新規 ラグジュアリー顧客 獲得するための方法とは?【Glossy Fashion & Luxury Summit】

DIGIDAY

新規ラグジュアリー顧客獲得のためのプレイブック

Glossyのファッション&ラグジュアリーサミットでは、ブランドと小売業者のエグゼクティブらが、タウンホール、ワーキンググループ、炉辺談話に参加し、かなりの高額消費者を獲得することについて熱心に意見交換を行った。顧客の認知度を向上させ、顧客の習慣に対応し、そして顧客のロイヤルティを獲得するための方法についてが、今回のイベントでもっとも注目されたトピックだった。

ラグジュアリーが不況に強いかどうかは議論の余地があるが、この2年半の不安定な経済状況において、ラグジュアリー市場が例外的に好調だったのは確かだ。

顧客の認知度を向上させる

プライバシーに関する新たな障壁により、あらゆる分野の企業にとって消費者に対する効果的なマーケティングはさらにむずかしいものになってきている。だが間違いなく、ラグジュアリーのマーケティング担当者ほど限られたツールキットで仕事をせざるを得ないマーケターはまずいないだろう。

サミットでは、タウンホールにて課題に焦点を当て、若い新規の消費者にリーチしようとしていると話すニッチなラグジュアリー分野のマーケターのために、出席者たちが効果的な解決策を提案した。

「ソーシャルメディアやリターゲティング広告、こうしたすべてのデジタル広告にかなり多くの時間と金、労力を費やしているが、それがどれほどのROI(投資利益率)をもたらしているのかわからない」とそのマーケターは述べた。「インスタグラムやTikTokからは何も得られていない(ように思える)」。

しかし、比較的に「ピンタレスト(Pinterest)には高収入のオーディエンスがいる」と彼女は指摘している。またインフルエンサーマーケティングも効果がないことが証明されているという。

彼女の会社のコアカスタマーは60歳代からの男性で、その多くはメールアドレスを会社に提供していないか、メールを見ない。旧世代であるというのもその理由の一部だが、ラグジュアリーの顧客は何よりも慎重で用心深い。ある参加者は、自分の会社では、連絡先を一切知らせることなく商品を受け取ることを選んだ顧客に、7万ドル(約945万円)の毛皮を販売したことがあると話した。買い物客を獲得するために、紙と鉛筆方式の顧客管理システムを導入するマーケティングを提案した参加者もいた。

ファーストパーティデータの共有を重視

その会社で年配の顧客を獲得するのに有効だったのは、現実世界におけるイベントとスポンサーシップである。その出席者いわく、ビジネスの大半を占めるのはリピーターと、誰かの紹介や「業界中心」のパートナー企業からブランドにやってくる人たちだ。企業が重視しているのは、こうしたパートナー企業とのファーストパーティデータの共有である。

北米のマイテレサ(MyTheresa)のプレジデント、ヘザー・カミネツキー氏も、同社では紹介に重点を置いていると述べている。「当社のトップクライアントの友人は当社の顧客であるべきなので、それを可能にする瞬間を作り出している」。

ラグジュアリーブランドが、たとえばキャビアなどのカテゴリーにおける同じラグジュアリーブランドと提携することを推奨する参加者もいた。ニーマン・マーカス(Neiman Marcus)やハイエンドなジュエリーブランドとの提携を提案する人もいたが、それらの企業は、思い出に残る体験を約束するとして、自分たちのトップクライアントを喜んでスポンサーに提供してくれるかもしれないからだ。またよい潜在的パートナーとして、保有するデータを理由にアメリカン・エキスプレス(American Express)の名も挙がった。「アメリカン・エキスプレスはそうした人々がどこに金を使っているのかを把握している」。

Amazonやファーフェッチでの販売の是非

そのほかに推奨されていたのが、顧客のパーソナルアシスタントやファミリーオフィスをターゲットにすることだ。もちろん単に顧客がすでに買い物をしているブランドと一緒に販売することも、認知度を高めるのに有効だろう。

「1%の人でさえもAmazonで買い物をしている」とある参加者は言う。「人はただレビューを読むためにAmazonを使っている。トラフィックの60%はAmazonで購入することはなく、Amazonラグジュアリー(ストア)の(閲覧する)人の場合はそれが80%に増加する」。

