価格上昇と景気後退のさなか、 クリエイティブに変化する コーヒーショップ :3社の最新事例

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コーヒーショップは、アメリカ人の裁量支出でもっとも大きいカテゴリーのひとつであり、過去数年間、ジェットコースターのような試練に直面してきた。現在、インフレが加速し、景気後退の兆しが見えつつあるなかで、カフェは営業を続けながら買い物客を引き入れるための新しい方法を見つけ出そうとしている。

多くのコーヒーショップは最近になって値上げを行った。スターバックス(Starbucks)とダンキン(Dunkin’)はどちらも過去1年間に、原料と労働力のコスト上昇を理由としたメニューの値上げを行った。スターバックスは今年前半に、再度値上げを行う可能性に言及し、これが現実となれば2021年10月以降3回目の値上げとなる。

このような値上げによって企業の利ざやを増やしはする一方で、顧客をコーヒーブレイクから遠ざけているようにも見える。徒歩移動解析企業であるプレイサー・エーアイ(Placer.ai)による最新のトラッキングによれば、スターバックス、ダンキン、ダッチブロズ(Dutch Bros.)の店舗へのトラフィックは6月に減少した。スターバックスとダンキンの月間訪問客数は、前年比でそれぞれ7.8%と4.1%減少した。

価格の上昇と訪問客の減少という現状を受けて、規模の大小を問わず、カフェは新たな戦略を組み直そうと試みている。たとえば大手のカフェのなかには、新しい消費習慣に合わせてメニューを的確にカスタマイズしようと試みている。一方で小規模のカフェは、独占コラボレーション、ポップアップ店舗、自家製商品の販売など、別の部分でクリエイティブになることをめざしている。

これらは、この業界にとって新しい試みではない。コロナウイルスが猛威を振るった頃、コーヒーショップは客足が安定せず、顧客を引き寄せるために季節の限定商品、デジタル注文などを取り入れたほか、ポイントプログラムを強化した。そして2年近くが過ぎた現在、インフレで客足が伸び悩むなか、大手チェーン店も独立系のコーヒーショップも同じような戦術で来客数を増やそうと試みている。

通勤とコーヒーの好みの変化

価格の上昇だけでなく、人々のコーヒーに対する好みの変化も、業者に影響を及ぼしつつある。

NPDグループ(The NPD Group)の最新データによれば、水出しコーヒーの注文の伸びはホットコーヒーを上回っている。水出しコーヒーの売上は2021年4月から2022年4月までのあいだに27%増加し、3億7300万杯に達した。

このトレンドはパンデミックの時期に特有のものではなく、かなりの期間にわたって増え続けてきたもので、特に暑い季節には顕著だった。しかし、冷たい飲料への好みの変化は、特製の冷たい飲み物をメニューに数多く揃えているような大手チェーン店にとりわけ大きな影響を及ぼしている。たとえば、スターバックスの2022年第2四半期の決算発表によれば、手作りの冷たい飲料はスターバックスの売上全体の80%近くを占めている。そして、アイスコーヒーや紅茶はザ・コーヒービーン・アンド・ティーリーフ(The Coffee Bean & Tea Leaf)グループのビジネス全体のうち70%近くに相当する。

さらに通勤時間の変化も、顧客がいつ、どんな飲み物を注文するかに影響を及ぼした。ダンキンブランズ(Dunkin’ Brands)によれば、朝の混雑時間帯は、午前11時から午後2時までの昼の時間帯に移行した。この行動の変化に対応して、同社はスナックなどの新しいアイテムを発売し、自社のスターバックス風のお茶とレモネードの商品ラインであるリフレッシャーズ(Refreshers)を拡充した。

コーヒーショップはクリエイティブに変化

顧客の好みから通勤パターンまでのすべての変化に対応するため、カフェは顧客を呼び込むための新しい方法を見つけようと模索している。

ジョー・アンド・ザ・ジュース(Joe & the Juice)は全世界に300を超える店舗を持ち、そのうち65店は米国内に存在するが、顧客を継続的に引き戻すためにブランドのコラボレーションとデジタル特典を重視している。同社のスポークスパーソンは、新規と既存の両方の顧客を引きつけるため、独占の提供品に賭けていると、米モダンリテールに語った。たとえば、同社はマッチャバー(MatchaBar)との最新のコラボレーションを今月初頭に開始した。パートナーシップの一部として、ジョー・アンド・ザ・ジュースは同社のマッチャバー商品すべてについて、7月いっぱいまで「1杯買えばもう1杯おまけ」の特別キャンペーンを実施する。

