解約率が徐々に上昇するなか、パブリッシャーが有料購読者の定着を実現できるかどうかは難しい問題になりつつある。しかしながら、購読解約のリスクがどのオーディエンス層でも一様かといえば、そうとも限らない。パブリッシャーの平均的な解約率は上昇している一方、月間契約よりも年間契約のほうが定着率は高いという。
解約率が徐々に上昇するなか、パブリッシャーが有料購読者の定着を実現できるかどうかは難しい問題になりつつある。しかしながら、購読解約のリスクがどのオーディエンス層でも一様かといえば、そうとも限らない。
顧客に全国紙やデジタルパブリッシャーを持つFTIコンサルティング(FTI Consulting)で、テレコム・メディア・テクノロジー部門担当マネージングディレクターを務めるジャスティン・アイゼンバンド氏によれば、パブリッシャーの平均的な解約率は2021年の3~4%から2022年には4~5%に上昇しているが、定着率を見ると、月間契約よりも年間契約のほうがたいてい25~30%高い数字だという。
そのため、パブリッシャーが経常収益の安定化を目指す場合、既存の月間購読者のアップスケールもしくは未購読者に対する年間購読マーケティングで、年間購読の促進を優先させなければならない。
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「年間購読を念頭に対処すれば、解約率も改善する」とアイゼンバンド氏は話す。なお、同氏が担当する、ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)やドットダッシュ・メレディス(Dotdash Meredith)、ガネット(Gannett)、ハースト(Hearst)をはじめとしたパブリッシャーではそうした傾向が見られるかもしれないが、サロン(Salon)などほかのパブリッシャーの購読事業では、まったく逆の現象が報告されている。
サロンでは年間購読費が100ドル(約1万3000円)だが、年間購読者は1年前に契約したことを忘れている場合が多く、更新時にはキャンセルや返金の要請が発生する。サロンでチーフレベニューオフィサーを務めるジャスティン・ウォール氏は、「年に1回、大きな額が請求されると、かなり高い割合で『これは一体何の料金?』となる。それに反して、毎月10ドル(約1300円)の請求なら、次第に見慣れてくるものだ」と話す。
それではパブリッシャーのオーディエンス定着戦略における、月間購読・年間購読の賛否両論をチェックしてみよう。
年間購読の場合
賛成意見
定着率が平均して高め
- その理由:月間購読者は、「購読をキャンセルする」「支払いを忘れる」機会が年に12回ある一方、年間購読者はその機会が1回だけ。
- 特に消費者向けニュースパブリケーションの場合、購読開始52週間後の定着率は年間購読者が約65~80%で、月間購読者は50~60%には届かないとFTIコンサルティングのアイゼンバンド氏は話す。
法人契約の場合、請求は年に一度にすべし
- ブルームバーグ・メディア(Bloomberg Media)が2023年、年間購読を重視するのには、購読料金を企業が支払うオーディエンスにとっては年間購読のほうが楽だからという理由もある。
- 「当社のオーディエンス層を見ると、かなりの割合のオーディエンスが当社の情報をビジネスで利用している。それに、たとえば費用が毎月発生せずにすむので、年間購読のほうが理に適っているのではないかと思う」とブルームバーグ・メディアのチーフデジタルオフィサー、ジュリア・バイザー氏。
ディスカウントマーケティングのビジネスチャンス拡大
- パブリッシャーにとって、購読事業はほかの事業同様、収益の中心である。そのため、月間購読料を割り引くことでより多くのオーディエンスを取り込めるようになるのなら、年間購読額を割り引くよりも、収益の増加を見込める可能性がある。
- 「オーディエンスが年間購読を選びたくなるようなインセンティブを用意すると、年間と月間の価格設定の差異が強調される場合もある。年間購読を通常より大きく割り引いても、定着率が高くなるので、月間購読よりもはるかに価値がある」とピアノの戦略およびソーシャルメディア担当エグゼクティブバイスプレジデント、マイケル・シルバーマン氏。[編註:ピアノはDIGIDAYの契約ベンダーの1社]
