この2年、女子スポーツへの注目が高まり投資が拡大している。パブリッシャーがコンテンツ作成の担当チームを増強し、エージェンシーが数百万ドル規模の広告契約を結ぶなど、このカテゴリーに力を入れる動きが広がっているおかげだ。
ESPN、ワーナー・ブラザース・ディスカバリー・スポーツ(Warner Bros. Discovery Sports:以下、WBDスポーツ)などのパブリッシャーは2022年、女子スポーツへの投資を増やした後、視聴者数が増加した。DIGIDAYの取材に応じた2人の広告エージェンシー幹部は、女子スポーツの広告に振り向けられるブランド予算が増加していると口をそろえる。
NBA、FOXスポーツ(Fox Sports)などの顧客を持つIPG傘下のエージェンシー、メディアハブ(Mediahub)のシニアメディアクリエイティブを務めるスコット・マクゴーワン氏は、「女子スポーツの空間に存在することの価値をブランドに説明する必要はもはやなくなった」と話す。「(この価値について)説明する必要があまりないため、以前よりはるかに公平な場で(会話を)始めることができている」
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「私たちは文字通り、あらゆるブランドに女子スポーツのアイデアを売り込み、その機会を得ている」とマクゴーワン氏は補足する。
広告主の支持が拡大中
2人の広告エージェンシー幹部はDIGIDAYに、ここ1年ほど、女子スポーツ関連についての問い合わせが増加していると述べている。また、女子スポーツの試合放送が増え、広告インベントリー(在庫)も増加しているという。
2人は2月後半に発表されたアリー(Ally)とディズニー(Disney)の数百万ドル規模の複数年契約に言及した(広報担当者はこの契約の金銭的条件を明らかにしていない)。この契約は「意外ではない」とマクゴーワン氏は話す。「このような欲求はすでに存在し、今後ますます高まっていくだろう」
ホライゾン・メディア(Horizon Media)のシニアバイスプレジデントで、スポーツメディアの責任者を務めるアダム・シュワルツ氏は、アリーとディズニーの契約によって、女子スポーツの広告主が増えることも期待できると考えている。「(あのような契約が)大きな契約ではないというところまで到達してほしい。まだそこまで行っていないが、それが目標だろう」
ホライゾンのクライアントであるキャピタル・ワン(Capital One)は長年にわたり、全米大学体育協会(NCAA)の女子トーナメントの「すべてを所有」してきたが、最近は「他の広告主が参入しており、その資産を守るため(中略)戦う」必要が生じているとシュワルツ氏は説明する。
女子スポーツに振り向けられる予算は、男性スポーツに振り向けられる予算と「ほぼ同等」ではないが、「成長の余地があり、(それこそが)ブランドが求めている場所であり空間だ。この業界では、成長機会があることはアドバンテージになる」とマクゴーワン氏は話す。
女子スポーツにもデジタルの選択肢が
マクゴーワン氏もシュワルツ氏も、広告主はリニアとデジタルの両方に投資しており、通常、クロスチャネル契約の形をとっていると述べている。「10年前には、女子スポーツにデジタルの選択肢があると言える状況ではなかった」とシュワルツ氏は振り返る。
パブリッシャーサイドでは、WBDスポーツのジェニファー・ディル氏は、女子スポーツと男子スポーツを区別して売り込むことはしていないと述べている。ディル氏は2022年3月、女子スポーツ戦略担当バイスプレジデントに昇格し、WBDスポーツ全体の女子スポーツ戦略を統括している。WBDスポーツの販売チームは「両方について総合的に話をしている。パッケージやカスタマイズの微妙な違いはあるかもしれないが、全体としては、(たとえば)米国サッカーをひとつのパッケージにして話を進めている」とディル氏は説明する。
このやり方は「理にかなっている」とシュワルツ氏は同意する。「女子スポーツをひとつのサイロに入れるべきではない」
WBDスポーツのコンテンツは、プロパティ全体で有名な広告主を引き付けている。ナイキ(Nike)やAT&Tはデジタル、ソーシャル、リニアを組み合わせたキャンペーンを展開しており、ゼル(Zelle)、ゲータレード(Gatorade)、ラッフルズ(Ruffles)などはデジタルキャンペーンを行っている。WBDスポーツは女子プロバスケットボールリーグWNBAのコンテンツについて、3つのプロパティで数百万ドル規模の契約を複数結んでいるが、広報担当者は契約の条件を明らかにしていない。
