ゲーミング・eスポーツ業界各社はこの1カ月の決算報告会で、大まかな長期予測については自信を見せた(短期的には問題の火種あり)。話題としてたびたび取り上げられたのは、収益の低下と消費者の習慣の変化である。
各社とも決算報告で触れているように、ゲーミング・eスポーツの大手各社の経営陣は、自社が今後の景気後退に備えていることを強調し、ゲーミング業界には間違いなくそれに耐え得る力があることも示した。
本記事では、ゲーミング・eスポーツ各社が2023年に直面する可能性のある問題点、あるいはその問題を克服するためにリーダーたちが利用できるチャンスをチェックした。
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2022年度は軒並み減収
2年間続いたコロナ景気が終わり、2022年にゲーミング業界は現実の世界に戻った。調査会社ニューズー(Newzoo)の「2022年版ゲーム世界市場報告書(2022 Global Games Market Report)」によると、ゲーム世界市場の2022年の売上は1844億ドル(約23兆9700億円)で、前年比4.3%減としている。
この減少は、主要ゲーミング企業の多くが2022年第4四半期で報告した数字を反映したもの。たとえば、任天堂は純利益が5.8%減少。ユービーアイソフト(Ubisoft)は2022年の売上が不本意な結果だったことを受けて、年間の売上目標を減額した。また、エレクトロニック・アーツ(Electronic Arts)は純利益7.1%減少を報告している。
しかしながら、ゲーム業界の数字がすべて暗いものかといえばそうとも限らない。アクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)は、売上8%増加を報告している。とはいえ、調整後利益は減少傾向ではある。
マイクロソフトのアクティビジョン・ブリザード買収案、黄色信号点滅
2022年1月8日にIT大手米国のマイクロソフト(Microsoft)がアクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)の買収計画を発表したが、米国、英国、欧州の規制当局は、この買収の合法性に懸念を表明している。買収が保留されるなか、アクティビジョン・ブリザードは決算報告のカンファレンスコールの開催や、2022年第4四半期の財務状況に関する詳細情報の提供を避けている。
しかしながら、アクティビジョン・ブリザードは現在でも、マイクロソフトおよび関連規制当局の双方を相手に前向きな検討が可能だと自信を示している。少なくとも、2022年第4四半期の活動に関してアクティビジョン・ブリザードが公式に発表したメッセージによると、「両者は引き続き、当局の買収にかかる調査に協力し、マイクロソフトの2023事業年度内(決算日6月30日)に契約が締結できるよう取り組んでいる」という。
ゲーミング業界ではどの企業も、今回のマイクロソフトとアクティビジョン・ブリザードの買収に極めて注目している。もしこれが失敗すれば、ゲーミング・eスポーツのほかの企業買収案件に大きな影響を与える可能性があるからだ。ゲーミング企業に対する投資家からのプレッシャーが増し、景気が悪化するにつれて、業界のあらゆる場面でM&A活動が活発になるだろう。
ビジネスモデルのシフトを反映するソニーの業績
ソニーの2022年第3四半期決算説明会は、まさに「混迷の時代」を象徴するものだった。2020年11月のPlayStation 5発表後、最高の売上高を報告する一方で、税引前利益は前年比で実質630億円(約8兆1900億円)の減少を示していたのだ。こうしたアンバランスな業績は、ハードウェアの販売に依存してきたソニーの体制が方向転換する可能性を示している。進化が止まらないゲーマーの消費習慣が、この日本のテックジャイアントを刺激している。
最近では、無料でプレイできるゲームやライブサービスのゲームがマーケットシェアを拡大する傾向が続き、「ゲーム用ハードウェアやプレミアムコンソールゲームの販売を前提としたゲーミング事業は、もはや時代遅れ」という空気感が漂い始めている。ソニーをはじめとする各社の経営陣もそれを察知し、無料ゲームなどの新たな事業形態の活用に取り組む姿を強調しようとしている。
ユービーアイソフトのCFOフレデリック・デュゲ氏は2月16日の2022年第3四半期決算説明会で、「研究開発の予算に関しては、自社最大の知的財産にまわす分を増やすことにしている。加えて、ライブサービス系のゲームにも投資する」と話した。さらに「だからこそ、今後数年で強い成長が見込まれるなか、ラインナップも充実し、中期的には営業利益が約20%に戻るだろう」と説明した。
任天堂、正式に知的財産映像コンテンツ化推進派の仲間入り
日本のゲーミング業界を代表する任天堂は、ゲーム専用機の売上が20%下落したと言われているものの、今後の動きに関しては自信がある。というよりも、その自信を決して隠さないスタンスだ。2月7日の決算説明会では、ゲーム開発者の賃金を10%引き上げると発表している。