しかし、会場にいた何人かのエグゼクティブによれば、Amazonでの販売を選択したラグジュアリーブランドは、世界のニーマン・マーカスに選ばれることは決してないだろうという。だがファッションブランドのフェイスコネクション(Faith Connexion)のプレジデント、マリア・ブッチェラーティ氏は反対の意見だ。「ファーフェッチ(Farfetch)が(市場に)初めて登場した際、『ファーフェッチで販売するのか? あなたのところとはもう仕事をしない』と小売業者に言われたものだ。いまでは、あらゆる(ラグジュアリー)ブランドがファーフェッチにあり、ファーフェッチは当社にとって最高のパートナーだ」。

顧客が重視する商品について、できるだけ多くの情報を提供する

実店舗は、高額商品の購入に関しては買い物客が商品を実際に見ることができるタッチポイントを提供し、契約を結ぶ助けとなることが多いと、エグゼクティブたちは述べている。店舗はテクノロジーと従業員を活用し、ラグジュアリーの顧客が価値を置く商品について多くの情報を提供することができる。

その点、クリスティーズ(Christie’s)では、たとえばブログを通じて、高額消費者に十分な情報を一貫して提供することを優先している。そう話すのは、同社のマーケティング責任者ネダ・ホイットニー氏だ。「まさにそこは、私たちの物語に対してかなり保守的になる場所であり、顧客が求めてる学術的で講義のような内容を紹介している。1枚の絵画に数百万(ドル)も出そうとしている人は,その絵の背景についてくまなく知りたがっている」。

このような広範囲におよぶコンテンツマーケティングがラグジュアリーの分野では非常に重要だ、と出席者らは述べた。

関係のない情報の過剰提供は避ける

「ひとりの顧客を獲得することは、信じられないほど高くつくし、利益を生まない可能性がある。なぜなら、ブランドが(コンテンツの)深さではなく幅広さにフォーカスすることがあまりにも多いからだ」と指摘したのは、デジタルコマースに特化したモルフォロジーコンサルティング(Morphology Consulting)の創業者キャサリン・マッキー氏だ。「ヒントやコツではなく、あなたが誰で、あなたのブランドが何をしていて、どんな問題を解決し、誰にリーチするか(にコンテンツをフォーカスさせること)を考えるようにすれば、高いドメイン権限スコアとオーガニック(サーチ)ランクを効率的に達成することができるだろう」。

さらに彼女は次のように付け加えた。「何事に関しても決して、1ドル以上の入札をすべきではない。CAC(顧客獲得コスト)とLTV(ライフタイムバリュー、顧客生涯価値)の比率が本当に悪いのであれば、あなたが獲得している顧客は長期的な顧客ではない。本当の顧客のCACは低くなるはずで、その長期的な価値は信じられないほど高くなるはずだ」。

Googleから「本当に攻撃的な罰」を受けることを避けるには、ブランドに「100%関連性のない」情報をブランドのウェブサイトに含めることによって「征服」しようとしたり、「キーワードスタッフィング」したりするのを避けるよう、マッキー氏は勧めている。ラグジュアリーに特化したリリアンラージエージェンシー(Lilian Raji Agency)のプレジデント、リリアン・ラージ氏は、チャットボットやソーシャルメディアでブランドが受け取った質問に動機づけられたコンテンツがうまくいったと述べた。

PRや信頼できる報道の重要性

コンテンツでリードすることは、1250ドル(約17万円)のマットレスを販売するサツバ(Saatva)にとって効果的だということが証明されている。

同ブランドでシニアPRマネージャーを務めるシャリ・アジャイ氏は、「マットレスを購入する際、当社のコンテンツを通じて我々を発見することになる」と述べた。「我々は(製品が)カイロプラクターの承認を得ていること、オーダーメイドであること、メイド・インUSAであるといった情報を共有している。我々のブランドは、自分でリサーチを行いたいと思っている消費者のためのものだ」。

ラグジュアリーの顧客獲得戦略のなかでも、ラージ氏が強調したのはPRの重要性と、「検証と信頼」を提供する役割を果たす「評判のよい」出版物にブランドに関する記事を掲載してもらうことだ。

「それは売上というより、ブランドイメージのためだ」と彼女は言う。さらに、出版物は「ブランドの社内にいる人々がいつも目にするとは限らない方法で、ブランドを関連づける」働きをすることが多い。

最後に、高額の買い物客以外の顧客をターゲットにすることにも価値がある、と彼女は指摘した。彼女の場合、エルメスのeメールにはすべて必ず目を通す習慣がついた。なぜなら、彼女が好きな「かわいい漫画」が以前掲載されていたことがあるからだ。「エルメスのことをいまでもフォローしている。いつか4万ドルのお小遣いを手にする日が来るかもしれないから」。