WBDスポーツのWNBAデジタルコンテンツは前年比150%の売上増を記録している。ハイライトハー(HighlightHER)は前年比で40%近く売上を伸ばしており、この1年で保険、食品、テクノロジー、ファストフードなど、新たなカテゴリーが女子スポーツのバーティカルに参入している。正確な数字は不明だ。
ロサンゼルス・タイムズ(Los Angeles Times)では、編集と広告販売が明確に分かれているが、2022年5月、スポーツ担当副編集長に昇進したイリアナ・リモン・ロメロ氏は、販売サイドが女子スポーツの編集方針やプロジェクトについて編集チームと会話し、広告主に売り込むことが多くなったと述べている。
ESPNにも広告収入を問い合わせたが、本記事の公開時点で、具体的な回答は得られなかった。
オーディエンスが増加し、コンテンツも増加
ESPNとWBDスポーツでは、女子スポーツに対するオーディエンスの関心が高まり続けている(WBDスポーツはブリーチャー・リポート、ハイライトハーなどのデジタルブランドに加えて、TBS、TNTなどのスポーツ放送を担当している)。
ESPNのオーディエンスエンゲージメント担当バイスプレジデントであるニコール・ペラエス・ダンドレア氏■未確認■によれば、ESPNでは女子体操、ソフトボール、国際バスケットボール連盟(FIBA)ワールドカップの放送を強化しているという。2022年2月には、女子バスケットボールのリポーターとしてアレクサ・フィリッポウ氏■未確認■を起用した。
ペラエス・ダンドレア氏によれば、NCAAソフトボールのコンテンツは2022年6月にトーナメントの完全実況中継を開始すると、ESPN.comとESPNアプリで同月、ユニークビジターが前年比10%増の250万人を記録した。ESPNデジタル(ESPN Digital)の月間女性訪問者は2022年に前年比11%、ESPNアプリは40%増加した。
WNBA関連のコンテンツは2022年、ESPNのサイト、ゲームページ、アプリ、コネクテッドTVで400%以上増加したとパラエス・ダンドレア氏は述べている(WNBAの2022年レギュラーシーズンは、テレビ視聴者数が2021年から16%増加し、過去14年間で最も視聴されたレギュラーシーズンとなった)。
ESPNの定額制動画ストリーミングサービスであるESPN+は2022年、前年比25.8%増の1万1000を超える女子スポーツイベントの生中継を行った。
ディル氏によれば、WBDスポーツはポートフォリオ全体で1億6400万人の女性ファンを抱える。2月には、TNTとHBOマックス(HBO Max)が女子サッカートーナメントのシービリーブスカップ(SheBelieves Cup)を放映し、ブリーチャー・リポートとハイライトハーが報道を行った。
ロサンゼルス・タイムズでは、2023年夏のFIFA女子ワールドカップを取材するスタッフが、2022年の男子ワールドカップより多くなる予定だ。男子大会では記者1人をカタールに送り込んだが、女子大会はオーストラリアとニュージーランドに2人で行くとリモン・ロメロ氏は説明する。
経済状況は進歩の妨げになるか?
パブリッシャーとエージェンシーはともに楽観的だが、現在の経済状況は、女子スポーツに関心を持つ広告主が増える一方で、ブランドは必ずしも大きな利益を得られる予算を持っていないことを意味するとマクゴーワン氏は考えている。
「すべての予算が以前より厳しくチェックされている。予算がなければ何もできない」
シュワルツ氏は、この1年で女子スポーツの領域に大きな予算や新たな予算が入ってきたとしながらも、数カ月後、女子ワールドカップの頃に経済が減速し、その後、年末にかけて回復すると予想している。
「ほぼ間違いなく、この夏は重要な時期になるだろう」とシュワルツ氏は語った。
[原文:Publishers like ESPN and agencies are seeing more investment in women’s sports coverage]
Sara Guaglione(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:分島翔平)