Amazon 、AWSをテコに広告業界で「領土拡大」を図る:「クリーンルームは厳密には広告ではないが、競争上の強みとなる」

DIGIDAY

マディソン街でAmazonの台頭が明白となったのは昨日今日の話ではない。しかし、その野心の大きさが露呈したのは、同社がメディア事業の収益を初めて公表した昨年のことだ。

2022年第4四半期の決算報告で、Amazonは広告事業の売上として前年比23%増の115億6000万ドル(約1兆5300億円)を計上した。2022年10月には、Amazonマーケティングクラウド(AMC)のデータクリーンルーム製品を含む主要な広告商品を鳴り物入りで公開し、マディソン街攻略の最前線に配置した。

「ものの数分で安全なデータクリーンルームを作成可能」

Amazonのクラウドコンピューティング部門がAWSクリーンルームという切り札を切ったのはこの年の後半だった。Amazonには、この部門にまつわる「透明性の欠如」という懸念を払拭したいとの思いがあったようだ。

シナジーリサーチグループ(Synergy Research Group)の調べによると、Amazonはクラウドサービス市場の3分の1を支配する。同社に続き、マイクロソフトのアジュール(Azure)が21%、Googleクラウドプラットフォーム(Google Could Platform)が11%の市場シェアを握っている。実際、34%というAWSの市場占有率は、Amazonが広告費の獲得を加速させるうえで、他社には真似のできない重要なセールスポイントになりうると見られている。

AWSクリーンルームの発表には、Amazon広告はもとより、サードパーティのアドテク企業、大手エージェンシーグループ、メディア企業ら、数社のパートナー企業も名を連ねた。そのセールスポイントは、さまざまな業種の企業が未加工データを共有することなく、結合されたデータセットを活用してコラボレーションできるように支援するというものだ。

プレスリリースにはこう書かれている。「AWSクリーンルームを活用すれば、ものの数分で安全なデータクリーンルームを作成し、AWSクラウドを利用する他企業とのコラボレーションが可能になる。広告キャンペーンに関して、AWS独自の知見を獲得できる」。

面倒な作業の肩代わり

11月に開催された「AWS re:Invent(リインベント)」の講演者たちはこぞってこう指摘した。共通のウェブインフラを活用することにより、異なるプラットフォーム間のレイテンシーが短縮されるなど、AWSプラットフォームを介して連携する企業たちが「これまで数日を要した作業がほんの数時間で完了する」。

このカンファレンスでは、AWSの広告およびマーケティングに特化した技術チームも紹介された。この部門を統括するのは、ザンダー(Xandr)やAT&Tでデータ責任者を歴任したティム・バーンズ氏だ。AWSを活用するマーケティングおよびメディア業界のクライアントが、各自のインフラ上でアプリケーションを開発し、そこから生まれたソリューションを市場に投入するのを支援するという。

AWS re:Inventに参加したある人物によると、彼らはパートナー企業にこんな質問をしているという。たとえば、開発したり管理したりするのが面倒だと感じるのは何か。誰が作っても大差ないコモディティ化したテクノロジーとはどんなテクノロジーか。「基本的に、もう自分でやりたくないこと、自動化が必要な作業について尋ねている」とこの人物は語った。

匿名で取材に応じたこの関係者はさらにこう話す。「AWSは開発者のためのオープンプラットフォームで、基礎的なデータは各自の環境内にとどめ置かれる。セキュリティやデータについては、すでにAWSの基本原則でしっかりと定義されている」。

もはや単なるアドテクではない

最近、米DIGIDAYの取材に応じた別の関係者もこう指摘する。「広告事業の市場シェア拡大をめざす巨大IT企業たちは、プライバシー保護に関する要件を満たすためにも、クラウドコンピューティング事業に注力せざるを得ないだろう。もちろん、分かりやすさと魅力的な価格も重要だ」。

ユー・オブ・デジタル(U of Digital)でイノベーションとインサイトの責任者を務めるマイルス・ヤンガー氏は、アドテクとクラウドインフラの収斂(しゅうれん)に言及し、「業界最大手といわれる企業の多くがこうしたコンバージェンスを競争優位と見なしている」と指摘した。「Amazonにしても、AWSクリーンルームは厳密にはAmazon広告ではないが、競争上の強みとして利用していることは明らかだ」。

一方、ユー・オブ・デジタル創業者のシヴ・グプタ氏によると、巨大IT企業が提案する各種の製品やサービスは、今年のCESの経営幹部向けイベントでまとめて紹介された。グプタ氏はこう話す。「この半年のあいだに、彼らは多くのものを発表してきた。見て分かる通り、彼らは[Amazon広告クリーンルーム]AMCや[AWS]クリーンルームを統合し、それをさらにAmazon DSPにつなぎ戻している。ゆくゆくはこれらすべてが収斂に向かうだろう。それはもはや単なるアドテクではない」。

一方、マドテクアドヴァイザーズ(MadTech Advisors)のボブ・ウォルザックCEOは、Amazonがクラウドコンピューティング市場に対して持つ支配力の大きさから、同社を「800ポンドのゴリラ」と呼び、この優位性が広告業界進出への大きな推進力になると指摘した。

クリーンルームを武器に業界を席巻するか

現在の広告業界には、(あれこれ騒がれる割には)クリーンルームに関する技術標準がない。ウォルザック氏によると、IABテックラボ(IAB Tech Lab)はクリーンルームの相互運用性に関する指標を年内に導入したい意向という。

ウォルザック氏によると、Amazonはこの「領土争奪戦」で首位に浮上する最有力候補であるという。「新たに公開したクリーンルームをテコに、Amazonは業界の広範囲を瞬く間に掌握するだろう」と同氏は話す。「そしていまや彼らこそが業界標準になろうとしている。率直にいって、AmazonはIABテックラボと連携しながら、業界を自分たちの標準へと誘導するのだと思う」。

さらに、匿名で取材に応じた別の関係者は、Amazonが各種の製品をパートナー企業に売り込む手法を直接知っているといい、特に企業の調達部門が交渉に関与してくる場合、各種製品のシナジーを提案できることはAmazonの大きな強みであると述べている。

「グループ交渉を検討する広告主はますます増えている。[クラウドコンピューティングとメディアを合わせて協議すれば]両方の側面で有利な価格交渉ができるからだ」とこの関係者は話す。

「まずは商取引上のシナジーからはじめて、技術的なシナジーに話を進めることもできるだろう。このような交渉がより深いレベルでおこなわれるようになっている」。

[原文:How Amazon is leveraging AWS to accelerate its courtship of Madison Avenue

Ronan Shields(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)

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