顧客の習慣に対応する

一部のラグジュアリー企業のリーダーたちの考えに反して、ラグジュアリーの消費者は実際にオンラインで買い物をしている。業界関係者によると、こうした消費者は妥協を嫌がるという点も、ブランドは知っておくべきだという。

「シャネルがデジタルに対して厳しい制限を設けていることに苦労している。それは古めかしい考え方だからだ」とホイットニー氏は言う。「クリスティーズでは、私たちが販売するほとんどのものが数百万(の価格設定)だが、顧客の81%がデジタルで入札している。シャネルの財布は一点物の芸術品ではなく、誰もがどんなものかを知っている。(シャネルが)消費者のニーズに応えないのは、本当に奇妙だ」。

「新規の若い世代の顧客を犠牲にして、上位1%の人たちに対応することはできない。さもなければ、今後20年にはどうなってしまうだろう」とラージ氏も述べている。

ホイットニー氏によれば、今日、ニューヨークタイムズ(The New York Times)を紙で手に入れている人が、Tinderをスワイプし、Uberも利用している。
「アナログかデジタルかではなく、すべてが重要だ」と彼女は言う。「成功するブランドとは、変化し、進化する消費者の声に耳を傾けるブランドであり、他とは関わりをもたずに意思決定をするブランドではない。(旧来の)白か黒かというやり方でユーザーをセグメントするブランドは、せっかくのチャンスをみすみす逃しているだけだ」。

ラグジュアリーの消費者は、あるアイテムがほしい場合、よく吟味してリサーチできたとなれば、高いプレミアムを支払うだろう、とアジャイ氏は述べている。たとえば、その商品のレビューが好意的であること、市場に同等なものがほかにないこと、同じような人々が使っている商品に対して競合力があることなどだ。「(購入の際に)『これを自分のためにやる』という要素がある」と彼女は言う。

マッキー氏はこう語る。「ラグジュアリーの消費者は、自分がほしいものにぴったりマッチしたものを求めている。そうした消費者は、リストのすべての項目を満たす製品が見つかるまで待つほど、十分に違いを認識している」。

顧客のロイヤルティを獲得する

高額を費やす顧客がいる一方で、そこにはさらにもっとも多額の金を費やす顧客がいる。後者のグループを扱う努力について、ブランドが公に語ることはめったにない。特にそこに含まれている顧客は慎重さを重んじているからである。

「その1%の顧客には、何か特別なことをしなければならない」と、ラージ氏は言う。「あまりにも多額の金を使っており、そうしたことを要求する。特別な扱いを受けることを期待している」。

ラグジュアリー企業が貴重な買い物客のためによく主催しているグループディナーよりも、「実際の1%は、内密の(特典を)求めている」とマッキー氏は指摘した。たとえば彼女が挙げたのは、あるブランドが買い物客の家にポップアップ・ショップを持ち込んだという事例だ。サイズや好みはその客と招待されたふたりの友人に合わせたものに調整され、食事や軽食が提供された。

お金では買えないラグジュアリーな体験を提供

「トップクライアントのために、公表はしていないことを行っている」とカミネツキー氏は言う。「それはロイヤルティプログラムやキャッシュバックではなく、お金では買えないラグジュアリーな体験を提供するということだ」。

たとえば、今年の初め、マイテレサはニューヨークのトップクライアント50人をニューヨーク・シティ・バレエ団の公演のリハーサル見学と、その後のカクテルパーティーおよびバレリーナたちとのQ&Aセッションに招待している。「その夜、私たちは何も販売しなかった。そういうことが目的ではないからだ」と彼女は語った。「そして、似たようなことは山ほどやっている。それは私たちの成功には欠かせないことだ」。

これらにまつわる公式なマーケティングはないにもかかわらず、このようなアクティベーションは利益をもたらすとアジャイ氏は言う。「こうした上位階級の消費者も最高のブランド支持者だ。ほとんどの場合、そうした顧客は有意義な自分の体験を共有し、友人を紹介してくれる」。

しかしシャネルは、そのプライベートな特典に世間の注目を喚起することに何のためらいもない。最近大々的に宣伝された、高額を費やす顧客のための独占的な店舗を立ち上げるというシャネルの動きについて、アジャイ氏は「シャネルはそれを発表する必要すらあったのか?」と述べている。