さらに、抹茶の商品は、コーヒーおよびジュースバーである同社のメニューとして恒久的に扱われるようになる。同社はホットとアイスの抹茶ラテを販売し、今後数カ月のあいだにマッチャバーとの協力によってビーガンシェイクの発売を計画している。同社のスポークスパーソンによれば、同チェーンは標準のメニュー以外にも、「より多くのブランドとパートナーシップを結び、店内での提供を充実させる」ことを計画している。

顧客を引き寄せるため有効なもうひとつの手段は、同社のジョー・ロイヤルティ・アプリ(Joe loyalty app)で、ロイヤルティの特典やモバイル注文の機能がある。たとえば、アプリの新規ユーザーは全員、アプリでの初回注文時にサンドイッチを無料で受け取ることができ、そのあとも5000ポイントごとに無料のギフトを受け取れる。ほかに差別化要因となるロイヤルティ特典として「顧客がゴールドランクに達すると、ファストトラック(FastTrack)というバッジが付けられ、その顧客の注文はリストの先頭に移されるので、待ち時間を短縮できる。

一方で同社は、規模の拡大も狙っている。労働力とインフレの課題に直面していながら、英国を拠点とする同社は2025年までに店舗数を現在の2倍である600店舗に増やすことを計画している。

自家需要に応える

一方で、ニューヨーク市を拠点とするロースターとコーヒーのチェーン店であるパートナーズコーヒー(Partners Coffee)は、パンデミックによる訪問客の減少から次第に回復してきたところだ。過去2年間において同社は、コーヒー豆のサブスクリプションと全国への配達ビジネスを成長させてきた。同社のカフェは現在、パンデミック前の水準に復帰している。

パートナーズコーヒーのマーケティングマネージャーを務めるオリビア・ラスコースキー氏は、店内でのイベントや特別セールの代わりに、「顧客の興味を引き、顧客のニーズに応えられるような新商品を生み出すことに集中している」と、米モダンリテールに語った。これには、朝食のサンドイッチや昼食のボウルなど、季節の飲食物の新商品も含まれている。

「当社は今年初頭に、操業コストの上昇に対応するため、特定のアイテムの価格を少しだけ調整した」と、同氏は述べる。一部のケースでは、価格の上昇を新しい特典で相殺できた。たとえば、パートナーズの飲み物メニューの一部は多少値上げされたものの、代わりにオーツミルクやアーモンドミルクなどのミルクを追加料金なしで選べるようになった。「これは当社のビジネスにとってはいいことだった。これらのミルクは人気のオプションであり、もしも値上げに加えて植物原料のミルクに追加料金が必要であったら、顧客に大きな負担を負わせることになってしまっただろう」と同氏は述べている。

それでも、自家用抽出がなくなるわけではなく、パートナーズコーヒーのようなロースターはその収益化も試みている。「限られていた予算や在宅勤務から、顧客が、自宅や外出先で淹れられるような商品を求めていることも理解している」と同氏は語る。このため同社は、水出しキットやインスタントコーヒーパックなど、1杯ごとの価格が安い持ち帰り商品のラインナップを増やしている。

地元コミュニティのエコシステムを構築

ほかの独立ショップは、自分たちに可能な部分で価値を提供することに注力している。

ブルックリンを拠点とするプレイグラウンド・コーヒーショップ(Playground Coffee Shop)は最近、コストの上昇を相殺するためにメニューを値上げした。しかし現在、現地の顧客に何か独自のものを提供するため、特別イベントの主催を試みている。プレイグラウンドの創設者であるゼナット・ベーグム氏は、現地コミュニティから招いた専門家のゲストシェフによる夕食のポップアップ店舗を毎月開催しはじめた。

7月13・14日に実施したイベントでは、シェフのタエイル・キム氏を招き、ソンブル(Sonbul)という韓国家庭料理のポップアップ店舗で、韓国料理を中心としたものだ。これらの夕食によりコミュニティの結び付きを強め、コーヒーショップにとっては追加収益となり、フリーランスで働く現地のシェフを支援できると、ベーグム氏は語る。「値上げが目白押ししている現在だからこそ、当社の顧客はプレイグラウンドとの関わりが単純な取引以上のものであることを理解する」と同氏は、現地でのイベントについて述べている。

常連客に頼ることが多い実店舗のコーヒーショップにとって、パンデミックからの回復とともに、収益の多様化は重要になりつつある。

ラスコースキー氏は次のように述べている。「顧客が通勤することを前提としていたビジネスにとって、難しい状況になる可能性があるのは当然だ。しかし一方で、顧客がハイブリッドまたは在宅で勤務することで、そのような顧客が昼食や午後の散歩に立ち寄り、または自宅にコーヒーを持ち帰る機会も増えることになる」。

[原文:Amid dipping traffic and rising prices, coffee shops are trying to find ways to woo customers]

Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション 編集:黒田千聖)
Photographed by Kathryn Sheldon for Partners Coffee

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