AR、AIで活発化する テックドリブンマーケティング 戦略:「ブランドが成長し続けるためには、テクノロジー活用で最先端をいく必要がある」

DIGIDAY

景気の先行き不透明感により、企業では以前に増して広告の費用対効果が厳しく問われている。しかしマーケターは、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)などのテクノロジーを使った施策を試みており、最近は人工知能(AI)を搭載したツールも実験的に導入しはじめた。

競争が激化するデジタルマーケティング市場で存在感を示し、若い世代に訴求するための新たな取り組みだ。

テクノロジー活用の取り組みは次々と

ロブズ・バックステージ・ポップコーン(Rob’s Backstage Popcorn)は2023年1月下旬、画面上に現れるポップコーンを口でキャッチする内製ARシミュレーションゲームをインスタグラムのリールで公開した(当該キャンペーンのAR投資額は未公表)。

ドッグフードのペディグリー(Pedigree)は1月末、犬の里親募集イベントをメタバース上で初めて開催。試験的にペイドサーチ広告とオーガニック検索のパフォーマンスを確認し、Web3領域における地歩を固めるきっかけを作ろうとしている。また、ペディグリーはオンライン寄付決済用に仮想通貨ウォレット機能を開発した(費用は未公表)。

テクノロジーを活用したマーケティング施策の事例はほかにもある。米ルイジアナ州ニューオーリンズ市は2022年下期、コロナ禍収束に伴う旅行需要の高まりを受け、YouTubeで没入体験を提供するVRマーケティングの試験運用を開始した。花束配達サービスのアーバンステムズ(UrbanStems)は、バレンタインデーのフラワーギフトにカードを添える顧客向けにChatGPTのAI機能を使ってメッセージ作成を支援している。

この種のテクノロジーを活用したキャンペーンを展開する企業は、枚挙にいとまがない。

技術の普及で参入が容易に

「ARやVRのサービスが普及して消費者間でも広く使われるようになった。マーケターとしては、施策とメディア費を優先的に投入すべき分野だろう」と、フューエルコンテント(Fuelcontent)でクリエイティブ担当エグゼクティブ・バイスプレジデントを務めるマット・ミルズ氏は指摘する。「テクノロジーの『民主化』が進み、導入障壁が取り除かれつつある」。

同氏によると、フューエルコンテントのクライアントはすでに、先端技術を駆使した施策の費用をソーシャルメディアなどのコンテンツ制作予算に組み込み、実験的キャンペーンを展開している。マーケティング戦略の一環としてWeb3ツールをプラットフォームに統合し、ユーザー向け実験的施策に活かす手法は普及しつつあり、ソーシャルメディアの場合はとくに「大した努力をしなくても導入できる」という。「ソーシャルメディアマーケティングを実施している企業であれば、コンテンツにARの要素を織り込むのはそう難しくない」。

ゼノ・グループ(Zeno Group)傘下のWeb3コンサルティング専門シンクタンク、Z3の責任者を務めるロバート・ストーン氏によると、同組織のクライアントは、広告予算の5%から30%をAR/VR分野のイノベーションや実験につぎこんでいる。マーケティングの主要施策とは別に、実験的施策用の予算を設けている企業がある一方で、AR/VRの投資価値を検証中という企業もあるようだ。

「とくに技術志向が強いのが一般消費者向けライフスタイルブランドで、新興ツールを使った実験を積極的に推し進めている」とストーン氏は語る。

慎重姿勢のブランドも

しかし、ヘルスケアなどのニッチブランドは、AR/VR、AIを活用したマーケティングで自社がとるべき立ち位置を見きわめようと、慎重な姿勢をとっているようだ。

「当社では各社のニーズに応じてさまざまなアドバイスをしている。クライアントのなかには、とりあえずテクノロジーの試験運用をしてみて、そこから得た学びを次に活かす積極的な手法を好む企業もある」とストーン氏は話したうえで、「ただしこれは実験用のサンドボックス環境で運用するため、自社のブランドらしさを保ちつつ、少しずつ施策を試すことができる」(クライアントの広告支出額は非開示)と続けた。

