ファレル・ウィリアムス 氏のルイ・ヴィトン就任に対する業界の反応

DIGIDAY

ヴァージル・アブロー氏の早すぎる死から、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)が彼の後任となるメンズ・クリエイティブディレクターを発表するまでに1年以上を要した。だが2月14日、有名ミュージシャンであるファレル・ウィリアムス氏を起用するという発表に対しては、瞬時の反応があった。

その反応は、業界全体では大きくふたつに分かれている。すなわち、LVMHの決断がデザインの能力よりもセレブリティを重視しているように思えると嘆く人々と、ウィリアムス氏のキュレーション的かつコラボレーション的アプローチは、アブロー氏が生前に行っていたことと完璧にマッチしていると言う人々だ。

デザイナーではなく、セレブリティの起用に対する反発

メンズウェアデザイナーでコンサルタントのジョーイ・キーファー氏は、ウィリアムス氏のクリエイティビティと才能を認めている。しかし彼はGlossyに対し、ファッションの重要な役割にセレブリティを起用する前例となるのを恐れていると語った。

「ファレルのような非常に才能のある人物を、必ずしもその人の専門ではない役職に起用することは、ある意味、耐え難いものがある」とキーファー氏は言う。「このような仕事をしている業界がほかにどれだけあるのだろうか。(ファッションデザイナーの)エディ・スリマン氏を、ユニバーサルミュージックグループ(Universal Music Group)のA&R責任者に任命するようなものだ」。

キーファー氏の意見には、フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)のジョー・エリソン氏など、業界のほかの人々も同調している。エリソン氏は論説で、デザイナー志望者はパーソンズ(Parsons)やセントラル・セント・マーチンズ(Central Saint Martins)のようなデザイン学校で学位を取るよりも、ソーシャルメディアマネージャーを雇った方がいいかもしれない、と書いた。

エッセンス(Essence)のファッションエディター、シェルトン・ボイド=グリフィス氏も同じ意見だ。

ボイド=グリフィス氏はTwitterで、「若い新卒のデザイナーか社内のデザイナーを採用する方がずっとましだ」と述べた。「そうした若い才能あるデザイナーたちがみな、大きなチャンスを待ちわびているというのに、億万長者のセレブリティを雇うのか?」。

ファレルはアブローのビジョンに適している

とはいえ、同じくらい多くの人々が、ルイ・ヴィトンの選択を擁護している。ウィリアムス氏は、ビリオネアボーイズクラブ(Billionaire Boys Club)とアイスクリーム(Ice Cream)というふたつのストリートウェアブランドを創業して成功を収め、アディダス(Adidas)、ユニクロ(Uniqlo)、そしてまさにルイ・ヴィトンなど、いくつかの主要ブランドとデザインやコラボレーションを行っており、確かに長年にわたってファッションの経験がある。

また、ルイ・ヴィトンに対するアブロー氏の明確なビジョンに従う上で、ウィリアムス氏は特に適切でもある。彼はデザイナーというよりも、ファッションの「コラボレーター」や「キュレーター」としてよく知られているが、それらはアブロー氏の職種を言い表していた言葉でもあるのだ。アブロー氏が亡くなったとき、ファンは彼の多彩なテイストと広く網を張る能力に言及し、多様なコラボレーターを招いてルイ・ヴィトンを新たなオーディエンスに紹介することに貢献したと述べた。ウィリアムス氏なら、同ブランドのこうしたビジョンにぴったりだと評論家は指摘する。

「ファレルなら、セレブリティにしかできない類の影響力と話題性をもたらしてくれる。誰もヴァージルの後を引き継ぐことはできないが、ヴァージルの下でヴィトンのメンズが有していたのと同じエネルギーを維持するという意味では、ファレル・ウィリアムス氏にはかなり近いものがある」と述べたのは、ファッション・ライターのルイス・ピサーノ氏だ。「彼は音楽、ファッション、アート、デザインなどさまざまな世界にまたがる多彩なクリエイターであり、ヴァージルに似たアプローチと美学がある。私の意見では、ヴァージルが魅了した新しいメンズウェアの顧客層が欠けることなく、シームレスに移行するだろう」。

LVMHが求めているのはキュレーター的な役割

ルイ・ヴィトンは世界最大のファッションブランドのひとつであり、その収益は昨年初めて200億ドル(約2.7兆円)を超えたが、その大部分はプレタポルテのコレクションではなく、レザーグッズからもたらされている。

また親会社のLVMHが求めていたのが、新たなコレクションを監督するだけでなく、同ブランドのアンバサダーとして、また業界のテイストメーカーとして活動できる人物だというのは明らかだ。

ファッションニュースレターのスプレッツァ(Sprezza)のクリエイターであるクレイトン・チェンバース氏は、「この件が、今後セレブリティが伝統的なファッションメゾンのクリエイティブディレクターにふさわしい、という誤った前例となってしまうのではないか、と考えている業界の人々に共感する」と話す。「しかしルイ・ヴィトンはこの役職を、非常に技術的で細かく複雑なデザインの役割ではなく、全体像を作り上げるキュレーター的な役割だと考えている。ルイ・ヴィトンが望むものが、音楽、アート、ファッション、エンターテインメントの中心にいることなのであれば、ファレルはそのギャップを埋めることに貢献できるだろう」。

[原文:The industry reacts to Pharrell Williams’ Louis Vuitton appointment]

DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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