- シルバーマン氏によると、一般的な15%オフ(月間購読10カ月分で12カ月分が購読できる価格が目安)ではなく年間購読30~40%オフは、新規購読の増加に貢献しているという。ただし、その根拠となる具体的な数字は提示されていない。
反対意見
解約率の測定に時間がかかる
- 「定着・成長のパターンを見極めるのがむずかしくなる。というのも、パターンの出現に時間がかかるからだ」とシルバーマン氏。その一方で、ピアノのプラットフォームではこの1年、定着率の全体的な向上を求めて、購読期間を長めにして売ろうとする傾向が多くのパブリッシャーの間で顕著に見られるとも同氏は話す。これからの1年でさらにデータが集まれば、この傾向がどうなるのかわかるだろう。
定期的に大きな支払いがあるとなると、特に不況下では、オーディエンスから煙たがられる可能性も
- 「オーディエンスが年間購読したことをすっかり忘れることはよくある。それで、12カ月後にクレジットカードの明細を見て、購読更新の100ドル(約1万3000円)が請求されているのに気づいた人から、『これは一体なんだ、こんな支払いに同意なんてしちゃいない』とメッセージが送られてきたりする」とサロンのウォール氏。
しかしながら最終的には、クレジットカードで支払えずにキャンセルされるような、受動的解約のほうが多い可能性も
- 「クレジットカードで支払えない状況(受動的解約)を考えると少々厄介だ。というのも、年間で請求するときには、前もって支払いを頼まなければならないからだ」とブルームバーグ・メディアのバイザー氏。
- 数百ドル(数万円)の請求となると、はるかに低い月間購読費よりも、クレジットカードの与信限度額を超えるリスクが高い。
月間購読の場合
賛成意見
なかには、年間購読よりも月間購読のほうが、定着率が高いパブリッシャーも
- サロンでは、契約更新時の解約率は月間購読よりも年間購読のほうが50%高いとウォール氏。なお、同社のこの12カ月の平均解約率は2.18%。
料金が低めのほうが、特定のオーディエンス層には訴求効果が見込まれる
- 年間購読は割引率が高くなる可能性が高いが、オーディエンスには単純にその数百ドルが支払えない人たちもでてくる。景気後退時は特にその傾向が強い。
- FTIコンサルティングのアイゼンバンド氏いわく、大半の解約は「ウォレットシェア(財布シェア)の問題。クレジットカードで支払えないという事例が若干増えているようだが、クレジットカードが通らないのはたぶんに不況が影響しているからだろう」。
反対意見
受動的解約の機会が増加
- 料金の面から考えると年間購読には受動的解約のリスクがあるが、全体的にみると月間購読のほうが、クレジットカードの解約や限度額オーバーの可能性が高くなる。
- 「これは解約がどこで増えているのかという問題」だとブルームバーグ・メディアのバイザー氏。「この手の解約はそもそもやむを得ない。年間購読の真のメリットは、クレジットカードが1回通れば、次に決済するのは12カ月後という点だ。ところが月間購読の場合は決済でクレジットカードが通らない可能性が1年に12回生じる」。
オーディエンスがアクセスを習慣化するまでの猶予期間が短い
- 定着するかどうかは、自ら料金を支払ったウェブサイトにオーディエンスがどれだけアクセスするのか、また、毎日あるいは毎週サイトにアクセスする習慣がしっかりと構築されているのか、といった問題である場合が多い。パブリッシャーに与えられたアクセス習慣化の時間枠は、年間購読よりも月間購読のほうがかなり短くなる。
- 「年間契約なら期間が長いので、継続的にその価値を売り込んだり、アクセスが毎日の習慣に組み込まれるようにオーディエンスに働きかけたりすることができる」とブルームバーグ・メディアのバイザー氏。
Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)
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