「2022年は勇敢になる年ではない」:フレデリック・コート氏、ブランドの成長に対するフェリックス・キャピタルの現在のアプローチについて語る

フェリックス・キャピタル(Felix Capital)が新たに6億ドル(約809億7000万円)の資金調達ラウンドで、運用資産を12億ドル(約1619億6500万円)に倍増したという発表に先立ち、創業者でマネージングパートナーのフレデリック・コート氏が、同社が逃した機会、投資計画、ブランド成長の優先順位についてGlossyに語った。

フェリックス・キャピタルは、カスタマージャーニーの変革に注力し、2015年にローンチした。ファーフェッチ、グープ(Goop)、ペロトン(Peloton)など、同社のポートフォリオに含まれるブランドは増えている。

ーー今回の投資ラウンドは、フェリックス・キャピタルにとってどのような意義があるか?

「大きな節目だ。そして明らかに、大きな金額には大きな責任が伴う。我々がやっていることは、設立当初から行ってきたことと同じで、戦略は変えていない。現在、当社のウェブサイトには(ブランドポートフォリオを表す)50のロゴが掲載されているが、投資家にとって重要なのは、我々がよいパフォーマンスを示すことだ。特筆すべきは、新規の投資家からの資金だけでなく、既存の投資家からも予想以上に多くの資金を獲得していること。これからは我々が投資した企業のために、のちのラウンドに参加する能力も高まるだろう。我々はファーフェッチの初期投資家で、当初は小規模な資金だった。その後のラウンドに参加する機会もあったが、我々には資金がなかった。だから、これは学び(のプロセス)だった。今後は、我々には十分な用意があり、起業家にとってさらに魅力的な存在になることを願っている」。

ーーフェリックス・キャピタルにとって、成長とはどのようなものか?

「我々はいつも時間をかけて物事を進めることを好み、投資に先立ち人を知ろうとしている。つねに思慮深くゆっくりとチームを拡大しており、今後もそうしていくつもりだ。我々が突入している時代では、おそらくもっとじっくり考えるペースで投資をしていくようになるだろう。ベンチャーキャピタルを運営する我々のやり方がさらに求められていくだろうし、すでにそうなりつつある。

フィンテックやB2B企業(に注力する)など、これまで行ってきたことに加え、Web3などを含む隣接・関連する投資分野にも少しずつ拡大していく。ブロックチェーンやWeb3は、起業家にとって新たな創造性のプラットフォームとして非常に重要だと考えている。また、サステナビリティと、よりサステナブルなビジネスを行うためのツールにもますます注目している。これをビジネスの中心に据えているブランドこそ、人々が求めているものだ」。

ーーファッションとビューティは、依然としてトップ・オブ・マインドなのか?

「我々が見たなかで、異なる理由で投資の機会を得られなかったブランドがふたつあるが、どちらもヨーロッパで始まり、大きな成功を収めている。それはシャーロット・ティルベリー(Charlotte Tilbury)とバイレード(Byredo)だ。どちらも非常に小さいブランドとしてスタートした、大変強力なアイデンティティをもつすばらしいブランドである。このようなブランドは非常に少ないが、存在する。消費が変化し、世代が変われば、ビューティやファッションの起業家たちが新しいコンテンツを生み出す可能性はさらに高まるだろう。間違いなく、我々はこれまで大きな成功を収めてきたリセールの分野でもっと何かできたし、またそうすべきだった。クリーンビューティやZ世代ビューティから、ウェブ3ネイティブファッションやサステナブルファッションにいたるトレンドは、すべて非常に重要な意味を持つはずで、我々は油断せずにそれらの機会に目を向けていく」。

ーー収益性と成長を比較した際、現在の見解は?

「2022年は勇敢になる年ではない。大きな目標に再度集中する年であり、おそらく成長の一部を排除する年だ。成長とともに、すべてがうまくいくわけではない。したがって、あまりに急いで採用した従業員や、見直すべき新しい取り組みもあるかもしれない。そして、成長と収益性のバランスも少し変わってくるだろう。我々のポートフォリオには、非常に健全に利益を上げながら成長している企業がある。たとえばアニン・ビン(Anine Bing)がそうで、あれはすばらしい企業だ。また、今年は再びチャネルのバランスを取る年になると考えている。優れた小売は死んでいないので、物理的な小売が力強く戻ってくると考えている。高い需要がある。人々は体験とつながりを求めている」。

[原文:Fashion Briefing: The new luxury customer acquisition playbook]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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