任天堂は数年をかけて、まったく新しい収益源を見つけ出しており、将来に不安を感じていないのは理解できる。それが知的財産(IP)の映像コンテンツ化である。
2月7日の決算説明会では任天堂社長の古川俊太郎氏が、「消費者がゲーム専用機以外の場で任天堂のタイトルに出会うチャンスを作り出すことで、ビジネス全体の勢いを維持しようと考えている」と話した。
任天堂は、「スーパーマリオブラザーズ(Super Mario Bros.)」や「ゼルダの伝説(The Legend of Zelda)」のような、世界的に人気の高い同社IPの映像コンテンツ化を長年避けてきたが、2022年に大きく舵を切り、同年7月、映画・テレビ専門部署を設置した。映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー(The Super Mario Bros. Movie)』の全米リリースが4月7日と近づくなか、米国ユニバーサル・スタジオ・ハリウッド(Universal Studios Hollywood)の「スーパー・ニンテンドー・ワールド(Super Nintendo World)」オープンをはじめとするブランドタイアップで、任天堂はさらにIP映像コンテンツ化に傾倒している。
「ゲーミング企業は、価値の高いIPを大量にため込んでいる」。そう話すのは、業界に詳しいグローバルX ETF(Global X ETFs)のリサーチアナリストであるティージャス・デサイ氏だ。「同時に、ハリウッドにはNetflixなど、良質なIPを狙うバイヤーが山ほどいるため、これからはハリウッドビジネスモデルの民主化が大いに進む」。
Netflixはゲーミングに傾倒
ゲーミングがポップカルチャーの重要な柱に急成長していることは、Netflixも当然気がついている。実際、行動も起こしてきた。「リーグ・オブ・レジェンド(League of Legends)」のような人気ゲーミングIPのライセンス化でオリジナルコンテンツを得るだけでなく、2022年には自社のストリーミングプラットフォームで直接ゲームの提供を開始した。1月19日の決算報告会で、Netflixの経営陣はゲーム以外の分野を中心的に取り上げていたが、これまでたびたび注目されてきたように、ゲーミングプラットフォームとしての同社の役割は大きくなっている。COO兼CPOを務めるグレゴリー・ピーターズ氏など同社の役員にとって、ゲームが依然として重要項目であることは明らかである。
「私たちがチェックすべき路線変更の内容が、必ずしも従来のレガシービジネスモデルからかけ離れているものばかりかといえば、そうとも限らない」とピーターズ氏は決算報告会で話した。「ゲーム関連ではいくつか種をまいている。実に成長が待ち遠しいが、上手く育てられれば、今後、さらに利益もたらすビジネスチャンスになるだろう」。
eスポーツは苦境
本記事で、eスポーツ業界が直面している「大しけ」に触れないわけにはいかない。eスポーツ団体はこれまで常に、収益の大半をブランドのパートナーシップで得てきた。しかし経済状況が悪化するにつれて、主要ブランドがeスポーツから撤退しはじめたため、eスポーツ団体は収益獲得でほかの道を模索しなければならなくなった。これまでのところ、うまくいったところはほとんどない。
常に注目を浴びる、業界最大の上場eスポーツ団体フェイズ・クラン(FaZe Clan)の決算報告会は2月27日を待たなければならないが、同社の財務状況をざっと見る限り、苦境に立たされていることがわかる。それは同社だけの話ではない。業界全体が苦境に立たされているのだ。フェイズ・クランは2022年7月のSPAC買収で、1株あたり20ドル(約2600円)と株価が最高値をつけたものの、現在の株価は1ドル(約130円)に届かず、ナスダックの規則(上場維持の条件は1株あたり1ドル以上)によると、上場廃止の危機にさらされているようだ。
こうした危険信号にもかかわらず、投資家のなかには、長期的に見ればeスポーツ業界はまだまだ伸びしろがあると考える人たちもいる。
デサイ氏は「現在のeスポーツ業界は、新しい物好きが集まるアーリーアダプター期の終焉に向かっているにすぎないと私たちは考えている。この時期はさまざまなビジネスモデルが導入されて、積極的に試されるものだ」といい、「こうした状況では、どのような業界でも荒れる傾向にある。そんなことより、私たちにとって重要なのは、オーディエンスの拡大だ。2022年をみると、5億人近くの人々がeスポーツ関連のエンターテインメントイベントに参加している」と話した。
[原文:Earnings wrap-up: The gaming industry buckles down for a year of uncertainty]
Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)