AR/VR、AIは最近開発された技術ではないが、Web3が注目を浴び、ソーシャルメディアのアプリ内フィルター機能を通じて各種ツールが利用可能になったいま、存在感を増している。イーマーケター(eMarketer)の調査によると、2022年には全米で8900万人だったARユーザーが、2023年末には9700万人を超えると予想される。ARがさらに広く普及すれば、各社のマーケターも、飽和状態のデジタル広告市場で一歩抜きん出るべく、キャンペーン施策への導入に踏み切るだろう。

イーマーケターの予測では2023年、米国のモバイル広告費は1億9500万ドル(約253億5000万円)に達し、モバイルARユーザーは9700万人に上る見込みで、それに伴いモバイルAR広告需要も増大するとみられる。

広告主は他社との差別化を求める

ロブズ・バックステージ・ポップコーンとザ・ネイキッド・マーケット(The Naked Market)の共同創業者兼CEOであるハリソン・ファグマン氏は次のように述べている。「テクノロジーに投じる時間、労力、資源、予算の配分については熟慮しなければならないが、当社の場合、ブランドが成長し続けるためには、消費者に大きな影響を与えうるテクノロジーの活用で最先端をいく必要がある」。

企業がマーケティング施策に新たなテクノロジーを採用する背景には何があるのか。専門家の意見では、各種ツールが利用しやすくなったのも一因だが、広告主が差別化を図ろうとしのぎを削る、飽和状態のデジタル広告市場もひと役かっているという。リーチ3インサイツ(Reach3 Insights)とザ・ケラー・アドバイザリーグループ(The Keller Advisory Group)が共同で実施した調査によると、調査に応えた消費者の43%が、従来型の広告でなく、VRやメタバースなど、イノベーションを活かしたブランド体験を求めていると回答した。

各種プラットフォームが市場環境の変化に応じて整備されるなか、マーケティング手法にイノベーションが求められる傾向は続くだろう。Snapchat(スナップチャット)を運営するスナップ(Snap)は近年AR施策を強化し、ARを強みとする会社に生まれ変わるべく、事業再編の過程にある。TikTokは2022年春、内製エフェクト制作ツールのエフェクトハウス(Effect House)を利用してAR開発プラットフォームを立ち上げた。

AR/VR、AIはインタラクティブな手法

一方、VRとAIはARに比べ、広く普及するまで時間がかかりそうだ。専門家によれば、広告主はメタバースとコンテンツ生成以外の分野で日々のマーケティング活動に応用できる事例を引き続き模索しているという。

フューエルコンテントのミルズ氏は、AR/VRとAIを活用したマーケティングについてこう述べている。「まずコンテンツありきで広告は二次的なもの、という発想ができるブランドなら、このマーケティング手法により、フォロワーにアクションを起こさせ、有益な情報や楽しめる体験を提供するチャンスに恵まれるだろう」。

つまり、企業だけでなくユーザーもストーリーを語れる、インタラクティブな手法ということだ。ダイレクトレスポンスマーケティングのコストが上がり、競合がひしめく環境下、多くのマーケターにとってブランド認知度の向上が優先課題となった。デジタル広告キャンペーンにインタラクティブな要素を取り入れれば、消費者の関心を引き、画面をスクロールする手を止めさせてブランド関連コンテンツの閲覧に誘導できる可能性が高まる。

景気不安が広告業界にも影を落としている。IMGNメディア(IMGN Media)の最高戦略責任者であるノア・マリン氏によると、一部のブランドはAR/VR、AIを使った実験的施策に及び腰になっているという。理由は、クリックスルー率で測定可能な従来型のダイレクトレスポンス広告に比べ、ROI(投資利益率)が即時に把握できないためだ。しかし、テクノロジーを賢く活用すれば、コンテンツ生成とユーザーのエンゲージメントの加速が期待できると同氏は主張する。「景気後退局面ではよく、新しい技術が誕生する。技術を早期に取り入れて実践に活かしたブランドは、ほかに一歩先んじて優位に立てるだろう」。

[原文:Tech-driven marketing strategies pick up as AR/VR and AI become more accessible

Kimeko McCoy(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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