のパブリッシャーと取引する際に緩衝材として機能するからだ。言い換えれば、SSPは単一の接続点であり、結果的に支払うべき請求書もひとつにまとまる。それは非常に有益だ。

アナリスト向けの決算説明会で、マグナイトのバレット氏はこう語った。「業界の識者のなかには、これがSSP業界の終わりの始まりかもしれないと結論づける人もいる。まったくもって同意しかねる。いま我々が目の当たりにしているのは、SSPの終わりの始まりではなく、差別化できないSSPの死だ。革新的な技術を持たないSSP、DSPの需要を循環させるだけのSSPが乱立し、市場は長らくその重圧に耐えてきた」。

エージェンシーたちに促された整理統合の結果とはいえ、この状況は変わりつつある。彼らは手数料の引き下げと透明化、さらにはレポーティングの向上を目的に、運用型広告の予算を少ない数のSSPに集約している。当然、SSPとしては、最重要顧客(パブリッシャー)とやや新しい顧客(広告主)の利益を両立させるビジネスモデルの模索に注力せざるを得ない。

こうした新しい機会は確かに刺激的だが、一方で政治的にはあまたの困難を伴う。SSPにとって広告主向けの事業の価値が高まるほど、パブリッシャーたちは不安に駆られる。我々のSSPはこちらの利益を最優先に動いてくれるだろうかと考えてしまう。こうした警戒心がやがて冷ややかなシニシズムへと変化しうることは容易に想像できる。というのも、SSPの広告主向けの事業がこのまま発展すれば、やがてSSPとエージェンシーが非公開に契約を結び、SSP選択の見返りとして、エージェンシーがキックバックを受け取るような取引に道を開くかもしれないからだ。結局のところ、SSPはごく慎重に事を運ばざるを得ない。

[原文:‘The death of the undifferentiated SSP’: Scale SSPs say they’re not going anywhere anytime soon

Seb Joseph(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)

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